拾われる
私は、大学1年生だった
東京でひとりぐらしをしていた
ひとが周りにいると苦しくて泣いてた
お母さんから電話が掛かってくると恐怖で泣いてた
でも学校に通わなければいけないからカウンセリングに通ってた
隣の駅まで
田舎で、何もなくて、別世界みたいだった
なんか疲れて、あと、めっちゃ寒くて、もらった薬の袋を抱えたままバス停のベンチで座りながら横になって寝てしまった
「おい、おい!」「大丈夫か?!」と声がした
「気分悪いんか?意識あるか?立てるか」
「あ、大丈夫です」
「体すごく冷たいし、顔色悪いし…救急車呼ぶか」体が大きめの男の人が体を揺すっていた
「あっ、ほんとに大丈夫なんで ちょっと寝不足で」と言いながら体ががたがた震えていた
心配だから、と言って、その人は私を車の助手席に乗せて(大丈夫だって言ったんだけど、倒れたらダメだからほっとけない、どうしてもっていうなら救急車呼ぶって言われたから)
暖房をがんがんにつけて、缶のホットココアを買ってきてくれた
私はあったかくて寝た
(あったかくても寒くても寝る)
その人は画家だと言った
風景を仕事で描いてて割と有名ならしいことと、
滋賀のアトリエを、友人と共同で使ってる その近くに住んでる
東京には気分転換で車でたまに来る
その先で風景を書いたり、参考資料として写真を撮ったりすると
「仕事では風景を描くけど、趣味で人も描くんだ
趣味だから下手くそだけど
君、バイトしない?1年に1、2回東京に来るから、その時絵のモデルになってくれない?お金バイト代ちゃんと渡すから」
「えっ、やです 何するんですか 恥ずかしいしやです」
男の人はちょっとしゅんとしていた
男の人は車で近くまで送ると言いはったけど、マンション知られるのがこわかったので最寄り駅まで送ってもらった
降りる時に、
「絵のモデルの話、たまにだったら良いですよ」と言ったら
「ほんと?嬉しいなあ」とその人は喜んでいた
「またたまにメールするね 東京に来るとき声かけるね」と言って
帰っていった