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エミリオ様と別れて客席に着くと、そこはもう人で溢れていた。・・・うん。想像通りです、はい。完全に出遅れた。
どうしようかと思っていた私を助けてくれたのは、クラスの人たちだ。私の姿を見るなり手招きして、一番前の席を案内してくれた。曰く、
「アリア様は小さいから、後ろの方では見難いと思って」
・・・・・・悪気はないのはわかっている。し、助かったのも事実。「ありがとうございます」って笑って言えた私を、誰か褒めてほしい。
開き直って一番前の席に座って、皆さんと話しながら開始を待つ。ああ、そうだ。始まる前に、今回の大会の説明を少ししておこうかな。
まず、武術祭はトーナメント形式、つまりは勝ち抜き戦だ。組み合わせはこの後始まるくじ引きで決まる。客席の前でくじを引くことで、不正がない証明としている、らしい。
肝心の勝負は、一試合10分の一本勝負、引き分けあり。武器は自由持ち込みだ。
「参った」と言わせたり、剣を弾くなどして戦闘不能に追い込んだら勝ち。リンク? 土俵? ・・・なんていうのかわからないけど、そこから相手を落としても勝ちだ。つまり場外も負け。見てる側としては、場外が一番シンプルでわかりやすい。
10分経過した場合は、引き分けになる。この場合は、当人たちの話し合いで勝敗が決まる。武術祭にでるのは、貴族か騎士を目指す人たちだ。騎士道精神の名のもとに、自分が劣っている場合は素直に認める潔さが求められる。ここでダダをこねたり不正を働くような人は、目指す立場に見合わないと判断され、将来に響く。引き際を見誤らないことも大事、というわけだ。
なお、武器は真剣が許可されているので、怪我もよくある。例えそれが貴族を傷つけたとしても、武術祭とはそういうお祭り。怪我したくないなら出るな。それだけのことだ。
あ、もちろん、殺しはダメだよ。絶対ダメ。ノー。
そんな上級トーナメントの参加者は全部で16人。注目はもちろん、前年優勝者のパーシェル様。去年の準優勝者をはじめとした上位入賞者はみんな卒業してしまったので、今年はどうなるかわからないのも見どころだ。クラスの人たちも、誰が準優勝するのか各々の予想で盛り上がっている。
ちなみに、ここは上級トーナメントの会場で、中級と初級はそれぞれ別会場になっている。全部を一か所でやってたら、時間がいくらあっても足りないからね。会場が分かれるのは仕方ない。
っと、いつの間にか開始時間になってたみたいだ。ランス様をはじめとした騎士団の人たちに続いて、兄様たち選手の皆さんが会場にやってくる。兄様と姉様は私に気付いたようで、二人そろって手を振ってくれた。それが嬉しくて夢中で振り返したら殿下たちも気付いたようで、なぜか苦笑されてしまった。解せない。気にしないけど。
会場の中央に騎士団の人たちと選手が向かい合うように整列する。
「これより組み合わせの抽選を行う。選手は学年の低い順に引きに来なさい」
広い会場にランス様の声が響き渡る。と同時に、ランス様の後ろから箱を持った騎士の人が一歩前に出た。学年の低い順に入場していたので、一番前の子から順番にくじを引いていく。結果はその場で騎士の人たちが紙に記載して、それがそのままトーナメント表となる。
次々と埋まっていくトーナメント表を眺めていたら、例の賭けの相手の番になった。引いた番号は2番。一試合目か。それなら実力を見るのにもちょうどいいかも・・・と思っていたら。
「・・・うっそぉ・・・」
なんとエミリオ様。1番を引いた・・・ええええ、うそでしょ。なんでいきなり一回戦で当たるの。どんな確率ですか。びっくりする・・・でも、早々に勝負がつくなら、それはそれでいいかも。兄様と姉様の試合に集中できるもんね!
くじ引きはどんどん進んでいく。兄様と姉様は順当にいけば2回戦。お二人の勝者が、3回戦となる準決勝でエミリオ様と戦うことになりそうだ。殿下とパーシェル様は逆側の組になったので、決勝戦で勝ったほうと当たることになる。
うん。ほとんどゲームのままだ。エミリオ様以外は。いや、悪役のエミリオ様の詳細な記載がなかったか、あっても覚えてないだけだけどさ。
「組み合わせは決まりましたね。それでは、これより武術祭上級トーナメントを始めます。皆様の健闘を祈ります」
ランス様の言葉に合わせて、参加者が一斉に胸に拳を当てた。これをもって、最初のパフォーマンスは終了。
「一回戦を始めます。1番エミリオ殿、2番ティトゥス殿以外は退場を願います」
ああ、ドキドキの一回戦が始まる。
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一回戦は、開始早々白熱したものとなった。
エミリオ様はシンプルな剣。対する・・・えっと、なんだっけ。名前忘れた。えっと・・・・・・賭け相手の人は、双剣だった。この世界では珍しい二刀流。現実の二刀流って腕力的に難しいと思ってたけど、ゲームの世界だから何でもありだなぁ。
会場に響くのは、金属同士のぶつかり合う音と、様々な声援だけ。それらを聞きながら、私は静かに試合を見ていた。
「・・・意外」
ぽつりと呟いた言葉は、周りの声にかき消されて誰にも届いてないだろう。聞かれたところで困らないけど。
意外。まさしくこの一言に尽きる。エミリオ様が強いのはわかっていたけど、相手の人も相当強い。こんな人が傍にいたらあんな賭けも持ち出せるか、と納得してしまった。まぁ、兄様や姉様ほどじゃないですけどね!
だからエミリオ様から見ても、油断はできないけど勝てない相手ではないはずだ。
エミリオ様の攻撃を、相手の人が受け流す。その勢いのままに繰り出された斬撃は、けれど、空を切るのみでエミリオ様には届かない。回転するように上空へ、そして、相手の背後に回ったエミリオ様は強く地面を蹴って、続く攻撃を繰り出した。
・・・すごい。ハイレベルだ。ゲーム内だとスチルしかない・・・というか、エミリオ様にはスチルすらなかったけど、やはり動くと迫力が違う。見ているだけのこっちまで背筋が伸びる思いだ。
「はぁ・・・」
知らず詰めていた息を吐き出した時。それは起きた。
相手の人が、一瞬だけエミリオ様に隠れて見えなくなった。その刹那。
目の前に迫ったのは白銀の輝き。あまりにも突然のことに、だけど、体は勝手に動いていた。
反射的に首を傾げた直後、すぐ耳元でドスッと鈍い音がする。と同時に、頬にぴりりとした痛みが走った。
・・・うん?
「きゃあああああああ!!」
周囲から悲鳴が上がっても、私は何が起きたのかわからない。痛みのある頬を指で触ればぬめりとした感触があり、見ればそこには真っ赤な血。
ああ、こちらにまで攻撃が届いたのか。
そう認識した途端、ぐいと誰かに顔を抑えられた。
「アリア!!!!」
ああ、どうして。殿下がそんな顔をするんですか。そんな顔をする殿下、見たことない。
なんと言えばいいのだろう。言葉にするのも難しい表情の殿下に呆気に取られて、反応が遅れた。
その隙に、気付けば私の体は殿下の腕の中。
「医務室へ!!」
ざっと道が空いて、私を抱き上げた殿下が人々の間を走りぬける。複数の視線にさらされて、私はやっと我に返った。
「・・・・・・え、ちょ、大げさです、ちょっと殿下!?」
私の抵抗は殿下に聞こえてなかったのだろうか。抵抗らしい抵抗もできないまま、私は医務室に運び込まれていた。
ご無沙汰しております。
前回投稿からかなり時間が経ってしまいましたが、またぽちぽち投稿を再開できたらと思っているので、よろしくお願いします。
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本編の補足。
わかりづらいですが、トーナメント表を置いておきます。
勝ち抜き戦で進み、左右の勝者で決勝を行います。
【左側】
1.エミリオ vs 賭けの相手 (ティトゥス)
2.モブ vs モブ
3.ミーシャ vs モブ
4.モブ vs アーダルベルト
【右側】
5.モブ vs モブ
6.マリナー vs モブ
7.モブ vs モブ
8.モブ vs パーシェル




