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第十八話 傭兵の少年たちは休暇を満喫する

「まさかテオさんが猫好きだったなんてね」


「……どうにも言い出しにくくてな」


見た目と合わなさすぎるから、と続くだろうことはエージであっても予想できた。元々、エージがテオドリッヒの嗜好を読めなかったのは彼の図体が一因だ。


「同じ猫愛好家としてもよろしくねテオさん」


「ああ」


自然体なエージの差し出した手を、どこかぎこちなく握ったテオドリッヒ。


その横で。


「人はモグモグ見かけにムシャムシャよらないってパクパクことがズルズルよく分かるパリパリわねゴックン!」


「そ、そうですね」


「見事なブーメランだ……はあ、重い」


軽く十人前はあるだろう食料を一人で喰らっていくクーリンの言葉に、ニーナは苦笑いで賛同する。ジャクソンはジャンケンに負けたので荷物持ちをしている。


「んぐんぐ……ふう、ご馳走様。さあ、次の店に行くわよ!」


「まだ食べるの!?」


「何言ってんのよ、食べようなんて思ってないわ」


「いやいやいや、涎溢れてるから! 視線が店先に並ぶデザートに釘づけになって……」


「これは食べるんじゃないの、飲むのよ」


「そういう問題!? ていうか、ケーキは飲み物じゃないから!」


「じ……クソさん、訳の分からないこと言ってないでケーキ食べに行きましょうよ」


「何をサラッと人をクソ呼ばわりしてるんですかねえ!?」


「ジャクソンさんですし……」


「理由になってない! スキルのせいとはいえ、エージくんは年上の人にもう少し敬意を払うべきじゃないかなあ!」


「御意」


「急に古めかしい!?」


「何でもいいから行くわよ! 先ずは全品一個ずつ買うわ!」


「どんだけ食うんだよ……」


「あ、じゃあわたしも同じで」


「ニーナちゃんまで!?」


ジャクソン大忙しである。ちゃっかり店内で苺のショートケーキを頼んでいるテオドリッヒを見て、肩をがっくり落とすのは数秒後のことだ。






「やっぱり甘い物は別腹ね」


「別腹ですら常軌を逸してるな……」


「因みにアタシの胃袋は百八式まであるわ」


「もう意味がわかんねえよ!」


「奇遇だね、僕の撫術も百八式まであるんだ」


「もうこれ以上話を広げないでええええ!」


ジャクソンの必死の懇願が功を奏したのか、流石のエージたちも少し自重することにした。


「美味しかったですね。わたし、あのぶどうのタルトが気に入りました」


「なー」


「猫さんも満足したみたいですね」


本当に全品一つずつ食べ比べたニーナが幸せそうに言うと、ちょくちょくお裾分けをもらっていたぬこ様が同意するように鳴いた。


全員の腹ごなしが済んだので、まともに観光を始める。昼過ぎの帝都はとても活気があり、エージの心も弾んでくる。


「うわっ、勝手に昇ってる!?」


「景色が下に流れていきます……」


一同が訪れたのは帝都で二番目の高さを誇るクージュタワーという円柱形の塔だ。展望台行きという箱型の部屋に入ると、急に壁が透き通って周囲が見えるようになり、さらにはひとりでに動き出したのだから、ジャクソンのように驚くのも仕方がないだろう。


ただ。


「これ、エレベーターだよね……?」


現代地球人のエージにとっては馴染み深い装置だったので、特別な感慨はない。強いて言えば周りを見やすいと思う程度で、それも日本では既存の物だった。


「ほう、魔石を元に重力系の魔法を組み込んだのか」


テオドリッヒはまた別の部分で感心している。どうやらこのエレベーターの仕組みについてのことらしいが、エージには何のことか分からなかった。


「テオさん、それってどういうこと?」


「小難しい話なのだが……魔石は特定の術式を刻むことで、所有する魔素を魔力に変換することが可能なのだ。それを重力魔法の類として発動させているのが、この装置だということだ」


「な、なるほど……」


エージ、ほとんど理解できていない。唯一「魔石って便利なんだなぁ」くらいの感想は持てたので、頑張った方だろう。


「何でそれが分かったの?」


「む……まあ、教えても構わんか。生まれつきのスキルのおかげで、俺は魔力を色で識別できるのだ」


「ほ、ほっほう……今回はそれが重力魔法? の色だったってことだね?」


「そういうことだな」


驚くことにエージが理解を示した。実際にはよく分かってないが、テオドリッヒのスキルの概要をなぞっただけである。


テオドリッヒの称号【感視者(ウォッチャー)】が彼に与えた《蜃気楼破り(シースルー)》のスキルは、視えないものを視る力だった。これが原因でテオドリッヒは寡黙になった部分があるのだが……それはまた別の話である。


テオドリッヒが少し言い淀んだのはその辺りに原因があるのだが、どうやらエージには心を開いているようだ。ぬこ様々ということだろう。


「……ところでクーリン」


「な、何よ?」


「服、離してくれないかな?」


「つ、つつ掴んでないわよ!」


「いや、掴んでるよ。もうこれ以上ないってくらい掴んでるよ。僕の服が不良にカツアゲされた時の胸倉みたいになってるよ」


「掴んでないわ! これは拳に巻き込んでるのよ!」


寧ろガッチリしてて悪質だった。


エレベーターがぐんぐん上昇するに合わせて、クーリンの顔色はぐんぐん青くなっていく。


「もしかしてクーリンさ……」


「何よ! アタシが高い所を怖がるのは世間一般では常識よ!」


「それ単に高所恐怖症なことで有名なだけだよね!?」


図星どころか暴露してしまった。クーリンの常識ゴリ押し戦法も、今回ばかりは通用しなかった。


「……大丈夫だよクーリン」


ぐぐぐ、と悔しげなクーリンにエージは向き直す。その目つきは非常に真剣で、外の景色に気を取られつつあったクーリンも彼に目を合わせる。


「落ちたら皆死んじゃうから!」


「どこに安心できる要素があんのよ

っ!!」


「ぐぼあっ!?」


「ジャクソンさあああん!!」


蹴られたのはジャクソンでした。






「ほへ」


「ほへぇ」


「ほへほ?」


「ほへほほへほ」


「ほへ〜……」


「俺はもうツッコマナイツッコマナイツッコマナイツッコマナイ」


エージとクーリンが謎言語での会話に成功し、ジャクソンが壊れたラジオになった。


というのも、それはエージたちの目の前に広がる帝都の街並みが理由だった。


「上から見ると分かるけど、本当に都会なんだなあ」


エージは割と田舎の方の出身であり、修学旅行なんかで大きな街に行った時に見た高層ビル群にはカルチャーショックに似た感覚を得たものだった。


それを異世界に来てまで……しかも科学技術があまり進歩していない世界で感じるとは思いもしなかったのである。


「ローゼニアはもっと田舎というか何というか……テンプレ的なファンタジー感があったんだけどなあ」


「どうかしたんですか?」


そこにニーナがやって来た。クィッセンの街並みを眺めて楽しんでいるのだろう、ウサ耳が可愛らしくピコピコと動いている。


「ちょっと思ってたのと違かったから吃驚しただけだよ」


「ああ、確かにローゼニアとは全然違いますもんね。わたしの故郷と比べると、それこそ天と地ほどの差があります」


ジッと遠くを見る目で帝都の街並みを眺めるニーナ。


「そういえば、ニーナちゃんはどうして傭兵ギルドに入ってるの?」


エージの問いかけ。ニーナはまだ少女としか呼べないような年齢だ。それなのに危険が伴うこともある傭兵ギルドに所属していることは、世間一般から見ても奇妙なことだった。


ニーナは少し寂しそうに笑い、答える。


「わたしの家はあまり裕福じゃなくて……少しでも助けになればと思って、やってるんです」


「家庭の事情か。偉いんだねニーナちゃんは」


「え、エージさん……」


ぽんぽんと優しく頭を撫でるエージ。一瞬だけ身構えたニーナだったが、その手つきから伝わる温かい気持ちに、ニーナは少し嬉しくなる。自分の頑張りを理解してもらえたと実感できたのだ。


目頭が熱くなるのを堪えるニーナの側で、エージにもじんわりとこみ上げる思いがあった。


「家族か……」


彼は思い出す。父親に修行だと言われてどこぞの山に置いていかれた夏休みを。必死の思いで帰宅した時に「お帰り。お土産は?」とさも当たり前のようにせがんできた母親を。


エージは思い出し、すぐに鼻くそとともに丸めて投げ捨てた。綺麗でもなく腹の足しにもならない思い出は忘れることにしたようだ。


「ところでニーナちゃんの故郷ってどこなの? というより、獣人? の人たちがどこに住んでるのか分からないんだけど……」


「知らないんですか? わたしが生まれたのはローゼニアから南西の方に進んだ『マルニア獣人国』です。そこにほとんどの獣人族が住んでるんですよ」


「マルニア……ねえ、獣人族ってどんな種族なの?」


「? エージさんって意外と世間知らずなんですね。わたしのように動物の特徴を持った人が獣人です。犬とか虎とか……猿なんかもいます」


「犬……猫もいる?」


「はい、いますよ」


「いよっしゃああああああ!!」


「!?」


突然の奇声に、ニーナもドン引きである。猫好きのエージとして、猫耳持ちの人はストライクど真ん中もいいところなのだ。その存在が確認できた時点で、彼はマルニアに行くことを決意した。


そんな二人の元に、展望台からさっさとおさらばしたいクーリンが駆け寄ってきた。後ろには疲れた表情のジャクソンがいる。


「あ、こんなとこにいたのね。三時のおやつを食べに行くわよ!」


「ついさっきデザート食べたじゃ……」


「いいですね。わたしは冷たいものが食べたいです」


「女子の胃袋怖いよおおおお!」


「……それはいいな」


「戻ってきてテオドリッヒさん! あなただけが最後の砦だったのに!」


「ジャクソンさん、こっちこっち」


「お前は寧ろ敵だろうが! さも仲間だよ、みたいに自分を指差すのはやめなさい!」


ジャクソンだけがギャーギャーと騒ぎながら、一行は言葉通りにジェラートを売っている店に繰り出すのだった。


タワーを降りる時。


「……ねえ、クーリン」


「何よ、文句があるなら言いなさい。アタシは聞かないわ」


「いっそ清々しいね!? 破れちゃうから離してよ!」


「嫌よ!」


「ああもう、暴れないで……うわっ、ビリッていった!?」


高所恐怖症(クーリン)によってエージの一張羅が更にボロボロになったのは、どうでもいい話だろう。




その内「」間の空行を埋めてみたいと思います。そっちの方がテンポよく見えるかと思うので。


次回の更新は8日の18時です。

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