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25  ※パーシェル視点







 武術祭が近くなると、騎士の家の人間は自主的に特訓を始める。武術祭は自分を売り込むチャンスだ。騎士団の偉い人も見学にくるし、そうじゃなくても貴族のお坊ちゃん・お嬢さんが見てる。騎士になりたい者たちにとっては、就職活動の一種みたいなものだ。

 ちなみに、「騎士」とは称号の一種だが、別に騎士団に所属しなくても騎士になることはできる。もちろん、騎士団に所属しているから騎士、というわけでもない。

 いかに主人に尽くし、主人の力となれるか。騎士団所属の場合は「主人」の対象が「国王」で、貴族の場合は「領主」なだけ。その働きが認められれば、どちらでも騎士になれる。まぁ、騎士団のほうが国王の目に留まりやすいというメリットはあるが、一人の主人に尽くしたいからと貴族を選ぶ者もいる。俺のような騎士を目指す者たちからすれば、あくまでも個人の適正で選ぶ差に過ぎなかった。


 俺としては、貴族は基本的にどうでもいい。騎士団の目に留まることのほうが重要だ。俺の父親はもちろん、兄たちもみんな騎士団にいる。それに、ずっとマリナー殿下たちと一緒にいると、どうしても視点が「国」になってしまう。親父の思惑に乗っているようで癪だが、今更あいつらと離れることも考えられなかった。


 ・・・話が反れたが、騎士の家の出にとっては、それだけ一大イベントということだ。必然的に力が入る。仕方ない。俺が巻き込まれるのも、まぁ、毎年のことだから良しとする。ただ、



 「ちょっと、パーシェル。真面目にやってくれる?」



 ・・・アルまで参戦しているのは、さすがにどうかと思うんだ。

 なんでここにいるんだ、とは聞かない。理由はわかっているからだ。ただ、だからといって本業を蔑ろにしていいわけではないはずで、



 「お前、建国祭のほうはいいのか?」



 「マリナーがいれば大丈夫でしょ。僕はオマケみたいなものだし」



 アルはなんてことはないように言うけど、次期宰相と謡われる公爵家の跡取りがオマケのはずないだろう。・・・とは思うが、今のアルには言っても無駄だってこともわかってる。いろんな言葉の代わりにため息をついて、周囲にいる騎士の家出身の仲間たちに視線を移した。

 ・・・うん。わかる。わかるよ、緊張するよな。こいつ、お前らから見れば超有力な就職先だもんな。公爵家だもんな。わかるんだけど。

 残念ながら、俺にはただのシスコンにしか見えないわけで。



 「いくらアリアがあの王子を気に入っているからって」



 「気に入ってない。今すぐ訂正」



 「気に入ってないです、ゴメンナサイ」



 そういうところだと思うんだよ、うん。本当に。とりあえず剣をこっちに向けないでくれないかな。両手を上げて降参すれば、アルはため息とともに剣を下げてくれた。これで俺もやっと一息つける。


 アルがここにいる理由。それは他の連中と同じく、武術祭までの特訓だ。少しでも腕を上げるために、騎士の卵の集まりに参加している。こういう中に貴族が混じるなんて普通じゃありえないんだろうけど、この学園ではそこまで珍しい光景じゃない。まぁ、俺も普段は貴族の中に混ざってる一般人だし。うん。この学園にいる間は、珍しくはない。

 ただし、アルの動機はほかのやつらとは違う。他のやつらはみんな将来がかかっているが、アルにかかっているのは名誉のみだ。いや、名誉とも違うか。いや、合ってるか? ・・・とにかく、アルにはアリアに「すごい」「かっこいい」と言われるのが最重要で、そのためにここにいるといっても過言ではない。



 「あの王子が強いのは意外だったなぁ」



 そう。アリアがそれを匂わすことさえなければ、この男はここには近寄らなかっただろうと思うほどには。

 アリアが自分のクラスの参加者たちを見定めに行った後。ミーシャに渡してた報告書を覗き見た限りでは、俺の見立てと大して変わらない結果が記載されていた。うん、流石アリア。人を見る目は十分だ。細かい書き込みもいっぱいあって、狭間の貴族たちを振り分けるにはいい資料になるだろう。

 ただ一人、エミリオ・フェルナーを除いては。

 隣国の王子に関して、アリアは他のやつらほど熱心な書き込みを残していなかった。ただ一文。



 『上級トーナメント以外はありえない』



 と記載されていただけだ。たったそれだけ。それだけで、アリアを長い間見てきた俺たちにとっては、エミリオ殿下の力を察するには十分だった。

 要は、書けば書くほど強いことの証明しか書けなかったのだ。それこそ、アルを上回るんじゃないかと思うほどに。

 あの子は基本的に賢い。アルやミーシャのことになれば尚更だ。隠そうとして隠しきれてないのは抜けていると思うけど、隠したいという意思を尊重して誰も突っ込んだりはしなかった。

 が、アルのやる気に火をつけるのは、仕方のないことだった。



 「まだ強いと決まったわけじゃない」



 「上級トーナメント参加者ってだけで十分強いだろ」



 今度はさすがに反論はなかった。ただ、むすっと不満そうな顔をしただけ。ほんと、こいつのこういうところが憎めないんだよなぁ。

 思わず笑ったら、目の前にまた銀の輝きが突き付けられる。



 「いいから、早く相手して。君と違って暇じゃないんだ」



 「へいへい」



 気軽に返事をして、自分の剣を抜く。そのままアルの剣を弾けば、それが練習開始の合図となった。







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