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第九話 アフロwith幼女・ゴー・トゥー・プリズン

 森を出たエージは門兵に捕まっていた。


「お前、どこから来た。見慣れない顔だが……というより、こっちって魔境だよな? 本当にどこから来たんだ?」


「その魔境からです」


「魔境からね。なるほど、って納得すると思ったか? あそこから来れる人間とか、それこそ騎士団の人たちくらいだろうよ」


 門兵の言うことは尤もだった。彼が守っている門はローゼニア王国の入り口であり、イメンサス大森林に一番近い位置なのだ。そうそう人が通る場所ではないので、門兵はここを利用する人の顔を大体覚えてしまっている。それに大森林の危険度も把握しているので、ただの少年にしか見えないエージがそこから来たとは信じられないのだ。


「ったく、悪い奴には見えねーから別にいいけどよ」


「あ、いいんですか?」


 ゆるゆるである。


 しかし、何も無く通すということはない。一応は一国の門を任された兵士なのだから、当然の対応である。


「ただし、俺の質問に答えてもらう。まともな回答じゃ無いと判断したら……ここを通すことはできねーな」


 油断ならない空気を醸し出す門兵にエージも気を引き締める。


 少しの間を置き、門兵の口が動いた。


「お前は今、とんでもなく急いでる……それこそ自分の人生に関わるくらいの大事で急いでる……そんな時、目の前に迷子の幼女がいたら!?」


「助ける!!」


「通ってよし!!」


 即答。


 対し、門兵は満面の笑みでグッと親指を天に向けた。エージもキリッとした顔で親指を突き上げ、その手を門兵に差し出す。彼もその意を察したのかエージの手を取り、互いに握り合った。


 二人の紳士の心が通い合った瞬間であった。


「紳士ならこの国に……シンク様がいらっしゃるこのローゼニアに入る権利がある。俺はそう思ってるんだ」


「シンク様……そういえば、アンジェリカさんたちを見ませんでしたか?」


「! まさかロックソード騎士団長が言っていた異世界人って、お前のことか?」


 この門兵は二日前に大森林から焦げたアンジェリカたちが帰ってくる時にもここにいたのだ。何事かと慌てたものだが、アンジェリカの説明によって事情を理解し、同時に異世界人の少年のことも聞いていた。先ほどのエージの問いかけからそのことを思い出し、目の前のアフロ紳士が件の異世界人ではないかと当たりをつけたのだ。


 これらのことを説明されたエージは、アンジェリカたちが無事に帰れたことを知って安堵の溜息を吐いた。


「そいつが来たら通してやってくれって言われてたんだよ。礼がしたいとも言ってたし、後で王城に出向いてみるのもいいかもな」


「礼なんて貰うほどのことはしてないんだけど……」


 爆破されてただけだし、と心中で呟くエージ。おかげさまで服はボロボロ、髪はチリチリである。


「いーや、この国の皆がお前に感謝するだろーぜ。何せシンク様を救ったんだからな。王国の宝を救ったとあれば、礼の一つや二つは当然だぜ……それは俺も思ってるんだ。本当にありがとな」


「……やっぱり、礼を言われるようなことじゃないよ。だって、紳士として当たり前のことをしただけなんだから」


「お前……ふっ、そう言われちゃ仕方ねーな。俺の名前はジョージってんだ。お前の名を聞かせてくんねーか?」


「僕はエージ。エージ・クスノキだ」


 二人の紳士は再度握手を交わす。


 そっと手を離した門兵は、両手を大きく広げて歌うように告げた。


「ようこそ、ローゼニア王国へ!」






 街の中へ入ったエージは周囲からの視線に戸惑いながら目当ての場所を探して歩いていた。


「何か見られてるなぁ……っと、ここかな?」


 足を止めたのは煌びやかな外観の建物の前だった。誇るように掲げられた看板には「クーク宝石店」と書かれており、如何にもな成金オーラが漂う店構えだった。


 因みに、看板に書かれた文字はノアで人間が用いる人族の公用語で日本語ではないのだが、エージは【翻訳者】の持つ《他言語理解》というスキルのおかげで読むことができている。


 エージは大袈裟な装飾のなされた扉を開けて店に入る。内装もギラギラしており、大分金がかかっているだろうことが窺える。


「いらっしゃいませ、お客様。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「宝石を売りに来ました」


「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」


 みすぼらしい格好のエージを卑下することなく対応する店員。エージはキョロキョロと辺りを見回しながら案内されたカウンター席に座る。


「それで、お客様の売りたい宝石というのは?」


「これです」


「ほう、これまた綺麗な……!」


 エージが腰の布袋から一つの輝く粒を取り出した。同時、《鑑定眼》に類似するスキルを使った店員は目を瞠る。


「……少々お待ちください」


 店員はそう言い残してカウンターの奥に消えた。数分後、小太りなおじさんが現れた。


「初めまして、お客様。わたくし、この店のオーナーを務めておりますクークと申します」


「あ、どうも。エージ・クスノキです」


 店のオーナーが直々に接客しているという本来ならあり得ない事態に、しかしエージは平然と応対する。理由は単純、アホだからである。


 クークはその様子に感心したようだった。大きな勘違いが生まれているが、それを解消できるのは当人たちだけなのが痛いところだ。


 クークはエージが出した粒を眺め、一つ笑みを浮かべる。


「クスノキ様。こちらの宝石ですが……どちらで手に入れましたか?」


「イメンサス大森林の中で拾いました」


「なんと、深緑の魔境でですか! なるほどなるほど、そこならばこれほどの物があってもおかしくない……そうですね。これなら紅金貨一枚と白金貨五枚で買い取りましょう!」


「あー、僕は相場とかには詳しくないので、それでお願いします」


 紅金貨一枚と白金貨五枚。これはローゼニア王国の一般的な四人家族が楽に一年間暮らせるだけの額だが、エージはそこら辺を全く知らないため驚けない。


 エージが売ったのは「魔石」と呼ばれるものだ。魔石というのは魔素が何らかの要因で凝縮、結晶化したものである。魔力をエネルギーとして動く「魔導具」の動力源となるのだが、魔物の体内で稀に生成される程度でしかないので、市場では高値で取引される。


 また、魔素の純度や量によって魔石の色合いが変わるのだが……今回エージが持ち込んだのは、透き通った紫。最高純度の魔石だったのだ。


 この魔石一つで街を一つ興せる。


 下手をするとビーズにしか見えない紫の粒は、それほどの大物だったのである。


 クークは《商人の眼》というスキルで魔石を見て、その価値を理解した。エージは《鑑定眼》で「何かすごそう!」と思った。


 両者に温度差があるのは間違いないが、利益があるのも間違いない。


 こうして、クークは満面の笑みで腰の布袋にお金を流し込むエージを見送ることになったのだった。


「お金は手に入ったし、次は宿でも探そうかな……ん?」


 懐がマグマ並みに暖まったエージが宿を探していると、ふと耳に飛び込んでくる声があった。


 それは、小さな泣き声だった。


 エージは駆け出す。元の世界でも百メートル十秒台で走り抜ける駿足を惜しみ無く発揮する。


 泣き声が、幼女のものだったから。


「大丈夫っ!?」


 疾風の如き速さでエージは泣いている幼女の前に駆けつけた。颯爽登場である。その際に目線の高さを相手に合わせることを忘れないのは紳士的だと言えるだろう。


 もちろん、突然現れたアフロ男に幼女はビクッとする。


「ひっ……!」


「ああ、ごめんごめん!」


 怯えてしまった幼女にエージはあたふた。どうにか落ち着かせようして自分が慌ててしまうという最悪のパターンに陥ってしまった。


 だが、幼女はそんなエージを最初は怖がっていたものの、少しして視線が釘付けになる。


 ポフッ。


「あわわ、あわわわ……へぅ?」


 幼女はエージのアフロヘアーに手を伸ばしてポンポンと叩く。潰れた髪は手を離すと元に戻り、押すとまた潰れる。


「……へんなの、あははっ」


 ポフポフポフポフ。


 どうやら気に入ったらしい。幼女はキャッキャとエージの髪を叩き続ける。楽しげな様子を見て、エージも安心したようだ。


「えっと、こんにちわ。僕の名前はエージ。君の名前は?」


「わたし、メアリー! こんにちわ、へんなおにーちゃん!」


「おにーちゃん……!」


 笑顔で「おにーちゃん」と言われるのは相当にインパクトが強かったらしい。エージは顔を綻ばせたが、すぐにハッとする。


「コホン。ところで、メアリーちゃんはどうして泣いてたの?」


 その問いかけにメアリーはしゅんとしてしまう。


「わたし、おかあさんといっしょにいたんだけど、ひとりになっちゃって……」


「迷子か……」


 よく迷子に出会う男である。


 現状を思い出して落ち込んでしまったメアリー。エージは彼女の肩に手を置いて微笑んで見せる。


「よし、お兄ちゃんがお母さんを見つけてあげるよ!」


「……ほんと?」


「うん、ほんと。僕に任せて!」


 ドンと胸を叩く。頼もしい言葉にメアリーの表情も明るくなる。


「ありがとう、おにーちゃん!」


「はうっ! お兄ちゃん頑張るよ!」


 今にも駆け出さんばかりにやる気を出したエージだが、流石に何の手がかりもなく探そうとはしない。母親の顔を知っているのはメアリーだけなのだ、エージ一人ではどうしようもない。


「それじゃ、メアリーちゃんも一緒に探そう。ここに一人でいたら危ないからね」


「うん!」


 立ち上がったエージはメアリーの手を取って歩き出す。時折メアリーに話を聞きながら街を歩いていくが、母親は見つからない。


「おにーちゃん、つかれた……」


 しばらくしてメアリーの体力が切れてしまった。その場から動こうとしないメアリーに、エージはある提案をする。


「うーん、じゃあお兄ちゃんがおんぶしてあげるよ。ほら、乗って?」


 背を向けてしゃがんだエージ。メアリーは一度エージの頭部に目を向けると、勢いよく飛び乗った。


「えーい!」


「うわっとと、め、メアリーちゃん?」


「しゅっぱつしんこー!」


 なんとメアリーはエージの肩に乗ったのだ。肩車状態のメアリーはポフポフとアフロを叩いている。


「もう、仕方ないなぁ……エージ号、発進!」


 少し早足で歩き出したエージ。揺れるのが面白いのか、メアリーは楽しそうに笑っている。


 楽しんでもらえて何より。そう思ったエージを、誰が責められようか。


「兵士さん、こっちです!」


 周りから見た自分がどれだけ奇妙に映っているのかを考えられなかった彼を、誰が責められようか。


「止まれ、そこの変質者め! 今すぐその子を放せ!」


「へ……?」


 それが幼女と戯れていたから故のことだとすれば……誰も責めることはできまい。


 楠エージは牢屋にぶち込まれることとなった。




ちょっと文章が雑になりましたね。時間があれば修正していきたいかも。


それにしても、何でエージ君は高純度の魔石を持っていたんですかねぇ(すっとぼけ)


※魔石の買取額を変更しました。


次回の更新は10日の18時です。

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