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 エミリオ様が用意してくれた馬車に揺られること十数分。会場に着くと、すでにいろんな人たちが到着していた。エミリオ様に手を引かれながら足を踏み入れれば、目に飛び込んできた賑やかな光景に思わず感嘆の声が漏れる。



 「うわぁ・・・」



 「へぇ。今年は一段とすごいね」



 エミリオ様も、私と同じように会場を見て驚いているようだ。だって、本当にすごい!


 会場を照らすのは巨大なシャンデリア。中央のダンスホールを照らすように、大きなものがドンとある。ダンスホールの奥には楽団用の演奏部隊がいて、穏やかな音楽を紡いでいた。まるで物語の舞台にいるようで、何度経験してもこういう場は胸が躍る。

 会場の両サイド、壁際には様々な料理が並んでいた。火や刃物は許可が下りなかった、と兄様が仰ってたのに、どうやってやっているんだろう。その場で作っている料理もあって、見ているだけでもわくわくしてきた。



 「開始まではまだ時間ありましたよね? 一通り見てきてもいいでしょうか?」



 「だーめ。もう始まる時間だよ、おとなしく傍にいて」



 え、うそ!?


 反射的に広間の大時計を見れば、確かに開始時間まであと数分だ。こんなギリギリだったことに、気付いてもいなかったなんて・・・どこで時間を使ったんだろう、と思っても、浮かぶのは怒涛のような身支度の時間だ。ものすごく長く感じていたけれど、本当に長い時間をかけていたんだろう。・・・うん。頑張った、私。

 呆然とする私の手を、エミリオ様が放した。もう自由にしていいんだろうか、と彼を見れば、どうやら違うようだ。



 「お嬢様、私と一曲踊ってくださいませんか?」



 それは、まるで物語の王子様のように。優雅で自然で、流れるようなお誘いだった。



 「・・・王子様みたい」



 ぽつっと呟いてしまったのは、本当に無自覚。思ったことが口から零れただけの言葉だったのだけど。

 エミリオ様は心外だとでもいわんがばかりに、私を睨みつけてきた。



 「僕、第二とはいえ王子なんだけど」



 「・・・そうでした」



 この国の王子じゃないけど、れっきとした王族の一人だった。失念してたけど、覚えていたとしても同じ感想を口にしていただろう。思わず見惚れるくらい美しいお誘いだったのだから。

 お詫びというわけではないけれど、エミリオ様の前にそっと手を差し出す。了承の意を示すそれを、エミリオ様も笑顔でとってくれた。

 ほぼ同時に、流れていた音楽が変わる。今までの静かなものから一転。賑やかな曲調に変わった音楽を聴きながら、私はエミリオ様と一緒にダンスホールに躍り出た。

 ダンスホールには、色とりどりのドレスや正装の人たちが次々と集まり、舞踏会が盛大に始まった。右を見ても左を見ても、楽しそうに踊る人たちに囲まれて、私も足取り軽くステップを踏む。公爵令嬢の嗜みとして、ダンスは徹底的に仕込まれている。頭ではなく体が覚えているそれは、もはや息をするのと同じように自然とできるようになっていた。



 「君と踊るの初めてだよね」



 手を取り合って踊っているので、いつもより近い距離でエミリオ様が言う。目の前で揺れる緋色を綺麗だなぁ、と思いながら、私は首をかしげた。



 「そうでしたっけ?」



 「そうだよ。こういう時、君はいつも兄上と踊っていたから」



 そう言われれば、そうかもしれない。兄様としか踊らない、ということはないけれど、兄様と踊ることが多い、といわれれば否定することも出来なかった。



 「だから、今日は絶対エスコートしたかったんだ。今、すごく楽しい。楽しいよ、アリア嬢」



 それは、滅多に本音をいえない王族の、心からの言葉だった。

 嬉しそうなんてものじゃない。なんて言えばいいんだろう。笑顔も笑顔。満面笑顔で、それも至近距離でそんなことを言われて、赤くならない女性などいるのだろうか。否、きっといない。真意はわからないけれど、エミリオ様が楽しいならそれでいい。そう思うほどには、他の思考が全て彼方へと飛んでいってしまうほどの衝撃だった。



 「私も楽しいです」



 だからこそ、これは私の本音。事実、エミリオ様と踊るのはとても踊りやすい。テンポが合うのだろうか。年齢が同じ気安さもあって、ある意味では兄様と踊るよりも楽しかった。

 私の返事に、エミリオ様の笑顔がますます輝く。ちょっと待って。なんだその王子様スマイル。すごく眩しい。目がつぶれそう。

 思わず呻きそうになった私の視界に、ひらりと紫が舞い込んだ。紫色のドレスを優雅に纏った姉様が、兄様と一緒に踊ってる。その光景に、一瞬で私は釘付けになってしまった。

 急に動きが止まった私を不審に思ったエミリオ様が、視線の先に兄様たちがいるのを見つけて露骨に顔をしかめる。かと思えば、ぐいっと腰を引きよせられて、今まで以上に接近させられてしまった。



 「ちょ、エミリオ様!?」



 流石にこれには慌てたけれど、放してくれる気はないらしい。それどころか、まっすぐに私の目を見て、



 「今、君と踊ってるのは僕。僕以外のことを考えるのは、マナー違反だよ」



 「・・・ごめん、なさい」



 それは、確かにそうだ。条件反射とは恐ろしい。兄様たちが視界に入った瞬間、全てを持っていかれてしまった。

 ぶんぶんと軽く頭を振ってから、エミリオ様と目を合わせる。大丈夫。兄様たちの勇姿はあとでじっくり見ればいい。今はエミリオ様との時間を大事にしよう。



 「うん。それでいい」



 満足そうに笑うエミリオ様に釣られるように、私も笑う。そのまま二人で笑いながらくるくると踊り続けた。






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