プロローグ
この世界が、普通の世界ではないと・・・乙女ゲームの世界だと気づいたのは、物心ついたときだった。
きっかけは、大好きな兄様に婚約者が出来たこと。
そのことを知らされたとき、まるでスイッチでも切り替わるように、私・・・アリア・ミューラーは前世の記憶とも呼べるものを思い出した。そして、自分の立ち位置も。
『アリア・ミューラー』は、兄様が大好きで大好きでたまらなく、その思いが暴走して兄様のルートでヒロインの邪魔をする悪役令嬢だ。が、記憶を思い出した今、そうなる確率は0といっていい。
なぜなら、そう! 私は、このゲームはヒロインが最推しだからだ!!!!!
貴族の学園生活を舞台にしたゲームで、伯爵令嬢のヒロインは、生まれてくる性別を間違えているとファンの間でも言われていた。
「攻略対象? 全員抱いた」
まるでそう言わんばかりのかっこよさに、ファンの間では最大の人気キャラだった。
そう、王子や公爵家の跡取りなどという攻略対象よりも、圧倒的に人気だったのだ。もちろん、私も例外ではない。
そして私は、攻略対象の一人。公爵家の長男であるアーダルベルト・ミューラー兄様のことも大好きだった。こちらはゲームのキャラとしてだけではなく、妹として純粋に過ごした期間もずっとずっと好きだったのだ。
お似合いの二人の婚約を喜ばずして何を喜べというのか!!!!!
そういうわけで、私はヒロイン・・・ミーシャ・レスフォート様のことを姉様と呼び慕うという名誉を、存分に喜んでいた。ミーシャ様はいつか姉になるのだ。もちろん、彼女の選択次第では、結ばれる相手が兄様以外になる可能性もあるけれど、今のところはその予定もないのだから、何の問題もない。
優しい兄様と、優しい姉様。優しい二人に囲まれて、私の転生人生はいたって順風満帆だった。