~異世界吸血鬼伝説~
異世界のお話、現代のように便利な、科学の発展が目覚ましい時代を遂げたことのない世界。
スマホや、インターネットはあたりまえに普及はしておらず、地球でいう、大戦後のあたり。
工業や機械技術の発展、科学の目覚ましい成果が上がりつつあり、
世界は、経済成長のまっただなか、
人々は、知らないということに強烈な不安と、恐怖と、好奇心をかられ、
噂話にはすぐおひれがつき、収集がつかなくなった。
得たいのしれない魑魅魍魎が、夜に紛れて跋扈していた、
そんな時代の中での、当方のアサという国でのこと。
その島国から起こる、
世界の日常を収める人間族と怪物たちと争乱と、
そこで生きる人々の出会いと別れの運命のお話。
日常を守ろうとする、人間族と、
主に、吸血鬼が活躍する、童話と現実のまじりあった世界のお話である。
この物語はいつも、二人の少女の行く末にゆだねられていた。
彼女たちは、いつもお互い、何かを隠しもちそれを、探りあうような、いい友達のような関係。
そんな彼女らの初めての出会いはいつか、
それは数年前の朝、10月の冷える朝の、何気ないいつもの街並みの中に異変があった。
……コツ、コツ、コツ
と、革靴の足音さえ、高く響くような冷たく、肌寒く、底冷えする朝のことだった。
少女とのファースト・コンタクト、言葉もかわさず、ただ、瞬間猛烈な引き付けられるものを感じた。
アカリ・クロムは、今年17になる女の子、ナチュラルなメイクと、周りの高校生とは
にてもにつかないような、おだやかなみためと立ち居振る舞いをしている。
それでいて、しっかりものでもあり、かといって、日常生活ではどこかぬけたところもあるのだ。
また、個性的で、センスが優れている面もあるので、
だから、彼女はよく言われる “天然のふりをした悪女”
よび声たかき、彼女のニックネームのひとつである。
アカリは、ぼんやりした瞳で、昨日と同じく、あたりをみまわしている。
彼女は今日も水玉模様のネクタイを着用している。
それから、ふたつのアホ毛と、半開きなのに、大きな瞳がチャームポイント、肌はなめらかで、
どこか柔軟な布団をおもいおこさせる、女性からも人気で、よくべたべたひっつかれたりする。
いつものように、仲の良い友人二人との登校。
ぽっちゃりしていて、しかしおっとりした顔つきでかわいげがある女の子のリサ。
もう一人はモデルのように背が高い、きりりとととのった瞳で、ぴっちりとわけて、左右を編み込んだ
髪でおしゃれをした、やさしそうなかおつきのエイナ。
三人はのんびりといつものように、駅前のあたりを通り過ぎようとしていた。
号上駅前。
そこは下校時に、みんなの都合があえば立ち寄る最寄りの遊び場。
騒いで、日常の鬱憤をはらしたり、
ただ、高いテンションで、遊びまわるにはもってこいの場所。
駅前には、雑貨店やアイスクリームショップ、カフェ、美容院がたちならぶ、
皆の住む、エダ町でそれなりに人気のスポットである。
ふいに野犬の息遣いが聞こえたきがする、人々足音にまぎれて、建物のうらを影が走りさる。
飲食店が多くならぶその地域では、野犬がごみ箱をあるから。
カラスと似た迷惑のたぐい。
ふたつたてものをくぐったあと、たてものとたてものの間の先の塀との間に、アカリは彼を見つけた。
ふと、あゆみをとめるあかり、二人はぐんぐんと学校のほうへ、
「キュウン」
とちいさな鳴き声、アカリだけが、少し歩くスピードを緩めたまま、影をおう。
確かに犬だ。野犬は少女の姿を確認、目が合ったのを感じた様子で、
すると次の瞬間、びくっと肩や腰を反射的にひきおこし、こちらをうかがいつつも、
ゆっくり引くように顔をそらし、急いでその場から走り去っていった。
「そうだ」
「どうしたのアカリ?」
エイナが、黒ぶちのめがねにてをかけて、後ろをふりかえる、
一見委員長風だが、かかわるようになると、見た目ももうすこし、ざっくばらんであることが
わかる、なぜか、鞄から懐中電灯を下げている。
“昨日は、とても霧がこくて、足音や話声さえ、よくひびいた、冷たい朝だった”
「昨日みたことについて、私の話をきいて」
まるで詩のようにつくった文章をつぶやいて、例の出会いについて考える、
少女が、それからその瞬間の夢を何度も見ることになる、出会いの情景。
そのころ別の場所で、別の学生服をきた少女が、トラブルに巻き込まれようとしていた。
コンビニの中、少女が雑誌を立ち読みをしている、
すると後ろの陳列棚から、一人の男が、顔をだし
別の少女をみかけて、にやりと笑う、
ホルダーには、拳銃が二挺ぶらさがっていた。
男は、ぐっと膝に力をいれて、何かをさけびかかり、陳列棚のおく、
窓際の少女に背後から、とびかかろうとする。
“うぐっ!!!”
何がおきたのか、少女は、何も傷つけられた気配はなく、
むしろおとこのほうが、かたからひじ、ひじから掌の関節まで、みょうな恰好で、さかさまにそりかえって
いる、おとこの手のひらは、少女の手のひらががっしりつかんでいた、
そして少女は、つぶやいた。
“尾行するなら、もっとうまくやりなさい”
男はそのまま、コンビニのレジをすぎ、入口からそそくさと逃げ去ってしまったようだった。
そして、その入り口で何事かをしていたかと思うと。
かぶっていたハンチング帽をとりさり、何ごとかわめいたようにおもわれた、
しかしそれは、まるでけもののような声で、ほとんど聞き取ることができなかった。
たしかに、客や店員がそのときまったく同じ、鳴き声のようなものをきいた。
「ウォオォォオオ!!」
そして、今度は、コンビニの中の少女が、暴れまわる男の後ろ姿をみて、わらった。
そのときアカリたちは、通勤の会社員や、多くの高校生の少女たちが、駅を横切る通学路、遮断器が
もうすぐそこにせまっている場所、流行のアパレルショップのショーウィンドウが自分たちの姿を
真横からうつしているところを進んでいた、そこまでは、なんてことのない風景に紛れていた。
アカリは、悩んでいた。
昨日は、異変があったんだ、アカリは思い出したことを、友人たちに話してきかせる。
「昨日のこと、ちょうどこのあたり、ここで視線を感じた。」
三人同じようにかたまってあるいていたが、
アカリ一人だけ、このあたりで違和感を感じたらしい。
彼女は、ふと、視線を道路を隔てた向こうの歩道にむけると、自分を誰かが見ている気がして、
あちこち見まわしてみた。
まず大きなビル街、信号機、雑居ビルのうるさいライトと看板、コンビニエンスストア、
高校にもっとも近い駅の遮断器。
同じ高校の生徒がホームからでてきている、
そのうち、道路をとおりこした、同じ車道の、向いの歩道ぞいに、あるく
彼女をみつけた、彼女は、少女から、
自分に対して、二度とは目が離せないほどの、強い視線が注がれているのを感じた。
“あの人だ”
そこには、背景に駅のホームを背にして、一人の少女がどんよりと、思い雰囲気を体にまとったように、
それでいて、表向きにこにこして、そこにたたずんでいた。
【 この世のものとも思えないような、変わった、まるで人をうらんだような重々しい雰囲気、
肩をはりあげて、威嚇するけだもののように、獲物をとらえた瞬間のようなにらみつける目線。】
そして彼女は、髪をかきあげた。
【 しぐさのひとつひとつ、それもある意味現実ばなれした、人形じみた、それでいて、誰よりも人間
らしいような、きめ細やかな色つやと、はっとするような、鋭い目つき
まるですべてが計画されたもののように、雑誌の切り抜きのように、際立って綺麗だった 】
「そんな少女なんていなかったよ、視線だって嘘かもしれない、自意識過剰じゃないの?」
友人たちは、彼女の話を聞かせても、いっこうまともに取り合ってはくれない、
たしかにそうだ、そもそもが、一度目を合わせたくらいで、いったい何の運命が始まることだろう
異性との、一目ぼれでなければ、たとえばそれは、憧れ、そうだ、憧れにも近い。
だが、次はいつ見かけるかわからない、アカリは、彼女がきになってしかたがなくなった。
「たしかに見つめていたんだって、見たことない制服、
あの人は、いったいどこの学校の制服を着ていたんだろう」
「何それ」
ぽっちゃりとした女子が聞き返した。
「信号機のおとがかんかんなっていて、彼女は、そんなうるさい音なんかに目をむけずに
もしかしたら、何かをはなしかけたかもしれない、それくらいの間があった、何かつたえたかったのかも 」
「何年ごろのドラマよ、あはははは。
トレンディドラマっていうんでしょ?そういうの」
エイナが、めずらしく、馬鹿にしたようなことをいった。
「見たんだって、そして、瞬間姿をけした、あのこ、この辺じゃみたことのない制服をきていた。」
カンカンカン
うるさいほどになる遮断器、その近くの歩道を、昨日も同じように通学中のことだった、
少女と少女は、歩道をへだてて、目を合わせ、硬直したようになった。
そのとき友人二人は、辞書をもっていじっていたアカリのすぐ前をあるいていて、
アカリはあとから二人の姿を確認して、話題に遅れないように歩み寄る。
こつこつと音をたてる革靴。昨日にもまして、肌寒い日だ、雲は、うすぐらく水色にひろがっている。
ふりむきざま、もう一度彼女のいた場所を、アカリが見つめなおす、
そのときだった、あの瞬間。
もし知り合いの誰かであればだったのなら、
人はその事件を、人さらい、神隠し、家で、そんな風に名付けるのだろう。
彼女は、瞬間に姿をけしたのだ、ただアカリが、前の足の速い二人に、歩幅を合わせたときに。
「……二人が信じないので、しかたなしに、その朝、アカリは二人の会話に耳を傾けるだけとなった」
そういえば、今日の授業には、童話学はなかったわよね。
そうね、あんな気味の悪い授業、なくなっちゃえばいいのに。
そのときアカリは気づかなかった、例の怪しいハンチング帽の男が、コンビニエンスストアからでて、
向かい側の、昨日少女がいたあたりの電柱に体をもられかけさせ、
そして、からだの半分、左側が、狼のばけもののように、変化していたのを、
もっとも、数秒もせずに、男はその姿から、人間の姿にもどり、
一人ぶつぶつなにかをつぶやき、人通りをさけ、路地を奥へ、その場をあとにしたのだった。