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凸凹道中記  作者: AIAMAAI
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登場人物

 平良柊たいらしゅうは、国際線の旅客機のファーストクラスの椅子に座って、読書灯に照らされた小難しそうな雑誌を黙読していた。

 理解不能な内容の文書を1行、2行と読み進めていくうちに、柊は眠気に襲われ、大きな欠伸をした。閉じかけた眼を擦りながら眠気と戦って読み続けてはみたものの、3行目に入ると、その眠気と戦う気力も失せてしまった。

 柊は、読書灯の明りを消し、リクライニングの操作ボタンを押して背凭れを倒した。眼を閉じ、開いたままの雑誌を顔に載せて、安らかな眠りについた。

 雑誌名、『MATHS』の表紙には、”若き天才数学者の源氏昊星教授にインタビュー・数学の楽しさと面白さ”と書かれてあり、七三に分けた頭髪をジェルでオールバッグに固めて、黒縁の眼鏡をかけた、如何にも学者然とした、昊星が表紙を飾っていた。

 安眠中の柊は、漂ってきた美味そうな匂いが鼻をつき、パチリと眼を開けて、顔を覆っていた雑誌を取り除いた。

「君、どこへ行くの?」

「はい?」

柊に呼びかけられて、客室乗務員が振り返った。

「申し訳ございません。お休みになっていると思ったものですから」

「お休みになっていたんだけどね、その美味そうな匂いに釣られて、眼が覚めてしまったよ」

客室乗務員が、柊の軽口に応えるように笑みを浮かべて、食事をテーブルに置いた。

「ありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

客室乗務員は、柊の謝礼の言葉に答えて前進していった。

 柊は、テーブルの上の料理をから漂う匂いを手で払って嗅ぎ、

「匂い、」

と言って、親指を立てた。

 料理の彩りを見て、

「彩り、」

と言って、またも親指を立てた。

 料理を親指と人差し指と中指の3本で一つまみして、口の中に放り込んで

「味、」

と言って、両手の親指を立てた。

 まるで美食家か料理評論家でもあるかのように気取って目の前の料理をますは試食して、柊は徐に箸を手に取った。

「いただきます」

と言うや否や、柊は、空腹を満たすように料理をガッついて食べた。


 滑走路に、旅客機のタイヤがドンと激しい音を立てて着地し、停まった。

 空港の正面玄関の出入口から、見た目優先のシティ派ボーイの柊が、ヘヤースタイルから服装まで、洒落者らしく流行のファッションで、他の乗客達に混じって颯爽と出てきた。

 柊は、タクシー乗場に停車中のタクシーに乗り込んで、運転手に行き先を告げた。

 タクシーは発進して、空港を後にした。


 前を歩いていく、若い男の後ろ姿。短くカットされた、一応理容室には通っているようだが、手入れもされていないボサボサの頭髪にTシャツ、ジーパン、素足にサンダル履きのラフないでたちで、講義用の教材を小脇に抱えている。

「おはようございます、教授」

呼びかけられて振り返った、一見、学生と見間違いそうなこの男こそ、雑誌の表紙を飾っていた天才数学者で大学教授の、源氏昊星げんじこうせい、その人である。

「おはよう」

 大学三年生の、芥川と内海と鳥井と勢登の四人が、その場に立ち止まっている昊星の傍へ駆け寄ってきた。

「買いましたよ、教授」

芥川が、雑誌を昊星の目前に掲げた。

一冊だけか?と言いたげな眼で雑誌を見ている、昊星。

「漫画と違って、この手の雑誌は高額ですから。四人で金を出し合って、一冊だけ」

「そんなつもりで」

「わかってますよ、教授」

内海が言って、昊星の背中を親しげにポンとはたいた。

「バケましたね、教授」

「表紙を見た時は気付きませんでしたよ」

芥川と内海と鳥井と勢登が、舐めるように昊星の周りをグルグルと回りながら言った。

「仕方なくさ。教授だからそれらしくしましょう、と言われて」

と、昊星が言い訳するように返した。

「読みましたよ」

「読んだのか?」

「はい、もちろんです」

「そのために、高い金をだして買ったんですから」

「すまんな」

詫びるように言った昊星に、

「冗談ですよ、教授」

芥川が言って、親しげに背中をポンポンとはたいた。

「で、どうだった?……わかりやすかったか?」

昊星が、不安そうに言うと

「次の試験でわかると思います」

「試験の点数が良ければ」

「よ~~く、わかった」

「試験の点数が悪ければ」

「ぜ~~んぜん、わからなかった」

四人が続け様に言って、苦笑している昊星をからかうように笑った。

「教授と一緒なら、遅刻になりませんか?」

「どっちが先に、教室に足を踏み入れたかで、遅刻かどうか決るぞ」

 昊星は、生真面目な顔付きで冗談を言った。

「それじゃ、教授」

「先に行きます」

「教授の後から行くと、遅刻になりますから」

 昊星に背中を向けた芥川と内海と鳥井と勢登の四人が、

「やったな」

「成功したぜ」

と言って、グータッチした。

 四人の学生達が、そんなことを言ってるともしらずに、満面の笑みを浮かべてその背を見送っている、昊星であった。

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