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 正直なところ、油断していた。朝から兄様との時間を過ごして、気が緩んでいたんだと思う。たぶん、うん。そういうことだと思う。



 「貴女、いい加減にしてはどう!?」



 ただいま、いつもの人に絶賛捕まってます。

 うわー、しばらく何もなかったから油断した。そういえば、パーシェル様も「苛められてないか?」ってたまに確認してくれてたっけ。兄様のおかげで一時的に殿下たちと疎遠になったとはいえ、やっぱり生徒会に通いだしたら意味なかった、ってことだろうな。

 でも、今までと違って今日は一人だけみたいだ。他の人たち相手にはまだ効果が続いてるってことなのかな?


 そんなことをつらつら考えている私の前で、彼女は言葉を紡ぎ続けている。



 「殿下にオーウェン様、パーシェル様まで・・・どれだけ厚かましいの!?」



 「私は別に」



 「お黙りなさい! 私は事実を述べているだけで、言い訳なんて聞く気はないわ!」



 言い訳もなにも、別に殿下たちとは何もない。だが、それをこの人に説明したところで、聞き入れてもらえない気がしてきた。

 うーん、どうしようかな。なんだか面倒くさい事になる気がする。いや、もうなっているのか。とりあえずこの場から逃げたいけど、さて何が一番いいだろう?

 現実逃避だと自分でもわかっている。でも、そんなことでも考えてないと、まともに聞いていられない。かといって解決策も見出せないでいた私の耳に、



 「黙るのは貴女のほうではなくて?」



 ふと響いたのは、第三者の声。目の前に立つ見慣れた背中と声に、私はきょとりと目を丸くする。



 「え、姉様?」



 呼べば、いつもは必ず振り返ってくれる姉様。だけど、今日の姉様は私を見ようとはしないまま、聞いたことがないような声を発した。



 「前は見逃してあげたけど、二回目はないわ」



 「伯爵家ごときが口を挟まないでくださる!?」



 「あら、では公爵家のアリアちゃんよりも立派な身分が貴女にはおありで? 王族でもないのに?」



 う、っわー・・・姉様が怖い。怒ってる。すごく怒ってる。こんな姉様を見るのは初めてだ。

 思わずぶるりと体が震える。だけど、前を向いたままの姉様は私の様子に気付くことなく、反論できないでいる相手をさらに畳みかけた。



 「身分を盾にするというのなら、こちらも同じことをするだけ。身分以外で私を黙らせることもできないの? その程度で、アリアちゃんに喧嘩を売ったの?」



 公爵家は、貴族の中では最上位の身分階級だ。ほぼすべての公爵家は、遡れば王族と何かしらの縁を持っている。故に公爵家の上に立つの王族しかおらず、現在の王族は数えるほどしかない。つまり、身分を盾に私を黙らせようと思うのなら、殿下を連れてくるしかないのだ。

 だがもちろん、そんなことが目の前の人にできるはずがない。できるようなら、こんなところで私を苛めていないだろう。

 悔しそうに唇を噛み締める姿は、貴族令嬢としてあってはいけない顔をしている。さすがに可哀想になってきたので、私はくいと姉様の服を引っ張った。



 「ね、姉様。私はなんともないですから・・・」



 「貴女のそういうところが気に入らないのよ!!!」



 「へ!?」



 まさかの!? なに!? え、本当になに!?

 急に叫ばれてびっくりした私に向かい、彼女は堰を切ったように叫びだした。



 「いつもいつも何を言っても気にも留めずお高くとまって!! 私なんて目にも入ってないとでもいうつもり!?」



 「え!? いや、そんなことは・・・」



 「それなのに殿下たちに守られて! 目障りなのよ!!」



 うっわー、ドストレートだ。ここまでストレートな言葉をぶつけてきたのは初めてだ。姉様の雰囲気が更に冷えていくのに気づいてないのかな。逆にすごいな。

 驚きを通り越して感心していたら、びしっと急に指をさされた。



 「私と勝負なさい、アリア・ミューラー!」



 「しょ、勝負?」



 「ええ、そうよ。次の武術祭で、お互いの代理人を競わせるの。私が勝ったら、二度と殿下たちに近寄らないで頂戴!!」



 おおう・・・そうきたかぁ・・・って、ちょっと待て。これ知ってるぞ。これ、ゲーム内では「アリア」が「ミーシャ」に売る喧嘩じゃなかったっけ・・・?

 おかしいな、と思ってる私を置いて、話は自動で進んでいく。



 「一方的な条件は飲めないわ。アリアちゃんが勝ったら、二度と彼女に近づかないでくれるのでしょうね?」



 「ええ、もちろん。貴女が勝ったらね」



 負けるつもりなど毛頭ないのだろう。妙に自信満々な様子を不思議に思っていたら、姉様がくるりと私のほうを向いた。



 「アリアちゃん、私が」



 「え、だめです! 姉様は巻き込みません!」



 続く言葉はわかっている。わかっているからこそ途中で遮れば、姉様はむっと不満そうな顔をした。

 ・・・そんな顔も綺麗だな、って今言ったら怒られるよね。うん。言いません。空気は読む。代わりに紡いだのは、姉様をこれ以上不機嫌にさせないための言葉だ。



 「これは私が売られた喧嘩です。姉様も兄様も巻き込むつもりはありません」



 「ならパーシェルに」



 「賭けの対象に頼んでも、あの人は納得しないでしょう」



 「よくわかってるじゃない」



 姉様と兄様はもちろん、殿下たちも頼めない。パーシェル様に頼めばきっと優勝してくるだろうとわかっているけど、それではだめなのだ。



 「喧嘩は買います。でも、姉様には頼みません。勝負の方法は、どちらの代理人が上位に食い込めるか、でいいんですよね?」



 「ええ」



 「今の言葉、忘れないでください」



 これくらいでいじめがなくなるなら、軽いものだ。そう気軽に受けてしまった私は、姉様の様子に気づくことはできなかった。







間が空いてしまってすみません・・・ストック切れです・・・

これからも更新ペースはゆっくりになると思いますので、のんびりお待ちいただけると幸いです。

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