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聞いてください。
目を覚ましたら、隣で兄様が寝てました。
え? なんで? 私、一人で寝たよね? ここ私の部屋だよね? ・・・うん。私の部屋だ、間違いない。ちゃんと一人で寝たはずだ。最近兄様にはほとんど会えてなかったから、一緒に寝てほしいとお願いする時間もなかった・・・はず。
となると、兄様が夜の間に入ってきたことになるけど・・・兄様が? 私の部屋に? なんで? 何か急ぎのことでもあったのかなぁ? だったら起こすべきだと思うけど、気持ちよさそうに寝ている兄様を見ていたら到底実行する気にはなれない。
「・・・疲れてるのかなぁ・・・」
最近の兄様は、本当に本当に忙しそうだった。私に生徒会の手伝いを頼んできただけあって、生徒会のほうには全くと言っていいほど顔を出してくださらない。その分、建国祭のために働いているのだから、不満なんて言えないけど。
心にたまった嫌な感情を隠すように、さらさらの髪に手を伸ばす。撫でるように前髪をかき分ければ、整った顔が姿を見せた。ゲームのキャラだから、と言ったら身も蓋もないけれど、本当に綺麗な人だ。これだけ近距離で見ても、非の打ちようも見当たらない。
「・・・かっこいいなぁ・・・」
ぽろりと零れた言葉は、心からの本音だ。こんな人が兄様だなんて、今世の私は最高についている。
ただし、完全な独り言のつもりだったから、
「・・・あんまり見られると穴が空きそう」
返事が返ってきたことに、伸ばしていた手を反射的に引いてしまう。が、引こうとした手は、気付けば誰かに・・・兄様に捕まれていて、引くこともできなくなった。
驚く私の前で、今まで閉じていた瞳が開かれて、ぱちりと視線が合う。いつから起きてたのか気になったけど、そんなことなんてどうでもよくなるくらい、兄様と視線が合ったことが今の私には嬉しかった。
「おはようございます、兄様」
「おはよう、アリア」
にこりと笑って挨拶すれば、兄様も同じように笑ってくれる。同時に私の手を掴んでいた手が離れて、うーんと背伸びをしながら上半身を起こした。
「今何時だろう?」
私はまだ寝転がったままだったから、体を伸ばす兄様はいつもよりずっと遠い場所にある。それが嫌で、私も同じように起き上がった。
「正確な時間はわかりませんが、まだみんなが起こしに来るまで時間がありますよ」
まだ薄暗い窓のほうを見ながら答えれば、兄様も同じように窓へと視線を移して頷いた。
この時代、目覚まし時計はさすがにまだない。その代わり、毎朝メイドさんが起こしに来てくれるのだ。日によって来てくれる人は違うけど、毎朝ほぼ同じ時間にドアがノックされる。
とはいえ、今日は兄様がいてくれたおかげか、少し早く目が覚めた。だからもうちょっとこのまま兄様と一緒に入れることを期待したのに。
「そっか。じゃあ一回部屋に戻ろうかな」
「え」
なんて言われたものだから。口からは不満が零れ、表情も陰ったのが自分でもわかった。
そんな私に、兄様は苦笑しながら手を伸ばしてくる。軽く頬に触れたそれに、私は擦り寄るように顔を寄せた。
「寂しい?」
「はい、もちろん」
「そっか。僕も寂しい」
「え?」
兄様が? 寂しい?
まさかの告白に驚く私に、兄様はさらに嬉しい言葉をくれた。
「でも、さすがにこの服のまま君の部屋にいるのはまずいからね。お互いに着替えて、朝食は一緒に食べよう」
「いいんですか!?」
「もちろん。アリアが嫌じゃなければだけど」
「嫌だなんて! 嬉しいです」
兄様と一緒にご飯なんて何日ぶりだろう。こんなの嬉しいに決まってる!
思わず兄様に抱き着いたら、兄様の体がぼふんとまたベッドに逆戻りした。とはいえ、そこまで勢いをつけたつもりはないので、わざと倒れたんだろう。笑いながら背中に回されるぬくもりを幸せだなぁと思いながら、もう少しだけこの幸せを堪能することにした。




