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 子供の頃から知っているせいだろうか。私にとっては、殿下もオーウェン様もパーシェル様も、普通の女性のような憧れの対象にはならない。

 それはね、綺麗な人たちだと思うし、かっこいいとは思う。

 けど、かっこよさなら兄様が一番だし、綺麗さは姉様が一番だ。お二人相手にならばいくらでもきゃあきゃあ騒げるが、殿下たちにそういう感情はまったく湧かない。転生前の純粋な気持ちなどもうないのだ。


 なので、この状況が心底理解出来ない。



 「貴女、殿下だけではなくオーウェン様やパーシェル様にも色目を使ってるそうじゃない」



 「どこまで見境がないの?」



 「信じられないわ」



 いつぞやと同じメンバーの人たちに囲まれています。えーーーーー・・・・・・


 彼女たちは口々に殿下たちに手を出すんじゃない、という旨のことを言っているけれど、私は手を出した覚えなんて欠片もない。そりゃあ、兄様と姉様に何かあれば物理的に手が出る気がするが、そんなことも今のところはない。

 完全に無罪だ。



 「あの、具体的にはどのような・・・?」



 「まぁ! あれだけのことをしておいていただきながら、知らないと!?」



 「呆れてものも言えませんわ!!」



 あー・・・これ前もあった・・・話を聞いてもらえないパターンのやつだ。


 察すると同時に、彼女たちの怒号にも等しいさえずりが大きくなる。いつまで続くんだろう、これ。具体的なことを教えてもらわないと、直しようもないんだけどな。

 というか、これ、本来は逆じゃない? 私が苛める側じゃない? 悪役令嬢なんだから。本当に、何がどうしてこうなったんだ。誰か教えてください。


 ぎゃんぎゃん喚いている彼女たちの言葉を右から左へ受け流しながら、現実逃避する。それが、癇に障ったのだろうか。



 「ちょっと、聞いてまして!?」



 どん、と唐突に肩を押される。無防備だった私は反動に逆らえず、ぺたんとお尻をついてしまった。



 「あら、無様」



 くすくすと笑われたけど、なんというかもうほんとくだらない。誰のせいでこうなったと思ってるんだ。こんな人たちが国を支える貴族って、むしろこの国の行く先が心配になってきた。

 無言で呆れる私をどう思ったのだろう。彼女たちが再びさえずり始めた時だった。



 「貴女たち、そこで何をしているの?」



 響いた声は、この場に澱んだ重い空気を払うような、凛とした声。

 あーあ・・・前は殿下に見つかったし、この人たち運がないなぁ。



 「そこにいらっしゃる方は、私の妹ではなくて?」



 にっこりと仮面のように張り付いた笑顔を浮かべているのは、私の姉様だ。颯爽とした登場に、うっかり心がときめいた。


 ああ、なんてかっこいい! これが私のお姉様!


 が、ときめいていられるのは私だからだ。先ほどまで勝ち誇ったような顔をしていた女生徒たちは、一気に顔色を青く染めている。



 「アリアちゃん、何があったのか教えてくださらない?」



 口をはくはくと動かすだけの彼女たちに代わり、姉様の矛先が私に向いた。私はまだ地面に座ったままだったけど、その体勢のまま口を開く。



 「少し転んでしまいまして。彼女たちは手を貸そうとしてくれただけです」



 私の言葉に、姉様の笑顔が更に凍りつく。

 ああ、これは私も答えを間違えたかもしれない・・・ぞ・・・?



 「そう・・・」



 すっと姉様の目が細くなる。あ、これ駄目なヤツだ。絶対間違えた。

 思わず背筋が伸びた私に気付いてるだろう。でも姉様は私を見ないまま、にっこりと令嬢たちに笑いかけた。



 「それはありがとうございました」



 姉様の笑顔に不穏なものを感じているのだろう。令嬢たちは無言で首を縦に振るだけで、口を開こうとはしない。

 そんな彼女たちから視線をそらし、笑顔の姉様が私を見る。



 「救護室に行きましょう。立てますか?」



 「あ、はい」



 姉様に差し出された手をとって、立ち上がる。どこも怪我はしていないのだから、救護室にいく必要なんてないんだけど・・・

 ・・・・・うん。姉様の笑顔が怖い。逆らわないほうが良さそうだ。






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