表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界で子育て道中  作者: ハンティングキャット
5/59

5

 逃すかてめぇー!!


悪路に転がる小石処か茂みすら蹴り飛ばし、木々を掻き分けるかの如く密林を駆け巡る菅野。

かれこれ1km近く駆けているのだが、件の獲物との距離が余り縮まっていないことにいら立ちが噴出しているのだろう‥‥


荒声を上げつつ、器用にむき出しの木の根を蹴り転がる岩の側面に手をかけ曲がる速さを縮ませ距離を詰めようと徐々に速力を上げていく。


バカでかい卵を不安定なひもで背に括り付けるよう背負っているにもかかわらず、まるで野生の狼の如く衰える所か更に速くなる蛮族(菅野)に後ろをチラ見する件の獲物は焦るよう走るフォームを変え脱兎の如く逃げて行く。


「つうかこの卵、12貫(約40kg)って重いんだけど何入ってんだよあんののっぺらぼう!!」


 未だ連絡がつかない謎の人物に悪態付きながら進路上の岩を蹴り昇り、一気に跳躍。


いぃい~グリーンサルタリーの変異種ぅと微かに女の子が聞こえ、あちらこちらと横たわる岩場道の中から最適且迅速に進めるルートを瞬時に把握し飛び移っていく。


原住民捕捉っと、声かけてえが連合軍所属の可能性も捨てきれん、秘密基地とやに誘導されている可能性も捨てきれん、そしてなんで逃げるのかもわからん!!

下手に接触し最悪捕まったら目も当てられんが‥‥


何より情報がないのはキツイ!!


さっきっから虫はよく見るが〝小動物〟すら見かけないのおかしい!

1km近く駆けているがまるで出口が見えないくらい豊富な密林地帯なくせに大型はおろか野ネズミに小鳥の囀りすら見えもしない聞こえもしなのはおかしすぎる!!

気配はするだけですぐさま逃げちまう辺りこの密林に何かが起きているのは火を見るよりも明らか


ん?声から察するに女か?…俺の事をサルって言いやがったなあの野郎~


馬鹿にされたとカチンときたのか…とっつ構えて口割らしてやると鋭い眼つきに変え、跳び駆ける速度をさらに速めた。


*****


「なんなの、なんなのあのグリーンサルタリーの変異種―!!」


 この道はタウイ街に抜ける最短ルートの1つ。

だけどV字状の切り立ったちょっとした崖の悪路でごつごつした岩場に囲れてるは、ムシャ返しみたいに上は沿ってるはで通りにくい上のルートはあっちこっち行き止まりになってるし、あっても所々の対岸はかるく8mの幅を飛び越えるか橋でも掛けないと通れなかったから仕方なく行くとき下を通ってきたというのに!!


「何でアレついてこられるのよー!!早く魔力を回復させなきゃいけないのにぃぃ!!」


この日何度目になるか、踏み抜けば足を取られ転びそうになるは、泥をはね上げ被るは、ほこりまみれになるは!!


全くなんて日よと悪態付きながら本部へと逃げ込む事だけを考え逃げることに集中していく。

探知魔法を常時発動しているから大まかなモンスターの位置は常時把握できているしその動向も常に思考の片隅にとどめている。


手持ち武器はナイフ一本のみ、これで戦えと?ふざけんじゃないわよ


私事ターニャ・グリードは紅蓮の騎士団の中で一番探知能力と身のこなしが高いというだけでこんな斥候の役を回されてばかり!!


そりゃ近接戦闘や弓や携行大砲による射撃戦も隊の中で下の方ですけどぉ~

お前は実戦でも訓練でも一番の生存率が高いんだ、魔法戦での成績も高い…つらいが頼むぞっと隊長にいっつも任されてるけど‥‥

ってぇあの変異種どんだけ体力あるのよ?! 重装備で1000m8分の好成績だしている私に追いつきそうなんですけどぉ

すっごく怒った顔で突っ込んでくるってなんで卵背負ってるの???


って前を見ずに走っていたら──ようやくおめがねの魔力感知に引っかかり思わず顔がほころんでしまった。


「やった、本隊にたどり着いた!」

「ターニャ・グリード!!何をしている」


斥候の任を放棄し逃げかえってきた狼藉者と謂わんばかりに副官イオク・ラーストさんが詰め寄ってくる。


この人1に規律2に規律、34が無くて破れば即厳罰の堅物で隊の中でもダントツに嫌われ者なんだってそんなこと思ってる場合じゃない!!


「グリーンサルタリーです、しかも変異種の可能性大です!変なの背負ってこっちに来ます!」

 手短にかつ要点のみを伝える。

その言葉に副官の顔が驚愕に変わるのを初めて見たターニャは内心ほくそ笑んでいた。さぼってないのにいっつも目の敵に見てくる嫌な奴に一矢報えたと。


「グリーンサルタリー?! 一人誘拐し男なら嬲り女なら孕ますまで犯し、住処の居場所を聞き出し終えると大部隊で襲ってくる中級モンスターがなんで?!」

「そんな、あいつ一匹逃せば村や町の2つや3つ軽々全滅させると忌嫌される」

「半月前のモンスター討伐でマサラ森にいるのはすべて殲滅したって」

「今回は捜索とゴブリン共の殲滅だって簡単な任務だとイオク副官が」


 まだ実践をさほど経験していない下級騎士達が動揺し狼狽え始めた。

無理もない、身のこなしが抜群に高く、集団戦はまるで一つの個のように動く連繋力の高さ。肉体的な防御力は鉄鎧に匹敵し魔法耐性の高さに手を焼くのは子供でも知っている。


単騎でも誘う事と情報持ち帰ることに趣置いた習性からか、常に周囲を見渡し無暗に深追いしないなど状況判断能力が高い。

上位に片足を突っ込むレベルに例え1対4であっても下級騎士なら勝ち目が薄いと定石な奴を知れば狼狽するのも無理はない


人攫いのモンスター版と忌み嫌われ、しかも今回は変異種とくれば十中八九、10匹相当の実力はあるであろう。

今私と副官除いた下級騎士10人が現状‥‥即時に任務中止し一刻も早くこの森から離れたいと懐くのは無理もない。


「静まれぇぇー!!」


 そんな紅蓮の騎士団員を一喝せんと言わんばかりに副官の怒号が森に木霊する。

ビクッとその場で体をすくめる団員達の中、すぐに身振り手振りで指示を出す我が副官。


「私とターニャは殿、グルドとカリスの隊は私とターニャの後ろの付き状況に応じて後退!!2名はタウイ街へ伝令、残り2名は別動隊に伝令、信号黄色接敵、赤退避…青全滅の兆し」


直にかかれ!!と、いつもの訓練時に見る怒声と共に指示を出し終え私が逃げてきた方角へ体をむけ抜剣。

元々荷物も大方片付け済みと訓練の賜物だろう、多少の混乱起きつつもてきぱきと動き回る団員達。


この人すぐに全体の損得を弾きだし的確な指示を出すからこそ副官なんだよね~冷静すぎて


「ターニャ曹長、本当にグリーンサルタリーでなかったら」


 解っておるだろうなと鋭利な刃物を突き付けるような眼つきで睨んでくる副官に下腹部がひゅんっと冷え込むのをターニャは知覚した。


やっばぁ~もしグリーンサルタリーじゃなくただの人間だった場合、210年続く地獄の始末書と書類仕事がキソウ‥‥

せめてモンスターでありますようにと、藁にも縋るように祈りつつ、魔力全回復させようと補給できた不味い魔力回復剤を一気に飲み干し、全身に行き渡るよう深く深呼吸し身構えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ