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 兄様に愚痴った次の日から、本当に殿下たちをみなくなった。やっぱり忙しかったんだろう。学園では、今度文化祭が開催されることになっている。生徒会はその準備でてんやわんやのはずなのだから。

 殿下たちの姿を見なくなったことで、私も変な絡まれ方をすることはグンと減った。よかったよかった。



 この学園の文化祭は、前世に通った学校と違って、出店などは存在しない。正しくは、生徒はそんなことをしない。貴族である私たちに求められる文化とは、「教養」や「優雅さ」であり、出店を出すことではないのだ。

 オペラや音楽を聞いたり、芸術を鑑賞したり。もちろんそれらはプロによるもので、私たちが行なうのではない。学生が主催するものもあるけれど、圧倒的に数が違った。

 「文化祭」とは国の文化に触れることであり、前世のような学生たちのお祭りでは決してなかった。

 とはいえ、貴族たちにとっては、これはこれで歴としたお祭り。出店はでないけれど、飲食店はちゃんと出るし、2日目の舞踏会ではご馳走もでる。一大イベントであることに変わりはなかった。


 そして、私は今。姉様と二人で、舞踏会用の新しいドレスを選びに、街へと繰り出しています。



 「姉様、この生地なんてどうですか?」



 「あら、手触りが素敵ね」



 「はい! 姉様にはこの色も合うと思います!」



 「ふふふ、じゃあそれをあててみようかしら」



 いろいろな布に囲まれて、姉様と一緒にドレス選び。ああ、最高だ!


 私も姉様も貴族だ。お抱えのお店はあるし、呼べば家にだって学園にだって来てくれる。それでも街に降りてきたのは、ちゃんと理由がある。

 家に呼んでも、彼らが持ってこれる量には限界がある。直接お店に来たときに見れるものとは、数が違うのだ。どうせなら、いろいろなものを見て、姉様にぴったりのドレスを選びたい。それは当然の思考だと思う。だからこそ、個室ではなく店頭で直接いろいろな生地を見ているところだった。

 前世では庶民だった私にとって、前世では見ることさえ出来なかったような豪華なドレスに囲まれるのは夢のような体験だ。何回体験しても慣れないし、見るたびにテンションがあがる。それも、既製品ではなくオーダーメイドで頼めるなんて、楽しくないはずがない。

 自分が好きな人に、自分が好きなドレスを贈る。こんなにも楽しいショッピングができるなんて、生まれ変わり万歳だ!



 「デザインはどうしますか? 生地はともかく、色はデザインにも左右されますし」



 私たちの前に広がっているのは、布だけではない。様々なデザイン画も広げられている。

 オーダーメイドとはいえ、ゼロからドレスを選ぶのは素人の私たちには難しい。好みの布とデザインを選んで、他にも要望があれば伝えて、後はプロにお任せする。これがこの世界の貴族の買い物方法だった。



 「そうねぇ・・・アリアちゃんはどうするの?」



 「私はいつもどおりシンプルなものにしようかと」



 「そうなの? もったいないわ」



 二人できゃいきゃいと話していたら、どうやら新しいお客が来たらしい。それも、私たちを知っている人のようで。



 「おや、ミーシャ嬢にアリア? 二人も来てたんだね」



 聞き覚えのある声に、私は思わず動きを止めてしまった。最近会っていなかったから、完全に油断していた。

 いや、学校を離れてまでなんで会うんだ。普通会わないでしょう、なんでこんなところにいるんだ。暇人なのか? 生徒会の仕事はどうしたんだろう。



 「あら、殿下。このような場所に御用ですか?」



 疑問は姉様も同じだったらしい。私を庇うように殿下に向き合い、言葉を交わしている。



 「ああ。城で頼んでいたものが今日できると聞いたものだから、取りにきたんだ」



 まさかの王室御用達! あ、いや、うん、でも、公爵家であるうちが贔屓にしてるんだ。王族がいても、おかしくはないんだった。

 タイミングは最悪だけど!!!



 「君たちはドレス選びかい?」



 「ええ。でも当日まで秘密ですよ」



 ・・・・・・姉様と仲良さそうだ。え、これダメじゃない? 駄目なやつじゃないの? 兄様がいない時に、なんでこんなところでエンカウントするんだ、本当に!!



 「随分静かだね。気分でも悪いのかい?」



 「!!」



 び、びっくりした! いきなりドアップとかやめて欲しい!!! っていうか、姉様と話してたんじゃなかったの!?

 思わず後ずされば、姉様が割って入ってくれた。



 「近いですよ、殿下」



 姉様ににっこり笑顔で窘められて、殿下がくすくす笑いながら距離をとる。けど、私の心臓はまだ驚きすぎてどくどくと煩かった。



 「ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくて」



 普通驚くわ! え、驚くよね!? 私の感覚がおかしいわけじゃないよね!? 何言ってるんだろう、この王子!



 「・・・私はこういうドレスが好きだな」



 「・・・はい?」



 困惑している私の前で、殿下が目の前に広がったデザイン画を一枚拾い上げて、私に渡す。



 「気が向いたら、是非着てね」



 それだけ言い残して、殿下は奥の部屋へと去っていく。え、何。ほんと何。え。なんなんだ今の。姉様に対するアピール? アピールだよね? 好みの服を着て欲しい、っていうそういうやつだよね!?

 絶対ダメじゃん!!!



 「・・・姉様、これは外しましょう」



 「・・・ええ。アルにも言っておくわ」



 アル、とは兄様の愛称だ。姉様や殿下のように親しい友人は、兄様をそう呼ぶ。ちょっとした特別が見れるだけで、いつもなら顔がにやけてしまうけれど、今はそうも言っていられない。

 なんだ今のは。ほんとなんだったんだ。

 姉様も同意してくれたので、これでこの話はなしだ。殿下好みの服を着て、姉様に惚れられたりしたら困る。すごく困る。なしなし。



 「なんだか、急にどっと疲れました・・・」



 「そうね・・・今日は生地と色だけ決めましょうか。アルも関わりたいと言っていたし、デザインは後にしましょう」



 「はーい」



 元気に返事をして、思考回路を切り替える。生地は、うん。殿下が来る前まで見ていたこれがいい。色は・・・まだ迷うけど、姉様の色を見ながら決めよう。

 二人できゃいきゃいと騒いでいたら、あっという間に時間が過ぎていく。その後、結局1時間くらいかかって、私と姉様は元の生地を決めて、複数のデザイン画をもらって、お店を後にした。






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