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※アーダルベルト視点











 2回戦にして準々決勝。去年は当たらなかった相手を前に、感じるのはもやっとした感情だけだ。



 「随分と苛ついてるわね」



 「ああ。いろいろあったからね。君がいないところで」



 目の前にいるのは、気心知れた相手。ミーシャ相手に取り繕う必要などない。僕たちの会話なんて、客席までは聞こえないだろうし。

 僕の言葉にミーシャが苦笑する。それを見て、審判の騎士が片手を掲げた。



 「お互いに構えて」



 鞘を持ち、剣の柄を握る。



 「はじめっ」



 剣を抜くと同時に、手に衝撃。抜きざまに放った一撃は、甲高い金属音を上げてお互いに届くことはなかった。



 「早っ」



 「ありがとう」



 「どういたしまし、てっ!」



 力任せに掲げた刃を振り切れば、ミーシャは後方に飛んで剣を構え直す。同じように僕も剣を構え直しながら、一度深く深呼吸をした。

 ミーシャの剣は軽い。嫌味ではなく、物理的な意味でだ。いくら強いとは言っても、ミーシャはパーシェルほど鍛えているわけじゃない。女性の中では筋力がある方だろうが、あくまで女性と比べた場合。男性と比べれば力で劣るため、力勝負は捨ててスピードを徹底的に鍛えている。そのために、わざと剣を軽くしているのだ。

 もちろん、一撃が軽いからと言って、油断していると痛い目を見るわけだが。



 「荒れてるわね」



 「君相手に隠す必要もないだろ」



 「まぁそうだけど」



 再び響く金属音。ああ、ほんと、イライラする。



 「一回戦じゃ足りなかった?」



 「足りないね。アリアの顔も見れなかったし」



 「遠いものね、VIP席」



 会話をしながらも、僕たちの手と足は常に動いている。ああ、もう、ほんと早いな。受け止めるだけで精いっぱいだ。

 ちらりとミーシャの視線が動く。釣られるように同じ方を見れば、そこにはVIP席と、その中にいるだろうアリアがいた。

 ・・・ああ。可愛いアリア。君の我儘は、すべて聞いてあげたいけど。

 叶えたくないものもあるのだと、君は気付いているだろうか。



 「アル、駄目よ」



 「何が」



 「お願いされたんでしょう? アリアちゃんを悲しませるのは駄目」



 「・・・よく知ってるな」



 「パーシェルに聞いたから」



 あのお喋りめっ!



 「その顔も駄目。隠せるものでもないんだから、パーシェルを責めないの」



 「・・・今日はずいぶんお喋りだね」



 「そうねぇ。ちょっとテンション上がってるのかも。だから、いくらでも付き合うわよ?」



 言いながら、ミーシャの剣が目の前をかすめる。ほんっとに、容赦ないな!!

 体を反転させた勢いで剣を振るう。ミーシャは避けることもなく正面から受け止め、にっこりと笑った。



 「仕合ましょう。思う存分」



 ・・・なんていうか、こういうところ僕の婚約者だって実感するな。嫌ってくらい僕に似てる。



 「そうしよう。無駄話なんてできないくらい、ねっ!」



 僕は今、どんな顔をしているだろう。自分でもよくわからない。

 わかるのは、ミーシャが満足そうに笑っていることだけ。そして、目の前に迫る白銀の輝きだけだ。


 剣を振るう。上へ、下へ、右へ、左へ、そして前へ。そのたびに鈍い音が響いて、僕とミーシャの視線が交差して、離れていく。

 ああ、楽しい。

 鋼の輝きの向こう側。戦いやすいようにだろうか。いつもと違って一つに結ばれている髪が、動きに合わせてゆらゆらと揺れる。髪色と相まって、まるでラベンダー畑にいるみたいだ。その中心で光るのは、深い碧眼。

 場違いだとわかっているけれど、花畑に隠された宝石を探している気分だ。



 「ほんと綺麗だなぁ」



 言葉は勝手に口から零れていた。言おうと思ってなかったし、そう思ったことも認識していなかった。

 ただ、ミーシャがぴたりと動きを止めて。



 「・・・・・・・・・・・・っ!?」



 顔色を真っ赤に染めたから。自分で言った言葉の意味をやっと理解して、僕の方まで赤くなってしまった。



 「い、今のなし!」



 「なしにできるわけないでしょ!?」



 「それでも! なしにして!」



 二人で叫び合えば、緊張感が一気に溶けてしまった。ミーシャなんて剣の鞘を投げつけてきた。照れ隠しだとわかってるけど、何でも投げるのは悪い癖だと思う。代わりに僕も投げてやったけど。

 がしゃん、がしゃん、と交互に鞘が床に落ちる音がする。と同時に、響いた制止の声。



 「そこまでっ!!」



 ・・・・・・はっ!?



 「時間切れです。引き分けですね」



 ・・・・・・こ、こんな終わり方ってある!? 騎士の目がなんだかとっても生暖かいんだけど!!

 くっ・・・鞘を投げてしまったから、剣を収めて体勢を整えることもできない。なんだかとっても居た堪れない。



 「勝敗はどちらに?」



 がくりと項垂れている僕に、騎士は当然の質問を投げかけてくる。確認するようにミーシャを見れば、彼女は僕の投げた鞘を拾っているところだった。

 見れば、僕のすぐ足元にはミーシャの鞘。拾い上げてミーシャに差し出せば、同じように彼女も僕の鞘を差し出した。



 「勝利はアルに。私はここまででいいわ」



 「力量はほとんど変わらないようにお見受けしましたが」



 この騎士、ちゃんと見てたんだな。良い目だ。・・・悔しいけど。僕も鍛えたけど、ミーシャも鍛えてたんだろう。勝ちたかったなぁ。

 そんなことを考えていたら、ミーシャは僕を見て、いつもとは違う顔で笑った。



 「殺し文句を言われたからね。アルに打算なく褒められるなんていつぶりかしら」



 ・・・・・・・・・・・・



 「さっきのはなしって言った!!」



 「無理な話よ。さぁ、騎士様。アルに勝利の宣言を。私は早くアリアちゃんのところに行きたいので」



 「ミーシャ!!」



 「はいはい、痴話喧嘩はぜひ後で」



 痴話喧嘩ってなんだ、痴話喧嘩って!

 ってか、アリアのところ!? 絶対に報告するつもりだろう! 仮に今日阻止しても、後日絶対にいう顔だ! ミーシャのこういうところ嫌いだ!! いや、アリアは喜ぶかもしれないけど・・・僕が居た堪れない!

 騎士が勝者として僕の名前をコールする。けれど、僕の脳裏はすでに、口止め料に何を犠牲にするか考えるので精一杯だった。
















*****






※アリア視点











 兄様と姉様の試合は、見ているだけでも手に汗握るものだった。

 怪我しないか、とか、応援しなきゃ、とか、どっちにも負けてほしくない、だとか。

 とにかくいろんなことを考えてしまって、とても冷静な気持ちでは見れなかった。あまりにも見るのに必死すぎて、望遠鏡を使うことさえ忘れていた。

 試合は本当にあっという間だった。タイムオーバーまで一瞬で過ぎた。10分なんて絶対に経ってない。そう思ったけど、時計は確かに10分経っていて、どっと疲れがでた。


 姉様が負けた。いや、正確には、引き分けた後で兄様に勝ちを譲ったみたいだった。ゲームの中の兄様ルートのイベント通り。これでまずはパーシェル様ルートは完全に消えたことになる。

 そう。これはゲーム通りの展開だ。だけど、姉様の気持ちを思うと、素直に喜んでいいのかどうかわからない。



 「・・・オーウェン様、姉様のところに行ってきてもいいですか?」



 「行かなくてもすぐに来ますよ。すれ違わないよう、ここにいるほうが確実です」



 それもそうか。ここ、VIPルームであると同時に、臨時の運営部屋みたいなものだもんね。生徒会である姉様が来る場所は、一般の観覧席じゃなくてこっちのはずだ。

 オーウェン様に諭されるまま、そわそわしながら待つことしばし。次の殿下の試合が始まる前に、姉様は戻ってきた。



 「姉様ー!!」



 「ごめんね、アリアちゃん。負けちゃったわ」



 「いえ、いえ! 一番辛いのは姉様ですし、私に謝ることなんてありません!」



 「辛い? いいえ、辛くはないわ。口止めされちゃったけど、いいことはあったから」



 いいこと?

 思わず首を傾げたら、姉様の綺麗な指が唇に触れ、



 「内緒」



 って、嬉しそうに笑われたらさー! なんかもう、それ以上聞けるはずないじゃないですか!!

 そうだよね、そうだよ。これは乙女ゲームのイベント。それもスチルが発生する特別イベントだ。具体的な内容ほとんど覚えてないけど、お二人の間に恋愛イベントが起きてても何も不思議じゃない。

 そっかー! じゃあ問題ないですね!!

 姉様と兄様の仲が順調だとわかれば、勝敗の行方など些細なことだ。姉様が気にしていないことを、私がずっと引きずっても意味はない。


 気持ちを切り替えて、それからの試合は姉様と一緒に見た。まずは殿下。ちょっと苦戦してたように見えたけど、勝ったのは殿下だった。

 次はパーシェル様。こちらは余裕で勝利。相手の人が可哀想になるくらい。


 これでベスト4は出揃った。エミリオ様、兄様、殿下、パーシェル様。予想通りの顔ぶれ、ゲーム通り。次は準決勝。

 兄様とエミリオ様の戦いだ。











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