4
くそ‥‥ここどこだ
無理矢理転移されてから丸1日‥‥
菅野は深い森の中に迷っていた。
あの後聞きたいことを怒鳴り散らしながら呼びかけたがまるで反応がなく、致し方なく周りを見渡してみるが──
足元すらろくに見えないほどの茂みの群れに15、6m先もろくに見えない鬱蒼とする密林しか存在しない。
あいつの反応から察すると十中八九、あのくそ神が干渉して座標でもずらしたんだろう。
転移する‥‥意識がぶつりと消れる刹那、悔しがりながらもほくそ笑む下種(創造神)が視界端に映り、仮面の男の背後から何か‥‥おぞましいナニカが伸びたのがなんとなく思い出した菅野は気持ち切り替え銛を調べることにした。
当初は先程の出来事は夢で、自分はどっかの島かなんかに漂着できたと強く思い、ついでに漂流したであろう機体があればめっけもんと捜索含め先ずは周囲を調べようと道なき道を進んでいた。
だが、進めど進めど獣などの気配を探知はしているが、人の気配はまるでなく、代わりに人と獣が混ざったような今まで感じたことのない異質な気配が菅野の勘に引っ掛かるばかり。
自前の探求心を生かしその方角へ進んで近づいてみるが、その混ざった気配はまるでこっちに怯えているかのよう‥‥即時気配を消しゆっくり退いたり、一目散に逃げだしてしまう。
腑抜けと嘲笑う事はなく、生存本能が強いのが多い奴等ばかりで遭遇は難しいか、っとぼやきながら卵を抱え進むこともおっくうになりかけた菅野はあちらこちらと木の枝やら幹に巻き付くツル植物に注目する。
紐代わりになるか‥‥当初は気楽に考え、装備の中にあるナイフを取り出しつつ引っ張っては見るが──
「なんじゃこりゃ?! びよんびよんってまるでゴム見てえじゃあねえか!?」
左右に、そして押したり引くたりと試してみると見事なまでに弾力としなやかさを兼ね備えたゴムそっくりのツル植物。
試しにと思いっきり引っ張ってみるとその力に比例し、びよーんっと伸びるは伸びる。
昔酒の席の余興で、零式艦上戦闘機──いわゆるゼロ戦に荒縄一本括り付け、たった一人で人力牽引したことあった菅野だが、菅野の力に負けることはなく‥‥ついには絡みついていた太めの木が2人の力に耐えきれずへし折れ引き分け?に終わった。
「はぁはぁ‥‥くそ、やるじゃねぇか!」
疲労困憊気味になりながら悪態付きつつ、ナイフでそっと切り口を付けるとあっという間に千切れたツタ植物。
あーこういう代用品がむこうにあればな~とたばこ用のライターで炙ってみるとある程度炎に強く、中々ちぎれない特性持つ謎植物を〝ゴムもどき〟と命名し手っ取り早く組みひもに仕立てあげる。
ゴムもどきと格闘する前においたでかい卵に近づき適当に加工した木の板を間に挟みながら即席の背負子を作りあげた。
「っと、意外としっくりくるな~しっかしこの卵、いったい何が入ってんだか‥‥」
アイツの話だと役に立つっていうから一応信じて運んでるが、今の状況下だとあんまよくねえしな~
形状はでっかい鶏の卵みてえで、軽くたたいた感触からアルミ合金なみの頑丈さ。
何より時折だが中で動いている振動が直に伝わる事から生き物であるのは違いない。
なんにせよ。非常食には使いたくないなと怪訝な顔をする菅野は休憩がてら装備を一旦確かめていく。
にぎりむぎ飯四つとたくあん、水筒、たばこ、コンパス、日章旗、ナイフ、手ぬぐい数枚、簡素な医療道具‥‥
んで、なんでか興亜一心刀がついてるんだよなこの荷物入れの外口に、ってリュックサックつうのかこれ?
見た目手持ち巾着程度の大きさに反し結構入れられるんだな~と感心しつつ、もう一度荷物を詰めなおしていく。
落下傘装備はねえしとぼやきながらここまで背負っていたリュックサックを前に抱えるよう負いながら鬱蒼とする密林を再度進む。
途中立ちションしつつ、こっちを探る気配がないかアタリを付けてみるがまるでない事に苛立ちつつ、ふと見上げると──丁度真上に成る果実に眼を付ける菅野。
かじられた痕を数個を確認し、まるで気にも留めずかじられた果実をもぎ取り、歯痕がない個所をガブリ
「パイナップルみてえな形してるが何だこりゃ、酢漬けリンゴ見てえにすっぺ、マズくはねえが‥‥」
腹の足しになる程度かと未知の果実をなんもためらいなくしゃくしゃく食べていく。
普通、自分の知識にない未知の植物には毒がある可能性を考慮し慎重に調べるのがセオリーなのだが‥‥足元やまだ枝に付いている実には歯形が違う事から多数の野生動物が食ってるからとりあえず毒はねえだろうと半分確信半分勘に頼り食べる辺り大物なのかただの無鉄砲なのか‥‥
判断付きにくいと菅野を“見ている”何者かが僅かに動揺した
と、その刹那──用を足し終えた菅野が動いた!
それもその何者かが見ている方角目掛け真直ぐに
「こっちか間抜け!!この野郎~さっきから見られていてむかつくんだよ!!」
尻尾だしやがったなと悪い笑みを浮かべる菅野は目の前の木々に小岩や茂みといった障害物を蹴散らすよう、動揺し逃げるナニカへ向け跳び駆け抜けていった。
*****
「な、なんなんだあの人間っ!!?」
茂みに隠れ目をさらにするよう監視していたナニカが悪態つきながら一目散に逃げていた。
当初ギリースーツのような格好で密林に溶け込み隠れ息も気配を殺し、侵入者を観察していた。
茶色いへんな服装、ガラスの付いたへんな額あて、ネックマフラー‥‥
そして極めつけはあのでっかい卵…!! どう見ても卵盗人にしか見えない!!
この辺にコカトリスはいない、なによりコカトリスはあんなデカイ卵産まない!
どっかの貴族が注文したのを運んでいた商隊を襲いたまごを盗んだんだろうと判断し、第三者はいないか探りをつけていた。
だが奴はあっちこっちとまるで迷子みたいに移動するばかりでこちらを煽るような行動を、き、極めつけはあの、たって用をたたたす、なんって‥‥
なんて破廉恥なことをとこの時ばかりは斥候の腕がチーム一な腕を呪ったわと見えてしまったアレに妄執を払いのけつつ、急いでこの場から去ろうと逃げ出していた。
「こっちの気配が漏れたらすぐに気づきやがって!? なんなんだよアレ、プロでも見つけにく密林にはいつくばって、100m離れていたのに、〝魔力“を消していいるのに何で気付くんだよ~!!」
それもこれもあの美味そうなぎんいろの変な食べ物の所為だと悪態付きながら逃走経路を把握させまいと懸命にフェイント混じらせ逃げる。
傾斜にごろついた岩や木の枝、獣でもためらう足の踏み場もないような悪路をまるで苦もせず、ぐんぐんと迫りくるプレッシャーに女性はさらに悪態付く。
「木々を移動するグリーンサルタリーじゃないのに、グリーンウルフなみなのなんで足が速いのよあの人間!?」
新種のモンスターに捕まってたまるかと耳の長い金髪女性は一目散に町へと逃げ込んでいった