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異界で子育て道中  作者: ハンティングキャット
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グロ注意

 一体何が起きた


目の前で自分の方目掛けぶっ飛ばされ突っ込んでくる状況をすぐにのみ込めなかった小隊長は、すぐ真横にぶっ飛んでいく部下に意識を奪われ、その場に棒立ちし無意識に呟いていた。


背中を思いっきり強打した鈍重な音が小隊長の背後から襲い、虚を突かれたような顔で振り向いた視界先──


顔面を自身の血で深紅に染めながら大木に寄りかかりずるりと崩れ落ちる部下の姿が彼女の意識を釘付けにさせた。


大木にその衝撃の強さを示すかの如く円形状のひびが入り、ぐにゃりと横へ地に伏せる部下。

軽鎧とはいえ強度もさることながらそれなりの衝撃にも強いニッケル魔鋼が鳩尾辺りに禍々しくへこみ歪んだ痕がまざまざとその恐れた眼に映ると、小隊長は無意識に叫んでいた。


敵だ  それも尋常でない強さをもつレベルの、てき…?敵だって??


まるで掬い上げた手のひらから落ちる砂のよう──圧し潰されかけた精神からなけなしの勇気を振り絞り部隊に危機を知らせる小隊長。


僅か数発、おそらく2、3発の肉弾戦で我が国の軍上級に準ずる騎士を撃破させる実力者。

こんなクレスト大森林で単独かつ数発で撃破するレベルとなればグリーンサルタリー変異種ですら最低でも10発はないと無理だ、となれば‥‥


一刻も早く本隊に伝えねばとその先を言い掛けた小隊長であったが、部隊の者が発動したのだろう……すぐそばで起きた初級爆裂魔術が炸裂した爆音に気を取られ身がすくんでしまった。


 こんなちんけな魔術、訓練や実践で何度も経験し慣れきっていた!

それがなんだ、なんで新兵がよくやる行為を犯してしまった自分に情けないという気持ちが湧き上がらないんだ?!

 まるで自分が怖がってるんじゃあないのか?この私が、他国の戦争で前線に何度赴き6度死線を渡ってきた私が怯えただと?


自嘲気味になりかけた己を律しよう軽く頭を振るい、幾ばくかの恐怖を振り落とせた。


畏れるな、恐怖にのまれるな、こんなの一時の迷いだ、すぐに状況把握、部隊の位置確認!


やることがコンマ秒単位遅れればそれだけ生存確率が下がると振り返った彼女は──目の前の光景にぼうぜんとしてしまった。


 茶色いへんな服装、ガラスの付いたへんな額あて、ネックマフラーに腰に差した細身の鞘‥‥

その表情は怒りに満ち溢れていた――どの人種の怒りにも勝るとも劣らぬ怒り狂った顔つきは小隊長の折れかけた勇気をへし折らせるのに充分過ぎた


 背中に背負うでっかい卵が霞んでしまう程の恐怖の権化が肉迫し、身構える事すら一瞬忘れ動けなかった小隊長の胸部目掛け、弓を射るような構えから正拳突きを繰り出していた。


 何のためらいない、渾身の一撃は鉄の鎧に拳痕をまざまざと見せつけるよう。大いにひしゃげさせその衝撃を小隊長の肉体に余すことなくらわせた。


 人間?!ニンゲンガなぜ‥‥


気絶する刹那、自分を襲った正体不明の人物が首飾りにし鎧の内側に仕舞い身に着けていた魔道具で鑑定した結果に驚きつつ小隊長は意識を手放していった‥‥


*****


 っち、中になんか着込んでたか!!


振り抜いた拳にジーンと広がりつつある鈍痛。

骨は折れてはいないがあと数発鉄鎧らしきもんをなぐればヒビはいるなと瞬時に自己判断する菅野は非戦闘民であろう民を襲う蛮族へ駆け抜けていた。


胸に負っていた荷物は最初の女騎士をぶん殴る前に通りがかった木々に投げ捨てるように置き、今は半分身軽になった我が身をフル稼働させ一人でも多く救出しようと蛮族と断定した騎士もどきへ狙いを定めた。


周囲の生い茂る木々がまるで行く手を阻むかのよう、一番近い蛮族へ強襲しようとする菅野の道を阻み、非戦闘民が茂みへ隠れ──そこに多数の矢が降り注いでいくのを目撃してしまう。


 こっちこいってそっちへ逃げるな、距離がありすぎる遮蔽物に隠れろ!!


 のど元にまで出かかっていたが彼の願いを裏切るよう逆方角へ逃げるゴブリン達。

男女入り混じった悲鳴が上がり、すぐに人の気配がしなくなる。

すぐそばで女弓兵と長耳の男弓兵が「弓の腕上がったわね、でも油断しないで」「そ、そうかい♪君のおかげだよ」と談笑する声が木霊する


 女に手を上げるのは俺の流儀に反する

 だがこいつらは降伏した非戦闘民、それも年端も行かぬ子供まで殺しやがった。


軍人でない一般人を一方的に蹂躙するのは断じて許さん!

丸裸な孤児を虐殺なんぞどこまで落ちぶれるんだ鬼畜○○!!

断じて許さん、鬼畜共の悪行を正すのも大日本○国の定めもある

‥‥が、それよりも俺の堪忍袋を切れさせた罪は重い!!


ゴブリン=原地一般市民と大いに勘違いしている菅野だが、異界の常識どころか知識すらない彼にとって目の前の出来事を許容するような要領はない。


 黙って虐殺されていく事を見ていくなんぞ赦せるわけがない!

後方で必死に不思議パワーで守りつつ仲間に指示を出す存在達に眼を向ける。


今も必死に仲間を護ろうと奮戦するリーダーの行為を無駄にさせまいと駆け抜ける進路――先茂みと茂みの隙間に目を見張り行動に移す。


 プッツンした彼は何のためらいもなく背負い袋からあらかじめ取り出し腰ベルトに刺していたナイフを抜き取り投擲。

近場にいた女弓兵が音に気付き振り返り、露出していた鎖骨辺りに吸い込まれるようにナイフが突き刺さる。


同僚が驚愕した顔で後方に崩れ落ちるのを目にする男弓兵は激しく動揺しているのか、その場で某立ちしている。

 ハッと気づいたときには目の前にでっかい卵を背負った菅野が懐に潜りこんでおり、顎を打抜くアッパーカットを喰らい意識を途絶。


余計なことをすんなよと、ナイフが刺さり悶え苦しむ女騎士の片腕と片足をためらいなく踏む付け骨折させる。

抵抗を削ぎ終え、無残に横たわるしゴブリン死体の束に焦燥感を狩られ生き残りを救出しようと辺りを探る。


「た、たすけ」

「殲滅せねばいつまでたっても平和が訪れん‥‥すぐに殲滅し仲間を集結せねばならぬのに准尉は何をやっている」


 恨めよと剣を構え、尻もちつき震え怯えるゴブリンの子供へ斬りかかる男騎士を見つける。

じゃりっと足元に落ちていた小石をつかみ取った菅野はそのまま掬い上げるよう投石。

アンダースロー気味に投げられた小石はかなりの速さで宙を飛び鋭いカーブ描きながら、少尉と呼ばれていた男のこめかみへ吸い込まれていく。


当たる寸前に気付いたのか、こちらに気付き慌ててスウェーバックで辛うじて避け自分目掛け突撃してくる菅野に体を向け構える。


「グリーンサルタリー変異?! いや違っ、そもそも准尉は何故索敵魔法を止めているんだ!! 一般人が何故こん」

「皆殺し隠ぺいする為かよくそ野郎どもっ!!」


 剣を頭上より上に上げつつ空いた片手を卵を背負い突撃してくる菅野目掛け翳し構える少尉。

腕を前に突き伸ばし掌を見せつける構えってことは、こっちの間合い距離感を狂わせる算段かと判断した菅野だったがどうやらその考えはハズレであったようだ。


「我願う、彼の者にかけられた願いを打ち消すことを 我願う、彼の者の加護を失せることを」


 ああん?なーにぶつぶついってんだ?? ○公の念仏ってやつか?


距離10mを切ったあたりで少尉と呼ばれた男の掌が青白い光を発し始め、ソレが手の平を包み込んでいくのを目にした途端、菅野の勘がナニカ拙いと直感し全力疾走中の最中真横に無理矢理跳ぶ。


「ヴェルズビュート!!」

青白い閃光が翳す掌から放った瞬間、幾何学模様の術式リングが菅野の体を包んだ。


射線軸上──しかも掌が見えないようわざわざ進路上にあった大木を挟んで隠れたのにもかかわらず、リングは高速に回転しながらその輪の幅を縮ませ彼を包み込んでいく。


 っち、捕縛する奇術って奴か!?‥‥ん?なんで消えてんだ??


パァンっと弾け飛び霧散するリング。身体的な異常はないと簡易チェックすませ、異常がない事に菅野の表情も訝しげな顔になる――が直に蛮族を仕留めようと壁にする大木から躍り出し疾走する。


「バカな、アゲインパワー・アシストスピードなどの補助魔法を使っていないどころかかかっていないだと?!」


 なーに驚いてんだアレ?と内心訝しげながら、なぜか構えを崩した少尉の懐に潜り込んだ菅野。

でかい卵(40kg)を背負っているにも関わらず、50m8秒フラットで疾走してきた菅野に驚きつつもすぐに冷静さを取り戻し、上段の構えから剣を一気に振り下ろす。


賊を切り捨てると迷いのない一撃は菅野の左肩へ──吸い込まれることはなかった。


 まるで横にいる的へジャブを繰り出すかのよう、鈍く光る銀の剣の腹にすでに迎撃行動を終えている菅野の拳が中り斬撃軌道を大きく曲げるよう弾き飛ばしていた。


 馬鹿な…水平でない傾いた角度で、しかも俺の剣を振りかざす速度はかなり速いと言われる俺の斬撃を叩き落としただと?!!


しかも素手でとドンピシャで叩き落した人物に畏怖した彼だったが、すぐに意識をかえ尾の男を鎮圧しようと思考を切り替える。


 菅野の繰り出した打撃は彼の予想以上の威力だったのだろう、踏ん張りがきかず右へ大きくずれ込み軌道が反れる。

まるで素振りの最中に突然手首に重鉄球が付けられたかのような重みに耐えきれず、ガードをこじ開けられた錯覚に咄嗟に空いた左手を胸元へ引き寄せる。


盾はついてないが、現状後ろに倒れかける状態ではシールドバッシュのように前へ弾き飛ばすことも期待できないと判断した彼は左腕を犠牲覚悟に巴投げの要領でこの男を後方へ投げ飛ばそうと佳作する。


 彼の目論見はうまくいくはずだった。翳した左腕に彼の手が伸びたところまでは‥‥


突然バランスを崩し浮足立っていた左足に激痛が走り苦悶の顔に変わる少尉。

歪む視界を下に向けると走り込まれ所々くたびれていた男のブーツが自分の膝事太腿に食い込むほど踏み抜いていた。

おもいっきり踏み抜いたうえ全体重を掛けられたのだろう。


乾いたうめき声をあげ、構えが鈍った左腕を掴まれた少尉は後ろに倒れかけていた上半身を無理矢理前へ引っ張られる。


踏み抜く太腿を足場にそのまま空に駆け上がるかの如く、空いた左ひざを反動をつけ前へ出てきた顎へ一気に振り上げ撃ち抜いた。

シャイニング・ウィザード気味に繰り出された一撃に少尉の意識は刈り取られ後ろに崩れ落ちる。


彼の着地を待たず大の字に倒れた少尉はそのまま小刻みに前進をけいれんさせ、華麗に着地した彼は第二警戒レベルまで引き落とし、その場から離れると軽く膝や太物などについたほこりなどを手で払い落としていった。


「っよし、敵の気配はしないからもう大丈夫だろう♪ やれやれ面倒なことになってきたな‥‥」


 がしがしと帽子事頭を掻きながら辺りを見回しつつ軽く腕を組みため息をつく菅野。


その一連の出来事を見ていた生き残りのゴブリン‥‥以下六名はこの卵を背負った変な人間はなにものなんだろうと…眼を大きくしぼうぜんとしながら男の背中を見守っていった。

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