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 姉様と一緒に生徒会室に行くようになって、今まで以上に仕事を手伝うようになった。といっても、本当に雑用ばかりで、難しいことは何も行なってないけど。

 生徒と生徒会の伝令役を務めたり、職員室に書類を届けに行ったり。兄様の隣で書類整理を手伝ったり、姉様にお茶を差し出したり。時々殿下たちの休憩に付き合ったり。

 本当に些細なことばかりだったけれど、兄様と姉様と一緒にいられる時間は確実に増えたので、手伝ってよかったと思っている。




 そんな生活を送っている間にめまぐるしく日々が過ぎ、あっという間に文化祭初日がやってきた。




 が、正直なところ、初日はあまり記憶がない。生徒会は当日だって忙しい。姉様と一緒に働きまわっていたら、全員参加のオペラ鑑賞で思わず居眠りしてしまった。エミリオ様が呆れた顔をしていたけれど、だって元々そういうことには興味がないのだ。疲れた体には子守唄にしか聞こえなかった。


 そしてやってきた文化祭二日目。私にとってはこちらのほうが重大だ。オペラの鑑賞がメインイベントの初日と違い、二日目のメインイベントは舞踏会。ゲーム内では、姉様と踊ることで好感度が上がる上、そのあとの攻略対象を決める重要な日だった。

 もちろん、これは姉様たちに限ったことではない。一般の学生にとっても、一大イベントである。初等部から高等部の全ての人がそろい、地位や立場に関わらず交流が出来る場は少ない。初等部に入りたての子たちにとっては社交界の雰囲気になれる場であり、中等部や高等部の人たちにとっては、家の思惑から開放されて自由に過ごせる数少ないパーティーだ。盛り上がるな、というほうが無理がある。


 そのため、自然と男性も女性も気合が入る。舞踏会が始まるのは夕方からだが、朝からずっと準備に追われるなんてザラにある。文化祭が2日もあるのは、これが主な理由だと思っている。

 そしてそれは、公爵令嬢たる私も例外ではない。



 「さぁ、お嬢様! 準備を開始しましょう!!」



 朝起きて、そんな言葉とともに始まった今日という一日。簡単な朝食をとった後、念入りにお風呂に入りマッサージをされただけで、私はもうぐったりしていた。なんだこれ。いつもにも増して、メイドの皆さんの気合が半端ない。ほんとなんだこれ。もう行くの嫌なんだけど。

 ぐったりしている私に構わず、みんなは今度は化粧を始めた。もちろん、化粧をするのはメイドさんたちであって、私は座っているだけ。ならば楽だろう、と思うなかれ。少しでも動こうものなら、「動かないでください」と注意が入る。もうほんと嫌だ。疲れた。

 そう思っても、彼女たちが止まることはない。1時間以上かけて化粧をされたと思ったら、今度はドレスに着替える時間。一人じゃとても着れないそれを丁寧に着せてもらって、ぐったりしながらヘアメイクをされているときだった。


 カランカラン・・・


 屋敷中に、来客を告げる鐘がなる。誰だろうと不思議に思っても、私はまだ動けない。誰かが応対してるだろうとさして気にせず、私は身支度を整えることに集中する。

 ちなみに、兄様は朝食を食べて早々に学園に向かったらしい。当日の準備が残っているそうだ。本当に生徒会は忙しい。舞踏会の準備も学園で済ませるそうで、兄様の準備が出来なかったメイドさんたちが全員こっちに集まってきている気がする。去年までと比べると、それくらい私の身支度を手伝ってくれる人たちは多かった。

 途中、執事長が入ってきて、メイドさんの一人に何かを伝えてた。けど、私には聞こえないので、何を伝えてたのかはわからない。その間もヘアメイクをする手はずっと止まらなかった。

 その後も30分ほどずっと座って待って、最後にアクセサリーをつけて。私の準備は、やっと整った。



 「できましたー!!」



 「お嬢様、最高に素敵です!!!」



 きゃいきゃいと皆が騒ぎ出すけど、正直私はもう疲れきっていてそれどころじゃない。お茶を一杯だけいただいて、やっと一息つくことが出来た。

 そこで初めて鏡の中を真面目に見る。ハーフアップにまとめられた髪に、薄く、だけどポイントはしっかり抑えたメイク。それだけで、少しだけ年上に見える自分に驚いた。



 「すごいなぁ・・・」



 思わずそう呟けば、メイドさんたちは誇らしそうに胸を張っている。うん、すごいものは純粋にすごい。「ありがとう」とお礼を言えば、とてもいい笑顔が返ってきた。

 準備が終わって一息ついたところで、みんなに連れられて部屋を出る。連れて行かれたのは、屋敷の中でも豪華なほうの客室。「なんで?」と思う間もなく、部屋の扉が開かれる。



 「やぁ、アリア嬢。迎えに来たよ」



 そこにいたのは、ぴしっと礼服を着込んだエミリオ様で。私は思わず、ぱちぱちと目を瞬かせた。



 「なんでうちにいるんです?」



 「あれ、忘れちゃった? エスコートする、って言ったでしょ」



 あー・・・? そういえば言われた気がする。本気だったのか、あれ。

 額を押さえた私を、エミリオ様はじっと見ている。居心地が悪くて睨みつけたら、にこりと笑顔が返された。



 「ちゃんと僕が贈ったドレスを着てくれたんだね。似合ってるよ」



 「・・・これしか用意されてなかったもので」



 そう。何故かクローゼットには、これしかドレスが残されていなかったのだ。今まで着たことのあるドレスまでもが、綺麗さっぱり姿を消していて、これ以外の選択肢など残されていなかった。

 最初に見たとき、まるで向日葵みたいなドレスだと思った。レースがふんだんに使われていて、少し歩くだけでもひらひらと揺れる。可愛いとは思うけれど、肩が露出しているせいか、幼すぎるものではなかった。とはいえ、ショールを羽織っているので、実際の露出はたいしたことはないけれど。


 思わずため息を突いたら、エミリオ様が目の前までやってくる。珍しくにこにこ笑う彼に、思わず口が出ていた。



 「上機嫌ですね」



 「それはもう。こんなに可愛いお姫様をエスコートできるなんて、男冥利に尽きるってものでしょ」



 「えーーー・・・」



 口から勝手に不満が零れたけれど、こんな程度で下がるような機嫌ではないらしい。それどころか自然な仕草で手を取られると、



 「では、参りましょうか、お姫様」



 だなんて、いつもからは想像も出来ない恭しい喋り方をするものだから。



 「・・・そんなガラじゃなーい」



 小さく呟いたはずの反論が聞こえていたのだろう。エミリオ様は今度こそ噴出して、だけど私の手は放さないまま、公爵邸を後にした。







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