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26 ※マリナー視点






 歩き慣れた城の中を一人で歩く。最近は隣にアルがいることが多かったから、なんだか新鮮だ。今頃パーシェルと手合わせしているだろうアルを思って、ふっと笑みが零れてしまう。一人で笑ってるなんて、これじゃちょっとした不審者だ。



 「殿下」



 そんな中、呼び止められて、慌てて表情を引き締める。聞き覚えのある声に、私はゆっくりと振り返った。



 「モントール大臣。何か?」



 来た道を返り見れば、予想通りの人物が歩み寄ってくるところだった。内務省に仕えている大臣の一人・モントール侯爵だ。

 この国には、大きく三つの組織があって、その一つである内務省をまとめているのがアルの父上であるミューラー公爵 兼 内務宰相だ。内務省と言っても、その中にはそれぞれいくつもの組織があって、それぞれのトップとして大臣がいる。

 目の前にいるのは、そんな大臣の一人だった。



 「最近は殿下が城にいらっしゃる、と聞いたのでご挨拶を」



 「わざわざありがとうございます」



 向けられた笑顔には笑顔を返す。嫌味ではないとわかっているし、挨拶に来る人は他にもたくさんいる。ご機嫌伺いともいえる行動は、王子という立場上、日常茶飯事だった。

 とはいえ、面白いわけではない。早く仕事に戻りたいな、と思ってしまった時、彼は本題ともいうべき話題を切り出した。



 「あと、一つ伺いたいことがございまして」



 「なんでしょう?」



 「殿下も今年で学園を卒業されるでしょう? 将来の王妃様は、お決まりになったかと思いまして」



 またか、と。思わず口から零れそうになった言葉を、私は無理やり飲み込んだ。

 これで何人目だろう。生徒会よりも建国祭の準備を優先するようになって、自然と王城にいる時間が増えた。となれば、当然城で働く人とも接する時間が増えるわけで、会う人みんなに同じことを聞かれている気がする。正直なところ、聞き飽きた。

 とはいえ、それを表に出すわけにはいかない。私はあくまでも笑顔を崩さず、



 「生憎、私は父上と違ってそういうことには疎いようでして」



 「なら」



 先の言葉を予想してうんざりしていたとき。私たちの間に割って入るように響いた声は、まさしく天の助けだった。



 「マリナー殿下」



 その呼びかけを聞いて、弾かれたように声の主を探す。私が向かおうとしていた方角からゆっくりと歩いてくるアルを見つけた時、自然と声が上擦ってしまった。



 「アル! 用事は終わったの?」



 学校でパーシェルと剣の稽古をしているはずのアルが、どうしてここにいるんだろう。それに、大臣がいるからだろうか。いつもと違って畏まった呼び名を使われて、なんだか落ち着かない。

 それでも、彼が傍に来てくれた、というのは、とても嬉しいことだった。

 傍まで来たアルが、にこりと笑って私の質問に答えてくれる。



 「ええ。私用に割くのは1時間のみ、と父上に決められてますから。なんの話をしてたんです?」



 最後の言葉は、私ではなくモントール大臣に向けられた言葉だ。彼はアルをじっと見つめ、



 「・・・ご挨拶をさせていただいていただけです。では殿下。私はこれで」



 「あ、ああ」



 アルが来ただけで、大臣はそそくさと立ち去って行ってしまった。あまりにもあっけない引き際に、私のほうが驚くほどに。

 大臣の姿が完全に見えなくなった後。アルは悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべながら、



 「何の話だったか、当てて見せようか」



 「・・・いや、いいよ。正解だってわかってるのに、答え合わせするのは馬鹿らしい」



 私の答えに、アルは「そうだね」と笑った。言葉使いも慣れ親しんだものに戻っていて、そのことに安心しながら二人で並んで歩き始める。



 「でも、なんでアルが来たら引き下がったんだろう? いつもはうるさいくらい言い寄ってくるのに」



 「僕の家にはアリアがいるからでしょ」



 アリア? どうして?

 まったくわけがわからなくて思わずアルを見れば、彼は楽しそうに笑いながら。



 「あの人は侯爵家だけど、うちは公爵家だ。年齢もそこまで離れてないし、君と親しいのも周知の事実。まぁ、普通はわざわざ僕を焚きつけようとは思わないだろうね」



 「・・・ああ。そうか、周りにはそう見えてるのか」



 なるほど、確かにアリアは身分的にはあの人よりも王家に近い。加えて、学校では生徒会を手伝ってくれているのも、広く知られていることだ。実態は生徒会というよりはアルとミーシャ嬢の手伝いなので私と話すことはあまりないのだが、何も知らない人にすれば親しく見える条件は揃っていそうだ。



 「そうだよ。だからあの人たちもうるさいくらい聞いてくるだろう。『まだいないのか?』って。あれ、要はアリアといい関係になってないだろうな、って確認だよ」



 まさかの言葉に、私は目を丸くした。



 「・・・アルからそんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった」



 アリアといい関係、だなんて、アルには避けたい話題だろう。たとえ相手が私であっても、アルがこんなことを言うこと自体が驚きだった。

 なのにアルはけらけらと笑って、



 「事実は事実だからね。君たちが何の関係もないことも含めて」



 ・・・まぁ、そうだけど。なんだか引っかかる言い方だ。

 そう思ったら、ふとした疑問が湧いて出た。



 「アルは、アリアの婚約者について考えたことあるのかい?」



 「あるよ」



 「あるのか!?」



 まさかの即答。驚きすぎて、思わず大きな声が出た。

 だけどアルはいかにも当然とでもいうかのように、



 「そりゃあね。どこの馬の骨とも知らないやつにはあげれない。僕が認めた相手じゃないと」



 ああ・・・なるほど、そういう意味での考えたことがある、か。これはアルらしい考えだ。

 となると、候補者も絞り込んでいそうだなぁ。それもかなり細かいところまで。アルの目に留まる人なんて、どういう人なのか興味がある。一度会ってみたいなぁ。

 思わず笑ってしまったら、じーっと私を見るアルと目が合った。



 「何だい?」



 「・・・何でも。おしゃべりはこれくらいにして、仕事しよう。今日は何をどこまでの予定だい?」



 「? えっと、確か・・・」



 突然の話題転換に戸惑いながらも、今日の予定を思い出す。仕事の話に戻りながらも、先ほどまでのアルの目が忘れられない。

 まるで、私を見定めるように。まっすぐに私を見つめるあの目は、できれば二度と見たくないな、と思ってしまった。







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