サイレンススズカ、動き出す
多分次回あたりで完結です。
サイレンススズカは奇跡的にも骨がくっつき、馬なりの調教も始まっていた。
その頃の3歳春クラシックは大本命である無敗の皐月賞馬アグネスタキオンが屈腱炎により引退。日本ダービーはジャングルポケット本命とクロフネ対抗と人気を集めていたが皐月賞2着のダンツフレーム、青葉賞を逃げ切った外国産馬ルゼルも馬券圏内の評価だった。
【やはり皐月賞2着馬と3着馬の対決になった!ジャングルポケット抜けた!ゴールイン!マル外解放元年のダービーを制したのはジャングルポケット!2着はダンツフレーム!クロフネは5着!】
結果はジャングルポケットが勝利。二着にはダンツフレーム、外国産馬はクロフネの掲示板がやっとという有様で散々な結果に終わった。
〜8月〜
「15-15も出来るようになったか…」
サイレンススズカの調子は徐々に戻り、15-15という調教を行っていた。15-15とは1F(約200m)あたり15秒間隔で走る調教であり最も効率的な調教とも言われている。
「(この調子なら毎日王冠に出走出来るな。…いや秋天で骨折したのはこの毎日王冠が原因かもしれない)」
毎日王冠に出走出来る可能性も芽生えてきたが首を振ってその考えをなくす。確かに毎日王冠はサイレンススズカの得意な左回りの東京競馬場であり、1800mと距離も適正距離内である。実際にエルコンドルパサーやグラスワンダーも凌いでいるのが何よりの証拠である。
だがどうしても天皇賞秋で骨折した原因はこの毎日王冠にあるのでは? という考えがよぎる。天皇賞秋は毎日王冠のレースから一ヶ月満たない内に始まる。旧4歳の時、サイレンススズカは日本ダービーとマイルCS。どちらも一ヶ月経過しない内にレースを行った結果惨敗している。しかしそれ以外は役一ヶ月以上間が空いているのだ。その状態で走るとサイレンススズカは本領を発揮し、強くなる。負けてなお強しの弥生賞や天皇賞秋(初回)、香港カップなどの例がそうといえる。
「(札幌記念は現状無理、だからといって京都大賞典は右回りの上に距離も長い…それに毎日王冠と同じ週だ。論外だ。)」
どう考えても札幌記念には間に合わない。出走するとしたらシンザンのようにそのレースを調教と見なしてレースするしかない。しかし京都大賞典は毎日王冠と同じ週で行われる上にこちらの方が600mも長くサイレンススズカの不得意(とは言い切れないが)の右回りである。その上京都大賞典には去年の年度代表馬テイエムオペラオーを始め、オペラオーを二度先着したナリタトップロード、そして世界のステイゴールド等も出てくる為実質GⅠと大差ない。
「…オールカマーだな。」
消去法で考えるとこのレースしかなかった。オールカマーは9月に行われ、距離もサイレンススズカが制した宝塚記念の距離と同じく2200mとサイレンススズカの適正距離内である。
しかしオールカマーは京都大賞典と同じく右回りで行われる上に中山競馬場で行われる。中山競馬場の特徴は心臓破りの坂と呼ばれる坂がありそれを登るにはその距離のレースよりも長い距離を走り切れるスタミナとパワーが必要だ。一度中山記念で中山競馬場を制したがその時は距離も1800mと短く、オールカマーのような2200mではない。
しかしオールカマー以外の選択肢はダートしかない。サイレンススズカの特徴は生まれ持った絶対的なスピードだ。ダートではそれが打ち消されてしまう。確かにパワーもあり、走れないこともないがわざわざサイレンススズカの特徴を殺してまで出走するほどではないのだ。
〜9月〜
中山競馬場にてオールカマーが行われていた。
【サイレンススズカまだ余裕のリードを取って直線に入った!】
サイレンススズカがオールカマーに登録すると聞いてやってきた客は多く、この会場は熱気に包まていた。
【しかしエアスマップがそれを捉える勢いだ!サイレンススズカは一杯になった!】
だがその歓声も悲鳴に変わった。サイレンススズカが差し切られてしまったのだ。
【エアスマップが差し切った!!ゴールイン!2着にゲイリートマホーク!サイレンススズカは3着争いがやっとというところ。勝ちタイムは2:13.9】
サイレンススズカは終わった。誰もがこのレースをみてそう思った。あのエルコンドルパサーやグラスワンダーを寄せ付けない強さを持ったサイレンススズカはもうどこにもいない。そこにいたのは老いた麒麟だった。
「キツかったか?」
厩務員がそうサイレンススズカに声をかける…するとサイレンススズカは涙を流していた。
「次、頑張ろうな。ススズ。」
厩務員の言葉を聞いたサイレンススズカはどこか哀愁を感じた。
〜10月〜
ダービー馬ジャングルポケットは札幌記念(3着)の後菊花賞へと歩み、ダービー2着のダンツフレームは神戸新聞杯(4着)から菊花賞へと歩んだ。
新たな有力馬としてジャングルポケットやダンツフレーム等の有力馬多数を破ったエアエミネム、サイレンススズカを破ったエアスマップの半弟マンハッタンカフェも注目されていた。
そんな中、クロフネはNHKマイルCを勝っていながらもダービーで掲示板がやっとということから菊花賞を走れるスタミナがあるとは思えない。そこで天皇賞秋に向けて調教していた。
この年の天皇賞秋に外国産馬は獲得賞金の順に二頭出られるようになっている。1頭目は去年からの因縁であるテイエムオペラオーを破って宝塚記念を制したメイショウドトウに決まっていた。
そしてもう一頭目の枠に入るべくクロフネがエントリーしていたがまさかの出来事が起きた。
エアシャカール世代の外国産馬、アグネスデジタルが登録してきたのだ。アグネスデジタルは3歳でGⅠを勝っており実力もあるがそれはマイル戦やダートでの話だ。芝の2000mならばラジオたんぱ杯で3番目に早いタイムでゴールしたクロフネの方が世間の評価は上である。しかし世間の評価がどうあれクロフネよりもアグネスデジタルの方が獲得賞金額が多く、もう一頭の出走馬はアグネスデジタルに決まった。もちろん「マイルのダート馬がクロフネのチャンスを潰した」などとボロクソに批判されたのは言うまでもない。