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第四話 人生はいつだってハードモードで始まる

「なるほど、異世界人か」


「あんまり驚かないんですね」


「そう珍しいものでもない、と言うと語弊があるが、過去にも数人の異世界人が確認されているからな」


 アンジェリカの言葉にふーんと頷くエージ。ロキの「魂魄の調整」という言葉を思い出し、昔もやっていたのかと考えた。


 現在、エージたちはイメンサス大森林の開けたスペースで休憩をとっていた。周りに魔物がいないことは確認済みである。


 部下の騎士に負傷した腕を治癒してもらっているアンジェリカは、油断無く鋭い視線を巡らせている。その側で、エージは手持ち無沙汰にその光景を眺めていた。


 エージがイメンサスオーガにダイビングヘッドバッド(偶然の産物)をお見舞いした後、アンジェリカは悶絶するエージを引きずって安全な場所に逃げた。いつイメンサスオーガが起きるか分からなかったからだ。


 突如として飛来した謎の少年に戸惑いつつも、アンジェリカは落ち着いて状況を把握しようと努めた。


 まずは両者ともに平静を取り戻してから、アンジェリカがエージに質問を開始。


 その中で彼女が知り得たことは、エージが異世界人であり、何も分からないままにイメンサス大森林に足を踏み入れたということだけであった。


 逆に、エージが知ったこともある。近くに街があることと、イメンサス大森林が相当な危険地帯であるということだ。


 それを知ってなおエージが危機感を持たないのは、彼がアホだからというだけではない。


 ロキに貰ったチート。


 それの詳細が何であれ、自分の役に立つものだと思っているのだ。果たしてその予想が合っているかは……後のお楽しみである。


「それで、アンジェリカさんたちはどうしてここにいるんですか? 危険な場所なら、早く逃げた方がいいんじゃ」


「そうなのだがな。私たちには果たさねばならない使命があるんだ」


「使命?」


「ああ。窮地から救ってくれた礼として話すが……我らがローゼニア王国の第二王女がこの森にいるのだ」


「お、王女様が? なんでそんなことに……まさか」


 王族を狙った反国家勢力の犯行か!?


 エージが読んだことのあるラノベなどにあった展開だ。国のトップの親族なんかを人質にし、自らの要望を通そうとする者たちによる悪行。


 アンジェリカの苦々しげな表情を見て固唾を飲む。


「姫様は、姫様は……!」


 緊張が漂う。




「美しい蝶を追って迷い込んでしまわれたんだ!」




「とんでもなく幼稚な理由だった!?」


 エージも思わず驚くほどに軽い理由であった。


「姫様が『きれい〜』と言ってフラフラと蝶についていくのを微笑ましく見てるうちに、いつの間にか森の中で……気づいた時にははぐれてしまって……クソッ! 己の不甲斐なさに腹が立つ!!」


「本当に不甲斐ないねっ!」


「黙れっ! 部外者のお前に言われる筋合いは無い!」


「理不尽だっ! 部外者に言われるほど抜けてるのが悪いよね!?」


 先ほどまでの真剣な空気は霧散し、エージは肩の力が抜けてしまっていた。元から殆ど入っていなかったが。


「こうしている内にも姫様に危険が迫っているかもしれないのに……」


「そもそも何でこんな場所の近くにいたんですか? 一国の姫様なら、もっと安全な場所にいるべきじゃ?」


 尤もな疑問である。


 一応、それにはしっかりとした理由があるらしく、アンジェリカが答える。


「姫様は類稀な才能をお持ちの方でな。そんじょそこらの魔物など一捻りにできる実力がある。まだ幼い故に力の制御ができていないのが難点だが」


「じゃあ、そこまで心配することもないんじゃないですか?」


「……ここがイメンサス大森林でないなら、な」


 焦りが感じられるその返答に、エージは今度こそ真面目な雰囲気になった。


 さて、事ここに至って、エージはアンジェリカたちとは違う方面でシリアスを感じている。


 エージの脳裏を過るのは、彼が五歳の頃の記憶。


 それは『ショッピングモール』と呼ばれる施設でのこと。


 彼は五歳の時、両親に連れられて超巨大迷宮(ショッピングモール)に挑んだ。


 結果……見事に親とはぐれ、迷子になってしまった。


 彼は道行く人の波の中で、言い知れぬ心細さに声を上げて涙を流した。頼れる者のいない人混みは、まるで自らを囲う檻のように感じられた。


 当時のことを思い出し、エージは背筋が凍るような感覚に身震いした。


 彼が迷子になったのは昼間のことだった。たった今、エージたちには碌に陽の光が当たっていない。


 幼いと言われた姫様は暗い森の中で一人彷徨っている。その孤独、心細さ、不安……容易に察することができるだろう。


 エージは過去の体験を通して、姫様の置かれている状況に言い難い焦燥を感じていたのだ。


 この焦りがアンジェリカのものとズレているのは、言うまでもないことだ。


「は、早く見つけてあげないと! 僕も手伝います!」


「急にどうしたんだ……まあ、それは置いといて。そう言ってくれるのは嬉しいんだが、お前を巻き込むのは」


「そんなことを言ってる場合じゃありません! 事態は一刻を争っているんですよ!!」


 血相を変えて慌て出したエージにアンジェリカたち騎士は引き気味になる。


「そ、そうだな。なら手伝ってもらうが……そうだ、お前は森を越えた草原から来たんだよな?」


 ふと、思いついたように聞く。


「ええ、そうですけど」


「だったら、途中で誰か人に会わなかったか? 無いとは思うが、一応な」


 期待はしていないのだろう。本当にサラッとした態度で聞いた言葉に、エージもサラッと答える。


「会った……っていうのもアレですけど、見かけましたよ。赤い髪の女の子。よく見えなかったけど、かなり小さかったなぁ」


 こんくらいかな、と手で大きさを示すエージにアンジェリカたちの目が大きく見開く。


 そして。




「「「それ姫様だ!!!!!」」」




 イメンサス大森林に驚愕の大合唱が響き渡った。


 エージの肩がビクッと跳ね上がる。その様子にアンジェリカたちもハッとしたようにキョロキョロと周りを窺う。魔物が接近してないことに一息吐いて、騎士たちは目を丸くする少年に詰め寄る。


「なんで今までそのことを話さなかったんだ! 見つかってるじゃないか!」


「ええ!? あれが姫様だったの?」


「姫様を『あれ』呼ばわりか!」


「いや、さっきあなたたちも『それ』って……違う違う、そうじゃないでしょ!」


「ハッ、思わず。姫様はどこにいたんだ?」


「えっと、僕はその姫様に吹き飛ばされたから、正確な位置は分からないけど……」


「それなら、これを見て大体の予想をつけてくれ」


 アンジェリカが部下に取り出させたのは、一枚の地図。ある一点が青色に点滅しており、そこから一筋の線が森の外まで描かれている。


「魔法地図だ。この青い点が現在地で、この線は私たちが辿ってきたルートになっている。先ほどイメンサスオーガがいたのはこの辺りだな」


 アンジェリカが指した位置を見てエージは少し前のことを思い出す。


「えっと、僕はここから真っ直ぐ来て……この辺り、かな?」


 手元にあるマニュアルの地図と見比べながらエージが指差したのは、魔法地図の中でも色の濃い緑の部分。すぐ隣は真っ黒になっている。


 彼の指先が置かれた場所は、騎士たちに絶望を齎した。


 顔色を青くしたアンジェリカは、呟く。


「そこ……殆ど最深部だ……」


「えっ」


 エージが異世界に来て初めて巻き込まれた厄介ごとは、難易度ベリーハードで進行中だった。




つ、次かその次くらいにスキルとか出ますから……(震え声)

因みに、一話ごとの字数はバラバラになったりしますが、基本は3000字前後を目安にしています。


次回の更新は22日の18時です。

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