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15 ※アーダルベルト視点







 僕の前で、アリアが踊っている。それはもう楽しそうに。何か会話をしているんだろう。すごく、すごく楽しそうだ。ああ、もう、もう少し離れてくれないかな! 近い!!

 それに、周りの声もわずらわしい。誰と誰が「お似合い」だって? 僕のアリアが穢れるようなこと言わないで欲しいんだけど!!



 「アル。彼はアリアと仲がいいのかい?」



 「ミーシャに聞いて」



 マリナーの質問は一言で切って、僕はアリアと踊る少年を睨みつける。マリナーが苦笑してミーシャを見れば、ミーシャは困ったような顔をしながら説明した。



 「クラスメイトです。私たちの学年に、アリアちゃんと同じ年の人は彼しかいませんから」



 「なるほど。きっかけとしては十分だった、と」



 アリアは平均的な年齢より早く、入学できる年齢になると同時に入学した。僕を追いかけてのことだったけど、反対はしなかった。同じ学校にいる間は、彼女を守ることも出来る。ミーシャと同じ学年になるのもあって、むしろ入学には賛成だった。

 入学してからはいたって平和だった。年齢が一人だけ低かったこともあり、不埒なことを考える輩よりも、庇護欲に襲われる輩のほうが多かったようで、クラスの妹扱いで可愛がられていたようだ。同級生であるミーシャを「姉様」と慕っていたから、それがいい方向に影響したんだろう。

 そこまではいい。全然いい。でも、年々綺麗に成長していくアリアに、徐々にちょっかいをかけ始める不埒な輩。ミーシャと情報を共有しながら排除してきたそれらに、一昨年になってから新しいやつが現れた。


 それがエミリオ・フェルナー。隣国フェルトの第二王子殿下だ。


 身分が身分だったのと、特別何かをする様子がなかったので様子見を続けてきたが、今年になってから一気に風向きが変わった。

 まずは今日のドレスの件。学年があがる前に打診があり、両親はもろ手を上げて歓迎した。隣国とはいえ、相手は王子。気に入られるに越したことはないとの判断だろう。



 「贈られたドレスを着る意味、アリアちゃんはわかっているんでしょうか・・・」



 「わかってたら、僕がこんな態度で済むわけないでしょ」



 そう。アリアはわかっていない。そういう話は極力避けてきたのが仇となった。アリアはずっと手元においておくつもりだったから、関係ないだろうと高をくくってしまったのがダメだった。


 男性が女性に服を送るのは好意の表れだ。僕もミーシャに何回か贈ったことがある。何も知らないアリアでさえも「仲がよくて素敵」と喜ばせた。

 それが、正式な場で着るドレスとなると、話が少し変わる。要は男除けだ。男の選んだドレスを着て、エスコートされ、始まりの一曲を踊る。これで大体のものは、二人はいい関係なのだと察してしまう。

 唯一の救いはアリアが理解していないために、あの王子にもらったドレスだということを自慢していないことだろう。思いっきり嫌な顔をした甲斐があった。ふっ。



 「大体ねぇ。君らが変にアリアにちょっかい出すから、クラスの人たちに因縁つけられて、あんなやつに隙を見せることになったんじゃないか。反省してるのかい?」



 大本の原因はそこだと僕は思っている。アリアは色恋に鈍感だ。僕とミーシャのことには敏感のようだけど、自分の事に関しては本当に鈍い。「マリナーたちと話していたから絡まれている」と、そう思えただけでも立派だと思う。

 だからこそ、こいつらが余計なことをしなければ、あの子は今でも女性たちに疎まれることもなく、楽しく過ごしていただろうに。ああ、思い出しただけでもイラついてきた。



 「ちょっかいって・・・純粋に話をしたかっただけなのに」



 「そうだそうだ。それに俺は困ってたから手を貸しただけであって」



 「手を貸すのがどうしてアリアを抱きしめることになるの? キスしてるように見えた、っていう証言も取れてるよ」



 「「はああああ!?」」



 あれ、初耳だったのか。心から驚いている様子のマリナーとオーウェンに、パーシェルが慌てて首と手を左右に振った。



 「いや、してない! 断じて! してないからな!?」



 「君にそんな甲斐性がないことは知ってるよ。でも誤解を生むには十分だよねぇ? 人の妹に変な噂たてないでくれる?」



 「たったらたったで、責任とって嫁に」



 「パーシェル」



 睨みながら名前を呼べば、パーシェルがびくりと肩を震わせて小さくなった。ほんと、無責任な発言はしないでほしい。僕はあの子を嫁に出すつもりなんて、まだ当分はないんだから。



 「噂に関しては謝りますが・・・彼の問題と一緒にされるのは困ります」



 「ちょっと、昔のことは今はいいわ。それより、あの王子をどうするかよ!」



 オーウェンの言葉を遮って入ってきたミーシャに視線を向ければ、彼女は怒りを隠そうともしていなかった。



 「一曲目どころかずっと一緒に踊ってるなんて、ドレスの件がなくても憶測を呼ぶには十分よ! レンナー殿下とは踊るんでしょうけど、あの方じゃ小さすぎて虫除けにもならないわ」



 「え、待って。なんでレンナー?」



 「君が初等部にアリアを送ってきたんだろ。僕もリンラ姫と踊る約束してる」



 「初耳なんだけど!?」



 「それはどうでもいいんです!!!」



 ミーシャの迫力に、マリナーがぐっと言葉を飲み込んだ。ふふ、いい気味。



 「それより、早く虫除けになってきてください! 貴方たち全員と踊れば、少なくてもエミリオ殿下だけが特別なんじゃない、ってわかるはずです! いいわよね、アル?」



 「・・・あの子供に掻っ攫われるのは面白くないからね。僕じゃ虫除けにはなれないし、君たちの手腕に期待するよ」



 何せ、僕はあの子の兄だ。「相変わらず仲良し兄妹ね」で終わってしまう。それでは意味がない。

 今必要なのは、あの子供が特別なわけではないと知らしめること。癪だけど、すごく不本意だけど、使えるものは全て使わなくては。



 「なんだか釈然としない理由だなぁ」



 「まぁまぁ。アリアちゃんと踊れるんですから、いいじゃないですか」



 「俺一番な! 戻ってきたら早速!」



 やいやいと騒ぎ始める友人たちに、思わず深いため息が零れる。もはや相手は選んでいられないとはいえ、やはり早まっただろうか・・・



 「アリアちゃんには悪いけど、私たちも踊ってる場合じゃなさそうね」



 「うん。このバカ共から、目を放すわけにはいかないからね」



 踊ることは許可しても、それ以上を許可した覚えはない。勉強や生徒会の仕事ならともかく、アリアに関してだけはこいつらを信用するわけにはいかなかった。

 ぎろりと睨みつけても、あまり効果はなかった。伊達に幼馴染をやっていない。僕の威嚇なんて、こいつらは慣れっこだ。



 「可愛すぎるのも問題だなぁ・・・」



 いっそ閉じ込めてしまおうか。


 飲み込んだ言葉が聞こえていたのだろうか。ミーシャが手をひねってきたのは・・・うん。誰にも気付かれてないと思いたい。







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