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 兄様と無事仲直りして、私はやっと落ち着いてそれからの日々を過ごすことができた。号泣するという失態は晒してしまったけど・・・うん。兄様相手なので、セーフだと思おう。

 清々しい気持ちで一生懸命生徒会の仕事に励むこと数日。


 あっという間に武術祭当日がやってきた。


 今日の私のお仕事は、審判をしてくれる騎士団の人たちの案内だ。武術祭の審判は、先生たちではなく騎士団の人たちが行ってくれる。公正を期すため、というのはもちろんあるが、未来の騎士を見定めたい、という騎士団からの要望でもある。要は就職試験の一環なんだろう。

 ちなみに、騎士団の皆さんを案内したら、私の今日のお仕事は終了だ。今の私はあくまでも生徒会のお手伝い。兄様たちの試合を優先したい気持ちがバレているのか、オーウェン様がそれだけでいいと言ってくださったのだ。曰く、



 「試合のない人たちに手伝わせますから」



 とのこと。負けたら確かに手伝ってもらうこともできるだろうけど、兄様たちがそう簡単に負けるだろうか? まぁ、私に対する優しい言い訳だとわかっているので、笑顔でお礼を言って、お言葉に甘えることにした。

 ということで、任された唯一の仕事は完遂すべく、私は学園の正門にやってきた。



 「あ、来たかな」



 この時代、車なんて素晴らしいものはもちろんない。移動は馬車か馬、もしくは徒歩に限られていて、貴族の私はもっぱら馬車移動がメインだ。

 だが、遠くに見える砂埃は明らかに馬車ではない。馬車でも砂埃は立つけど、こんなにも激しくない。騎士の人たちだし、相当な速度で飛ばしているんだろう。もしかしたら直前まで仕事をされていて、慌てて飛び出してきたのかもしれないなぁ、と考えてそっと手を合わせた。

 まっすぐに近づいてくる砂埃を見ていたら、近づくにつれて砂埃は納まってきた。やがて砂埃の中に馬と人の姿を認められるようになる頃にはすっかりとスピードも落ちていて、カッポカッポと歩きながら近づいてくる。

 そして、お互いに顔もわかるほど距離が近づいた時。



 「アリア嬢!?」



 「はい。ご無沙汰しています、ランス様」



 見慣れた方ににこりと笑って挨拶をすれば、先頭を歩いていた騎士様・・・ランス様は慌てて馬から飛び降りた。そしてなんと、目の前に跪かれてしまった。



 「失礼しました。てっきり愚弟が待っているものだと・・・ご無礼、お許しください」



 「そう畏まれられると、怖いです。やめてください、今すぐ」



 ランス様は、本名をランシェル・オーカー様という。名前でお察しいただけるかもしれないが、パーシェル様の実の兄だ。皆が「ランス」と呼ぶので私もそう呼ばせていただいているが、昔はそれが本名だと思っていたので不可抗力だといいたい。無知って怖い。

 そんな勘違いをするくらいなので、もちろん私とも面識がある。むしろ、子供のころは散々遊んでいただいた。畏まられるような仲では決してない。

 私が頬を膨らませると、ランス様はへらりと相互を崩してながら立ち上がってくれる。



 「あはは。元気そうで何より」



 表情だけでなく、口調も態度もいつも通り砕けたものに変わってる。いつも通りのランス様が見れて、私もやっと笑うことができた。



 「ランス様もお元気そうで何よりです。今回はランス様が審判ですか?」



 「いや、私は父上の代理。審判は部下たちに任せるつもり」



 ランス様の後ろに視線を送れば、馬から降りた騎士団の人たちが軽く敬礼をしてくれた。私はそれに会釈で返して、再びランス様に向かいあう。



 「とりあえず、馬ですね。馬小屋に案内します」



 「公爵令嬢の君が? うちの愚弟は?」



 「パーシェル様はもう試合会場にいますから。私は生徒会のお手伝いで、今日は皆様のエスコート役です」



 「うわぁ・・・恐れ多い。場所はわかるし、自分で行けるよ」



 恐れ多いってなんだ、恐れ多いって。さっきも言ったように、私たちは旧知の仲だ。恐れられる覚えは全くない。ないけど。

 普通の貴族の令嬢は馬小屋になんて寄り付かない。匂いがだめだったり、馬が怖かったり、理由はいろいろあるけれど、それが「普通」なので誰も咎めたりはしない。むしろ、率先して馬に近づいたり、世話をするほうが異常といっていいだろう。

 そして、ランス様は私が異常寄りだとわかっているはずだ。兄様について回っていた私には、馬を特別怖がる理由も、馬小屋に近づかない理由もない。だって兄様は乗馬大好きだし、自分の馬を手に入れてからは馬小屋に入り浸って世話を焼いてたし。兄様の後を追いかけて、私も馬小屋に通っていたのは、一部の人には周知の事実だ。

 だからランス様が心配しているのは、周りの目のほうだとわかっている。わかっているけど、私だってこれが仕事だ。途中で放り投げるつもりはないし、相手がランス様であれば勝算はあった。



 「ランス兄様には妹分との久しぶりのお話は不要ですか?」



 兄様にお願いするのと同じように、目を見ながら聞いてみる。意識してるわけじゃないけど、身長差のせいで自然と上目遣いになってしまうのが悔しい。悔しいが・・・

 ランス様には、ちゃんと効果があったようだ。



 「それはいる! ほしい!」



 思ってたよりも食いつき気味に言われて、心の中でガッツポーズをする。よし、これでお仕事はちゃんとできそうだ。妹分に甘いところは、本当にパーシェル様に似てる。ありがたい。可愛がってもらっているのを利用するようで悪いけれど、こんな使い方なら問題ないよね、うん。



 「では、そのつもりで是非。騎士団の皆様も、どうぞ良しなに」



 改めてランス様の後ろの人たちにも挨拶をすれば、皆様が変な顔をしてた。何とも表現しづらい顔ばかりされてるけど、なんだろう・・・?

 こてんと首を傾げた私の手を、ランス様がさりげなくとる。釣られるように重なった手を見て、ランス様を見れば、そこに浮かぶのはパーシェル様とよく似た満面の笑顔だ。



 「エスコートさせてくれるかい?」



 「あはは。エスコートするのは私のほうです。行きましょうか、ランス兄様」



 取られた手を握り返して軽く引けば、ランス様はにこにことついてきてくれる。そして、騎士団の皆さんも。私たちの後を追いかけるように、だけど、なぜか一定の距離を保ったまま、ついてきてくれた。







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