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第十九話 帰還した少年と無駄足のおっさん

「田舎ね!」


「王都なんだけど……」


ローゼニア王国の王都。道行く人々で賑わう街の中心地で、堂々とまな板レベルの胸を張るクーリン。その不躾極まりない発言にジャクソンは溜息の大サービスである。


「やっと帰って来れたんですね」


「長かったねえ。いや、本当に長かったねえ……」


「……」


こくこくと頷くテオドリッヒ。その通りだ、という意を示している。


「わたし、ドラゴンがまた襲ってきた時はもう死んじゃうかとおもいましたよ」


「アタシの必殺拳が顔面に炸裂したおかげで事なきを得たわね」


「俺の顔面は大惨事だったけどね!」


「うるさいわ。耳が汚れちゃうじゃない」


「そこまで言うっ!?」


「僕なんて本当に死ぬ寸前だったんだよ。顔の一つや二つや三つくらいで騒ぐなんてみっともないよ」


「人の顔は二つもねえよ! そしてお前が死にかけたのは勝手に川で溺れたからだろうが!」


「それにしても、ジャクソンさんは丈夫ですよね。わたしの攻撃も通じませんでしたし」


「あたかも狙っていたかのような言い方!? ……まさか、そんなことないよね?」


「な、ないですよ……?」


「何でどもった上に疑問形!」


「すまないジャクソン。俺は魔物ごとお前を倒そうとしていた」


「逆にして! 俺を魔法に巻き込んだのは許すからせめて順番は逆にしてえええ!」


「何はともあれ、無事に帰って来れてよかったよ」


うんうんと満足げなエージ。唯一無事ではなかった男が不満そうな顔をしていたが、もう呆れの域に達したのか肩をすくめるだけに終わった。


クィッセン帝国を商隊とともに出発して十五日。行きよりも長い時間をかけてローゼニアに戻ってきたエージたち。撃退したドラゴンにまた遭遇したりなどのトラブルに見舞われたものの、全員が何とか依頼をこなしたのだった。


「それじゃ、アタシは別の依頼を受けに行くわ。働かざるもの食うべからずっていうものね!」


また会いましょう!


そう言って元気に駆け出したクーリン。十歩で右に曲がったかと思えば近くのレストランに突撃し「ここのメニューを一品ずつ全部出しなさい!」と威勢のいい注文をしていた。


「確かに、あれなら食費はかかるよな……俺は宿屋で休むことにするよ。またな、皆あああああっ!?」


ジャクソンが手を振りながら歩き去っていったと思いきや横から猛スピードで走ってきた豪華な馬車にぶつかり、引きずられていった。またしても何事かの厄介事を引き寄せてしまったようだ。


「……大変そうですね」


「全くだな」


「ジャクソンさんらしいや。ニーナちゃんとテオさんはどうするの?」


「わたしは家に帰ろうと思います。一月も家族と会ってないから、顔を出しておかないと」


「俺はクーリンと同じで別の依頼を探しに行くつもりだ。エージはどうするのだ?」


「僕はちょっとした用事を済ませないといけないんだ。だから別行動になっちゃうね」


「そうか……こいつと離れるのは惜しいものだ」


「なー……」


「またね、猫さん」


帰り道の中で撫術を磨いたテオドリッヒの手が離れると、ぬこ様も名残惜しそうに一鳴きする。大分懐いたようだ。


「じゃあね、ニーナちゃん。テオさん」


「はい。今までありがとうございました」


「……また会えることを楽しみにしているぞ」


丁寧にお辞儀するニーナと小さく微笑むテオドリッヒ。二人と別れて、エージは幾分か静かになった気がする街を歩く。


「面白かったなあ。魔物とは戦えなかったけど、魔法も見れたし」


何気に異世界ライフを満喫しているエージ。ぶらぶらと中世ヨーロッパじみた街並みを見て回り、そのままの足取りで「子猫の鳴き声亭」まで戻ってくる。


「すいませーん」


「あら、エージちゃんじゃない。帰ってきたの?」


「はい、傭兵ギルドの依頼を受けてたんです」


「無事でよかったけど、心配したわ。一週間分のお金だけ置いて一日でいなくなっちゃうんだから。今度からは気をつけてよねん」


そう忠告したイザベラがエージに向けて手を差し出す。そこには、一つの鍵がぶら下げられていた。


「あの、これは……?」


「部屋の鍵よ。今日も偶然一部屋だけ空いてるのよん。だから、前の残りはそこに泊まっていいわよ」


「おお、ありがとうございます!」


「夕食は張り切って作るから、是非とも食べてねん」


バチッと星が出てきそうなウインクに、エージはちょっとした懐かしさを覚える。


「ただいまー……って言うのかな、これ?」


部屋に入ったエージはベッドにダイブする。護衛依頼の疲れを癒すようにゴロゴロとしている時、ふと思い出す。


「あれ、そういえば僕って何で護衛依頼を……あっ、そうだ!」


バッと起き上がり、叫ぶ。


「歯ブラシ買ってない!」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






一方。


「あー、やっと解放されたぜ……」


ローゼニア王国軍元帥オルドスは、厳つい顔を顰めて気怠そうな声を上げた。


「ったく、皇帝様も変わり者だ。仕事ができる奴は変な奴。間違いねーなこりゃ」


愚痴をこぼして現代地球の都会のような街をのしのしと歩くオルドス。そこは紛れもなくクィッセン帝国であった。


何故ローゼニアの重鎮の一人である彼がクィッセンにいるのかというと。


「さてと、エージだっけか? そいつを探すとしますかね」


言葉通りに、エージを探しに来たのだ。前にも王国の宝であるシンクの恩人を王城に連れて行こうとしたのだが、当人の思いつきによってニアミス。丁度よく王国を訪れていた帝国皇妃の馬車に便乗させてもらって帝国まで来たのだが。


「本当、下手に絡まれると碌なことがねーよ」


先ほどの発言と合わせて考えるに、どうやらクィッセンの皇帝に捕まって時間がかかっていたようだ。


「数日間は無駄にしちまったが、まあ間に合うだろう。異世界人ならこの街を珍しがって遊んでんじゃねーか?」


そう予想してのんびりと大ギルドに向かうオルドス。


「よう」


「本日はどのようなご用件でしょうか、オルドス様」


「な、何故分かった!?」


ここにも何回か来たことがあったらしい。


「ま、いいや。人捜しを頼みてーんだ。名前はエージって言うんだがよ」


「エージ様ですか。その方なら、結構前にローゼニアに向かいましたよ」


「お、そうかそうか。教えてくれてありがとな……ん? 今、なんつった?」


「ですから、エージ様はローゼニアに向かいましたよ」


「……またかよおおおお!!」


受付嬢からの絶望的な宣告にオルドスは崩れ落ちた。


約一ヶ月ぶり二回目のニアミス。その間クィッセンの帝城に拘束された時間、およそ一週間。




時間の流れは全て地球と一緒ってことでお願いします。


活動報告にも書いてますが、しばらくの間更新を停止します。再開がいつになるか、そもそもするかも未定です。

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