始まりの国Ⅱ
大通りに出て、早速聞き込みを始める。ヒロの旅は、基本的にその国に住んでいる者に観光名所を聞き込み、そこへ行く流れになっている。道中気になった場所は帰りに寄ったりしているので、特に心残りなどはない。
20代ぐらいの優しそうな女性に声を掛ける。
「あのーこの国で有名な観光名所などありますか?」
「もしかして、旅人さんですか! それなら南方角にあるみかん畑が有名ですよ。色々説明したいのですが、ここから先を教えてしまうと感動が薄れてしまうので、ご自身の目で確かめて来てください!」
あまりにも勢いが凄く、驚いた2人だが特には気にしない。
「よっぽど綺麗なんですね。有難うございます。これから向かってみます」
「あっちに進んで、次の角を右に曲がってずっと進めば辿り着くはずだよ」
「ご親切にどうも。では、私はこれで」
「ばいばい」
「良き旅を」
教えてもらった通りに進んで行くと、先程まで居た繁華街がいつの間にか木々が生い茂り、草原が一面広がっていた。また同じ道を進んで行くのかと想像したヒロは肩を落とした。少し先には、草原の中を進んでも気にしない、と言ってるようにも見えるミリ。純白のワンピース着ながら回っている姿は、可憐で、写真の1フレームに収めたいほどだ。ヒロは射影魔法で収めようとしたが、荷物が増えてしまうのでやめた。
それから数分後。
ヒロは退屈そうな表情から。ミリは明るい表情から。眼を見開き、口をただただ開けっ放しにしていた。
その理由は目の前で見える景色だ。
壮大な敷地を使用したみかん畑がそこには広がっていた。終わりが全く見えない緑の絨毯に2人の興味は釘付けだった。特に凄い。やばい。綺麗。感動する。不思議。とかの感情で引き付けられているのではなかった。今までに見たことのない景色に、想像とは全く違った光景に驚いて引き付けられていた。
「今まで歴史的建造物とか、ショーとか、夜景とか見たけど、これはどれにも当てはまらない程迫力がある」
まだみかんの実がなる季節ではないのか、オレンジ色は見かけない。
「凄く素敵。ちょっと故郷に似ている」
「確かに木々が沢山生えていたね。でも、こっちの方が個人的には好きかな」
「私も」
しばらく眺め、丁度お昼の時間なので昼食を取る事にした。と言っても、市場で特産品を買ってきてないので、今はクッキー生地の携帯食料で我慢するしかない。初めて食べる人は、少し慣れない味かもしれないが、2人はなれっこだ。
木陰で食事をしていると、来た道から男性が歩いてきた。白髪に、立派な白髭。とてもダンディーなおじさんだ。ヒロ達の存在に気が付いた。軽く会釈を交わす。そして、同じように絨毯のようなみかん畑を眺める。
「あぁーここが最後の平和なのか」
ぼそっと2人にも聞こえる声で呟いた。
その表情は悲しく、今にでも泣き出しそうだった。
ヒロはこのみかん畑には裏があると考え、尋ねた。
「すみません。少しお話を窺っても良いですか? 決して盗み聞きした訳ではないんですけど」
おじさんは優しく微笑んだ。よいよい、私がわざと聞こえる声で呟いたのだから、と答えた。
「それで、何から聞きたいのだ?」
「あなたの正体から教えてもらいますか?」
これを聞き、豪快に笑った。久しぶりに大笑いをしたような、気持ち良さそうな笑いだ。
「お主良い眼だな。私が現役だったら部下として雇いたかったよ。まあ、察しの通り私は元国王だよ」
「やっぱりそうでしたか。他の国民とは少し風格と言いますか、雰囲気が全く違ったので、まさかと思いましたが」
まだミリは状況を把握出来ていなく、おどおどしている。ヒロが頭をぽんぽんとすると静かになった。
「一般的には『王は病気で亡くなった』という情報が流れたが、それは全くの嘘だ。私の政治は国民優先的に行っていたので、"国民"からの評価は良かった。だが」
「だが、貴族はあまり良く思っていなかった」
「正解だ。貴族は私の息子を王の座に着かせ、貴族が得をするような政治をするようにと説得と名の洗脳をした。そして、作戦は実行された」
王に毒薬を飲ませ、死亡した嘘の情報を流した。その後強引に後継者の息子を王の座着かせると、作戦は無事成功した。そして、用無しの王は解毒薬を飲ませて、田舎の村に送りつけた。
「普通の親だったら息子を利用しようとした事に怒るだろう。だけど、私はそうは思わなかった。何故なら彼も立派な大人。1人の大人。自分自身の責任は親ではなく、彼が負うことだったから、怒ることも、止めることもしなかったのだ」
確かに次期王になる息子なんだから、早めに親離れしなければならない。それにこの国では12歳からは成人扱いになるので、特にだ。
元王はずっと緑の絨毯を見つめる。涙を流すことも無く。笑みを浮かべることも無く、ただただ眺めていた。その姿を不思議そうにミリが見つめていた。その視線に気が付いたヒロが代表として訊ねた。
「この畑には何か思い入れがあるのですか? 先程からずっと眺めていたので」
元王は表情を変えずに、視線もそのままで語り出した。
そして、この畑は母親と父親が築き上げた物だという。息子が王になった際、大体の畑は農作物が無くなり、枯れたらしいが、この畑は唯一残ったという。それで、国民からは『奇跡のみかん畑』と言われるようになり、この国有数の観光地になった。
「そんな事があったんですね。父親と母親はこのみかん畑を観光地にしようとしていたのですか?」
「いや、そんな話しは聞いていないね。だけど、いずれは有名になったら良いね、とか話していたな」
このみかん畑の始まりは、国の飢饉がきっかけだった。この国では1度大規模の飢饉が起き、殆どの作物が実のならなかった中、みかんの木だけは豊作だった。そこで、王(父親)は今後このような事が起きた際、皆が困らないようにみかんの木を大量に植えた。この話しを知るのはヒロ達が出国する間際のこと。
その後、他にも話しをしてお別れをした。流石に1人にさせたかった。
最後に元王はこんな事も言っていた。
『早くこの国を出国した方が良い』と。表情は真剣だった。2人はこの事をしっかりと受け止め、来た道を戻る。
「どうする?」
「うーん。とりあえず、今日はここで過ごそう。明日は様子見で、何か変化が起きたら即出国」
「分かった」
宿に戻る前に夕食を兼ねて特産品を買って食べた。宿では夕食を提供していたが、ヒロはその事を忘れていたので翌日に食べることにした。
お互い口に洗浄魔法で綺麗にした後、眠りについた。
この話は大体4~5話で完結して、新しい旅の話になります。
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