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5 ※アーダルベルト視点






※アーダルベルト視点







 僕の妹は可愛い。それはもう世界一、いや、宇宙一といっても過言ではない。金色のふわふわの髪に、巨大なエメラルドを思わせる瞳。頬も唇も真っ赤で、白い肌とのコントラストが美しい。まるで天使のような彼女がこの世に生を受けたそのときから・・・正確には、彼女が小さな手で僕の指を握ってくれたあの瞬間から。僕は彼女が愛しくて愛しくてたまらなかった。

 そんな僕の思いが通じたんだろう。アリアは、僕にとても懐いてくれた。どこにいくにも付いてくる、小さくて可愛いアリア。溺愛するなというほうが無理がある。


 そんな僕には、共犯者と呼ぶべき相手がいる。名前はミーシャ。僕の婚約者だ。

 僕と彼女の出会いは、とてもシンプルなものだった。子供の頃、父に連れて行かれた屋敷。屋敷の主と話があるという父は早々に席を外し、僕とアリアは二人で庭に残された。

 見慣れない庭、見慣れない花々を前に、元気よく駆け回っていたアリアを見守っていたときだった。



 「「天使がいる(わ)」」



 最後の一文字以外、見事に言葉が重なった。あまりにもピッタリなそれに、お互いにびっくりして、顔を見合わせた相手。

 それが屋敷の娘・ミーシャだった。

 その後、アリアの可愛さを語っていたら、見事に意気投合。以来、僕たちはアリアを見守る会を結成した。よく行動を共にするようになった僕たちを見て、両親が婚約を結ぶまでに時間はかからず。



 「ねえさまが、できるんですか?」



 零れるんじゃないか、っていうくらい大きな瞳を輝かせて、アリアがそう聞いてきた瞬間。僕たちの婚約は確定した。


 つまり、僕たちはアリアがきっかけで出会い、アリアを中心に生きてきた。これからもきっとそうなのだろうと思っている。

 アリアがミーシャに懐いている。それ以上に、僕の婚約者としてふさわしい人などいないのだから。






*****






 「それ本当?」



 「ええ、残念ながら」



 ミーシャから昼休憩にあったという出来事を聞きながら、僕は思わず額に手を当てた。



 「アリアちゃん、何が起きてるかわかってないみたいだったわ。でも、嘘としか思えないことを言った、ってことは、私に知られてはいけないことだとは思ってるみたい」



 「君に言わないんだ。僕にも教えてくれない可能性が高いな」



 アリアとミーシャは、たまに僕にも内緒の「女の子の秘密」とやらをする。といっても、内容は些細なものだ。ケーキを1日に2つ食べちゃったり、新しいドレスをパーティーまで内緒にしていたり。微笑ましいものばかりだとわかっているから、ミーシャが何も言わない間は二人の秘密には口を出さない。

 だけど、ミーシャにも言わないとなれば話は別だ。アリアはああ見えて頑固なところがある。僕にも教えてはくれない可能性は高かった。



 「相手の家は押さえているけど、どうする?」



 ミーシャの口調からは、怒りが溢れている。実際に現場を見ている上、アリアには何があったか教えてもらえていないのだ。よほど頭にきているのだろう。

 かくいう僕も、腹の奥底では怒りが満ちている。どこのバカだか知らないけど、ミューラー公爵家の娘に手を出そうなんて、いい度胸している。本当なら、今すぐ鉄槌を加えてやりたい。やりたいけど。



 「・・・もうちょっと様子を見るよ。アリアにも何か考えがあるのかもしれない」



 「そう。貴方がそう決めたのなら、私は何も言わないわ」



 優しいアリアのことだ。すぐに相手の家に何かがあれば、心を痛めるかもしれない。

 それに、彼女は僕の妹。例え理由がわからなくても、自分が何をされているのかは理解しているだろう。それでも反撃をしないということは、何か思うことがあって黙っているのかもしれない。僕が引っ掻き回すには、まだ早いだろう。



 「助かる。でも、できるだけ目を離さないでおいてくれる?」



 「ええ、もちろん。2回目があったらつい手が出てしまうかもしれないけど、許してね?」



 ミーシャが悪戯っぽくウィンクするのを見て、僕は苦笑するしかない。許すも何も、僕も同じことをするだろうから、お互い様だ。まったく問題はない。



 「一応、僕からも聞いてみるよ」



 「お願いするわ」



 さて。今日は久しぶりにアリアと二人で話さなきゃな。






*****






 「アリア、今いいかい?」



 家に帰って、夜になって。アリアの部屋の扉をノックすれば、すぐに中から天使が出てきた。



 「兄様! どうしたんですか?」



 「アリアとゆっくり話したいなぁ、と思って。中に入ってもいい?」



 「はい、もちろん!!」



 アリアが満面笑顔で許可を出してくれたので、僕は遠慮なく彼女の部屋に入る。一緒に連れてきていたメイドがテーブルにティーセットを用意すると、一礼して立ち去っていった。これで部屋の中には僕たち二人だけだ。

 椅子を引いてエスコートすれば、アリアは嬉しそうに笑って、ちょこんと座った。もうほんと、こういうところがいちいち可愛くて困る。僕の妹は今日も可愛い。



 「兄様とお茶するの、久しぶりです」



 「先週もしなかったっけ?」



 「私は毎日だってしたいので、一日空けば久しぶりだと思っちゃうんです」



 にこにこと、誰がどう見ても嬉しそうに笑いながらそんなことを言われたら、誰だって伝染してしまう。気付けば僕もにこにこと笑って、アリアの前に腰を下ろしていた。



 「忙しくてごめんね」



 「わかっています。どうぞ気にしないでください」



 そう割り切られるのは、少し悲しい。「会いたい」なんて我侭なら、いつだって言ってくれていいのに。

 そう思った僕は、続いたアリアの言葉に思わず言葉を失ってしまった。



 「それに、生徒会のお仕事をされてる兄様はかっこいいので、大好きです」



 「・・・・・・」



 ・・・おわかりいただけるだろうか。アリアはこういう子なのだ。


 彼女の好意は、とてもストレートだ。恥ずかしげもなく、思ったことを口にする。それも満面の笑顔で。裏表なんてあるはずもない。本当に、そう思っているのだとわかるから、こちらのほうが恥ずかしくなってしまう。

 こんな可愛い妹! 世界中を探したってアリア以外にいないだろう!!



 「兄様?」



 「ああ、ごめん。アリアに褒めてもらえるならもっと頑張ろうかな、って考えてた」



 危ない。ちょっと思考がトリップしてた。トリップはいつでもできるけど、今は可愛い妹を優先する時間だ。

 誤魔化すように笑えば、アリアはまだ心配そうに僕を見ている。



 「無理はしないでくださいね? かっこいい兄様は大好きですけど、倒れてしまわないか心配です」



 「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」



 ああ、もう本当に。この一言だけで、どこまでだって頑張れそう。僕の妹は今日も最高の癒しだ。

 アリアがほっとしたように笑って、お茶を一口飲む。僕も同じようにお茶を飲んで、ソーサーにカップを戻したときだった。



 「・・・そういえば兄様。殿下たちは、お忙しくはないのですか?」



 「マリナー? どうして?」



 まさかの人物名に思わず聞き返せば。



 「最近、よくお会いするんです。殿下にもオーウェン様にもパーシェル様にも」



 「へ~~~~~~~?」



 何それ初耳。ちょっと詳しく。

 そんなことは言わなかったけれど、アリアは困ったように笑いながら言葉を続けた。



 「昔みたいに構ってくれるだけだと思うんですけど、結構頻繁で・・・そのせいだと思うんですけど、他の令嬢たちに羨ましがられてるみたいなんですよね」



 「・・・・・・」



 あいつらのせいか!!!!!!!!


 OKだ、理解した。あいつらが原因だというのなら、アリアが下手にやり返さないのも理解できる。あれでも校内の人気者で、注目の的だ。やり返せば更なる誤解を招くだけだろう。

 ミーシャにも言えないはずだ。ミーシャが何かすれば、また違う誤解を招くだろう。主に恋愛方面に広がるだろう誤解を、ミーシャを姉様と慕うアリアが許せるとは思えなかった。



 「わかった。僕からきつく言っておくよ。生徒会忙しいし、明日からは会わなくなると思うから安心して」



 「あ、やっぱりそうですよね。兄様にだけ仕事をさせるなんて、殿下たちも酷いです」



 「本当だよ」



 アリアの中で彼らの株は下がっているようなので、全力で同意する。本当のことは今は関係ない。アリアにちょっかいを出すほうが悪いんだ。

 聞きたかったことが聞けて、僕は満足した。大変満足だ。あとはもう、安心してアリアの話を聞いていられる。

 学校であったことや、ミーシャと二人で行ったカフェの話を、一生懸命話してくれるアリアは本当に可愛い。


 あいつら、明日学校で会ったらどうしてくれよう。


 そんな思考は出来るだけ顔に出さないようにしながら。僕は久しぶりのアリアとの癒しタイムを、心置きなく満喫した。






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