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第一話 空を飛んだ少年は異世界に転生する

お久しぶりです。


先の展開とかあんまり考えてないので、矛盾とかあるかもしれませんがご容赦ください。


それでは、どうぞ。

 ここに一人の少年がいる。


 少年の名は「(くすのき)エージ」といい、つい先程まで高校生として暮らしていた男だ。


 つい先程まで、という表現が意味するのは即ち、現在彼は高校生ではないということである。


 高校生というのは、社会的な個人の身分だ。唐突に消えることなど、そうそう無い。


 では。


 何故、楠エージは急に高校生という身分を失うこととなったのか?


 その経緯を、ほんの少しだけ辿ってみることにしよう。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「うふぁ〜……眠い……」


 カツカツとチョークが黒板を叩く音が響く中、エージは大きな……それは大きな欠伸をした。


 彼が先日徹夜でゲームをしていたのだということは、ここで深く追及することではないので無視しよう。


「寝よ……」


 今は授業中である。欠伸はまだしも、居眠りなど言語道断。


 それを躊躇い無く行うエージは、よく言えば肝が座っている……悪く言えば、ただのアホなのだ。無謀だとも言えよう。


 エージはゆっくりと睡魔に身を任せる。机に突っ伏し、意識を手放していく。


 しかし、そうは問屋が卸さない。もとい、教師が許さない。


 偶然にもその時、授業を受け持っていたのは校内一厳しいと評判の教師だった。その教師は、自らの授業中に居眠りする生徒を決して許しはしない。


「コラァ、楠ぃ! なに寝ようとしてんだっ!!」


「うへぇあっ!?」


 教師の怒号に吃驚したエージは、反射的に飛び上がってしまった。


 席に座った状態から、急に立ち上がろうとするとどうなるか……何も難しいことでは無い。


 ガシャンッ!


「痛あっ!?」


 そう、机や椅子にぶつかってしまうのだ。


 眠気でハッキリしない頭。突然の大声による混乱。そこに痛みが加わったことで、エージはパニックに陥ってしまった。


 椅子に足をぶつけてバランスを崩したエージは、横に倒れこみそうになった。普通なら、そこで隣の人に迷惑をかける程度で済んだだろう。


 そこにおいて、彼は不幸だった。


 いや、恵まれていたと言うべきか……彼は、運動神経は良かった。頭脳は人並み以下、容姿も特徴が無く、長所が殆ど無かった。


 そんなエージであったが、神のお情けか、身体能力だけはずば抜けて良かった。中学の担任から「野生の獣」と評されるくらいである。


 そんなエージだからこそ、気づき、そして反応できてしまったのだ。


 ……己の倒れる先に、愛らしい猫がいたことに。


 エージは大の猫好きだった。故に、眼前の猫を守ろうと必死で地を蹴った……蹴ってしまった。


 彼としては、ちょっと跳んで猫を越えようと思ったのかもしれない。


 だが、現実は予想を超えていく。


 エージはそこで驚異的な跳躍を見せたのだ。パニック状態と猫を守ろうという強い意識が交錯して脳のリミッターが解除された……所謂「火事場の馬鹿力」の発現だ。


 エージは隣席の人を大きく跳び越えた。


 ここで更に、不幸が重なる。


 エージの席は、窓際から二番目の列だった。そのため、隣席を越えた先には窓がある。


 また、その日は少し暑かった。冷房が欲しいほどではないが……窓を開けたくなるくらいには、暑かった。


 そう、つまりは窓が開いているのだ。バリバリの全開だったのである。


 もう一度言うが、エージは運動だけはできる。このことが示すのは、それだけの肉体を持ち合わせているということだ。


 稼働率十割の強靭な筋肉によって齎された跳躍は、人智を越える。


「うおおおおおおおおおおおおっ!!??」


 要するに……エージは、窓の外に飛び出してしまったのだ。


 重なりあった不運が収束する。


 エージはベランダすらも越えて、宙空にその身を投げ出すことになる。


 彼の教室は三階。「野生の獣」な彼ならば、骨折程度で済ませることもできたのだ。


 普段ならば。


 今の彼は何が何だかよく分からないままにダイブしてしまっている。


「おおおおおおあああああああっ!!!」


 その結果。



 グシャアッ!!!



 ……楠エージは、高校生という身分を失うこととなったのだ。


 一つだけ、訂正しておかねばならぬことがある。


 常識的に考えて、教室の中に……それも授業中の教室に、猫がいるはずなどないのだ。


 では、エージが避けた猫は何だったのか?


 それは、その日たまたま隣席の女子が持って来ていた私物の……ぬいぐるみだった。


 楠エージは、「授業中に居眠りしようとした末に、ぬいぐるみの猫を庇って飛び降り自殺」したことになるのだ。


 享年十六歳。


 楠エージの一生は、なんとも締まらない終幕を迎えたのだった……。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「……ふぉうううっ!?」


 エージは奇妙な声を上げながら跳ね起きた。


「……へ? 僕、ついさっきまで教室にいたんじゃ……」


 直前には空中にいたのだが、それに気づいていない様子でキョロキョロと辺りを見回した。


 エージの視界に映ったのは、美しい草原。微風が草花を揺らし、暖かな日差しが優しく包みこんでくれるような、そんな場所だった。


「あっれ〜……?」


 引きつった笑みを浮かべて首を傾げるエージ。全く状況が飲み込めていない。


 そんな彼の頭上から、何かが落ちてきた。


 その何かは彼の頭にクリーンヒットし、



 ボフンッ!


「もすっ……!?」



 白い粉を大量に撒き散らした。


「な、何が……って、黒板消し?」


 一瞬で白髪になったエージが手に取ったのは、チョーク塗れの黒板消しであった。


「あっはははは! 爺さんになってやんのー!」


 その様子を笑う声が、草原に響き渡った。エージはむっとしながら声のした方に目を向ける。


 そこには。


「うう、浮いてる……!?」


 宙に浮かぶ男の子の姿があった。


「あー、面白いなー。ごめんねお兄さん、いきなり悪戯して」


「あ、うん。そこまで怒ってないからいいけど……いや、そうじゃないよ! 君、一体何者!?」


 エージの驚きようも、当然と言えば当然だ。だって、幼稚園児程の男の子が空にフワフワと浮いているのだから。


「そうだ、自己紹介をしてなかったね。ボクの名前はロキ。こんな見た目だけど、一応『悪戯の神様』をやらせてもらってるんだ」


「か、神様……」


 突飛な話だ。しかし、エージとしてはロキの言ったことを事実と考える他無かった。人間が空を飛べるはずなどないのだから、その考えは妥当だろう。


「信じ難いとは思うけど、嘘じゃないよ。それと……これは君の夢や妄想ってわけでもないからね?」


「そ、そうなんだ……」


 今の状況を己の夢なのではないかと疑っていたエージが、詰まりながらも反応した。


「それで、まずは君が今どうしてここに……『神界』にいるのかの説明をしておこうか」


 ロキが何事も無いかのように告げる。


「実はさ、君、もう死んじゃってるんだよね」


「……はい?」


「死んじゃってるんだよ。校舎から飛び降りてね」


「………………えええええ!!?」


 驚愕も驚愕である。もちろん、エージは死ぬ直前にパニックになっていたため、記憶が無い。それ故に驚きなのだ。


「証拠として、その時の映像を用意したよ。ボクもこの死に方は始めてみたなぁ……ぷぷっ」


「人が死んだのに笑うの!?」


「いや、ごめん……でも、これはね……」


 笑いを堪え切れていないロキが指を鳴らすと、どこからともなくテレビが現れてとある教室の風景が映し出された。


 そして、エージは自分の人生の終わりを目の当たりにする。


「……うん。何か、ゴメンね」


「ぷくくく、いや、別に……ぶはっ!」


 ロキ的にはツボだったようだ。エージは何とも言えない終結に目を逸らすことしかできない。


「えっと、まあ、僕が死んだのはいいとして……」


「いいのっ!?」


 神様も仰天である。


「それなら、僕はどうして神界にいるの? もしかして、死んだ人間は神に……ってやつ?」


「ううん、そうじゃないよ。神になる人もいるけど、君は違う。ここにいるのは、ボクが君の魂を呼び寄せたからなんだ」


「呼び寄せた……」


 エージの呟きに頷き、ロキは言葉を続ける。


「君、あんなに変な死に方だったでしょ? それが面白くてさ、つい呼んじゃったんだ」


「思ったより軽かった!」


「いや、それだけが理由じゃないよ。別の理由が一割を占めてる」


「九割が死に様の珍妙さじゃん!」


 叫びながら、この子は本当に悪戯の神様なんだな、と認識するエージ。


「ただし、その一割の理由が結構重要なんだよね」


 しかし、直後に真剣な顔つきとなったロキに、エージも表情を固くする。


「君は、自分の住んでいた世界とは別の世界が……異世界があると言われたら、信じるかい?」


「い、異世界……?」


「そう、異世界。この『世界』には、数多の世界が存在している。君が住んでいた地球も、そんな世界の一つだったわけだよ」


 ロキの説明は続く。


「今、その世界間の均衡がバラバラになっていてね……各世界に存在する魂魄の量が偏りすぎているんだよ」


「こん、ぱく? よく分かんないけど、それって大変なの?」


「大変だね。下手をすれば、世界同士がぶつかり合って消滅する可能性だってある」


 あまりにも壮大なスケールに、エージは目を見開く。


「それで、魂魄量の調整……つまりは、魂魄の多い世界から少ない世界に人を『転生』させなきゃいけなくなったんだ。本来なら転生は各世界の中で行われるんだけど……応急処置のようなものだよ」


「転生……それに選ばれたのが、僕だってこと?」


「そんな感じ。君のいた地球は最も魂魄量の多い世界の一つ……死んだ人間の魂魄を地球から別の世界へと移そうという時に、こう言っちゃ悪いけど、丁度よく死んだのが君だったわけさ」


「な、なるほど……」


 顎に手を当てて頷くエージだが、実際には殆ど理解できていない。


「あ、君じゃなくてもよかったんだけどね。死んだ人間はいっぱいいたんだけど、やっぱり面白い人の方がいいから」


「選考基準は適当なんだ……」


 規模の割りには真剣味が足りていない。


「そういえば、どうして悪戯の神様が調整作業をしてるの? 他にもっと適役がいたんじゃない?」


「さらっと馬鹿にされた気がするんだけど……神様の世界も混乱気味でね。人手が足りないから、ほぼ全ての神が総出でやってるんだよ。おかげで悪戯してる暇もあんまり無いよ!」


「少しはあるんだね……」


 先の黒板消しのことを思い出し、エージは苦笑した。


「それじゃ、サクッと転生させちゃおうか。とは言っても、君はまだ存在値が多いから、どちらかと言うと『転移』になるんだけどね」


「転移? 転生とは違うの?」


「うーん。存在値っていうのが寿命みたいなものなんだけど、君はそれを消費し切ってないから、人生を途中からやり直せるんだ。一応転生の区分ではあるけれど……転移寄りになっちゃうんだよね」


「……ごめん、ちょっと理解が……」


「簡単に言うと、転生すると赤ちゃんになって、転移すると今の身体のまま生まれ変われるってこと」


「ああ、そういうことか」


 ぽん、と手を打つエージ。


「で、ボクの担当する異世界なんだけど……俗に言う、剣と魔法の世界だ」


「おおっ! それって、ゲームとかでよく見るファンタジー?」


「そうそう。その世界には【称号】と『アビリティ』っていうのがあって、中には特定の称号を持つ者しか使えない《スキル》なんかもあるんだ」


「おおお! 本当にゲームみたいだ!」


「細かいことは、転移した時に持ってる鞄の中にあるマニュアルを読んで覚えてね」


 大雑把に説明を終えたロキは、手元に何らかのデバイスを呼び出すと、ポチポチと弄り始めた。


 そのまま、再度口を開く。


「今から行く世界は、地球とは比べものにならないくらいに危険が溢れてる。だから、ボクから餞別を贈るよ」


「餞別?」


「ちょっとしたチートみたいなものかな。君のことは“気に入った”から、特別にオマケして、っと」


「ち、チート……!」


 エージの目がキラキラと輝いた。ライトノベル読者であったエージからすれば、その言葉はとても魅力的だったのだ。


「よし、それじゃあ、転生開始!」


 カタカタカタカタ、ッターン!


 格好良さげにデバイスを叩くと、エージの体が淡い光に包まれた。


「頑張ってね、エージ。転移場所は平原だけど、歩いて行ける距離に街があるはずだから、先ずはそこを目指すといいよ。詳しくはマニュアルに書いてあるから」


 またしてもマニュアルに説明を投げたロキだが、興奮しきりのエージはこれからのことしか見えていないようだった。


 エージを包む光が一際強く輝き、瞬きの内に消えた。残ったのは、悪戯の神様であるロキだけ。


「ふぅ、一仕事終わりっと。さて、次の転生者は……ん?」


 デバイスを見たロキが何かに気づいた。そして、顔を引きつらせる。


「……あ、あははー。これはちょっと、やらかしちゃったかもなー……」


 渇いた声。


「ま、まあ、色んな意味で大丈夫だとは思うけど……頑張ってね、エージ」


 一体、この悪戯の神が何をやらかしたというのか……。


 それが分かるのは、もう少し先のことである。




後々改稿するかも。

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