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武術祭は、基本的に男性のためのお祭りだ。武を競う争いに、淑女である貴族の令嬢たちが出ることは滅多にない。とはいえ、あくまでも滅多にであり、ゼロではない。騎士の家に生まれた令嬢たちなら、年に数人は参加していた。
また、武術祭は初級、中級、上級の3つのトーナメントに分かれて行なわれる。この学園は1学年の年齢幅が大きいため、年齢や学年・性別ではなく、完全に実力で割り振られるトーナメントだ。強いと誰もが認める者は上級に、初心者や遊び程度のものは初級に、それ以外は中級に割り振られる。振り分けは教師と生徒会が行っていて、上級の試合ほど白熱して盛り上がった。
そんな中で、我が姉様は! 姉様は! 去年から上級トーナメントに参加されていて、注目の的だったのだ!
「姉様、今年も参加されるんですか?」
参加者名簿のチェックをしているとき、ふと名前が目に入って、私はそわそわしながら隣で仕事に励む姉様を見た。姉様は姉様でお仕事をされていたけど、私が話しかけたことでペンを置いて、ちゃんとこちらを見てくれる。そして、
「女性も一人くらいは出ないと、盛り上がらないでしょう?」
そう言いながらにっこり笑う姉様は、もう最高にかっこいい!
「絶対絶対応援します!!」
思わず力が入ってしまったけれど、心からの言葉だ。それがわかってくれてるんだろう。姉様は「ありがとう」と笑顔を浮かべてくれた。
けれど、それも一瞬のことだ。すぐに真顔に戻ると、
「今年もアルと当たらないといいんだけど」
とおっしゃるから、私は一瞬言葉に詰まってしまった。
兄様はもちろん上級トーナメントだ。組み合わせは当日くじ引きで決まるため、裏工作も何もない。ただ勝ち進んでいけばいつかは当たる可能性があり、去年は運よく?悪く?兄様と姉様が当たる前に姉様が負けてしまった。
だから、姉様にとって「兄様と戦う」というのが、どれほどのことなのか私にはわからない。わからないけど。
「兄様と当たっても、姉様を応援します!」
でも、だけど、私の心は決まっている。力いっぱい訴えた内容は意外だったのだろうか。姉様はきょとりと目を丸くした。
「あら。アルがすねるわよ?」
「武術祭は仕方ないです。だって唯一の女性じゃないですか!」
そう! 姉様のすごいところはそこなのだ!!
毎年何人かは、女性もトーナメントに参加する。主に騎士の家の人で形成される参加者だけど、上級トーナメントにでているのは姉様だけ。つまり、この学園で一番強い女性は姉様だということだ! 武術祭に参加するだけで強さを証明できるなんて、姉様だけだろう!
ちなみに、貴族の令嬢は普通は武術なんてしない。「騎士」はあくまでも称号であり、一代限りのため、貴族としては扱われない。パーシェル様は代々続く騎士の家だけど、それはつまり、代々の皆様が努力でつかみ取ってきたものだ。生まれただけで「貴族」として扱われる私たちとは、根本的なところが違う。貴族と騎士の家の出身者は同列には扱われないし、お互いに扱われたいとも思っていないのだろう。
だからこそ、貴族で武芸を磨く令嬢は、本当に本当に少ないのだ。ちなみに、私も姉様の真似をしようと思ったら、兄様と父様に全力で止められた。「怪我をするからだめ」らしい。姉様の場合はすでに兄様という婚約者がいて、兄様自身が剣術を嗜む上、
「できて困るものでもないし、怪我ぐらいでミーシャの価値は下がらないよ」
と姉様のご両親を説得したようで、その話を聞いた時の私はもう・・・もう! 兄様たちの愛を目の当たりにして、言葉さえ出てこないほどに感動したことを覚えている。
なので、姉様は特別中の特別。騎士の家の出でもないのに武術ができる唯一の女性にして、学園でも最強の女性なのだ!
これが! 私の! 姉様だ!!
・・・こほん。思わず力が入ってしまったけれど、仕方ない。うん、仕方ない。手のひらを握りしめて力説する私に、姉様はふふと笑ってくださった。
「そうね。今年こそは、パーシェルから一本とりたいわ」
言いながら視線を送ったのは、私たちのやり取りを黙ってみていたパーシェル様だ。何を隠そう、去年姉様が負けた張本人で、上級トーナメントの優勝者でもある。
つまり、姉様にとってはリベンジ相手に他ならない。睨むような視線を向けられても、パーシェル様はへらりと笑った。
「えー、やだー。お前に負けたら、家で散々しごかれそうじゃん」
代々騎士を輩出しているだけあって、パーシェル様の家は武術に関しては名門中の名門だ。もちろん、パーシェル様自身も小さいころから鍛えられている。だからこその前年度・・・どころか、その前の年も優勝者であり、今年は三連覇がかかっていた。
だからこそ、阻止を狙う人はたくさんいる。
「アルも私も、優勝を狙うわよ?」
「返り討ちになっても恨むなよ?」
二人とも笑っているけれど、笑っていない。目の錯覚かもしれないが、バチバチと火花が散って見える。しないとわかっているけれど、今にもこの場で戦い始めそうな雰囲気だ。
だからこそ、私はぐっと姉様の腕に抱き着いた。そのとたんに、二人の視線が私に集まる。
「姉様、姉様! 絶対に絶対に応援しますから、頑張ってください!!」
パーシェル様の実力は本物だ。わかってる。学園を卒業したら、すぐに騎士団に所属するんだろうし、いきなり実戦に出たとしても手柄を取って帰ってくるのだろう。それくらい、この人の実力は飛びぬけている。
でも、それとこれとは別。いや、だからこそ、姉様が勝っているところが見たい。学園最強を倒す姉様、だなんて、最高にかっこいいに決まっているのだから!!
「ありがとう。期待に応えれるように、頑張るわ」
私の全力の訴えに、姉様は笑って約束してくれた。同時に、柔らかな手のひらが何度も頭を撫でてくれて、気持ちよさにうっとりしてしまう。姉様は約束は守ってくれる人だ。きっと素晴らしい試合が見れるんだろう。
パーシェル様が肩をすくめていたけど、そんなのはもう目に入らない。だって、武術祭の楽しみができた! いや、もともと楽しみだったけど。改めて約束できたとなると、こう、楽しみの質的なものが違うのだ。
姉様の活躍を見るためにも、私も準備を精いっぱい頑張らなくちゃ。姉様の活躍の場所を整えるためだと思うと、俄然やる気がわいてきた! うん、私も頑張ろう!!
前回より間が空いてしまってすみません!
パソコンが壊れておりました・・・
無事直りましたので、ぼちぼち更新していこうと思います。
どうぞよろしくお願いします。




