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短 編『バレンタインがなくなってから』

作者: 加藤彰

 高校を卒業して、早二年。手に職を付けたいと思っていた悠一という男は専門学校に通っていた。

 その学校には女の子などおらず、学生寮で生活しているため、出会いなんてものはそこにはない。

 恋人持ちになるには自分から動いて出会いを求めるしかないのだが、あいにく悠一という男は行動力がないため恋人を作るにまで至らない。別に女の子と出会わないわけじゃない。バイトでは女の子と一緒に仕事をすることだってある。

 しかし、その女の子と特に進展するわけでもなく、ただのうのうと過ごすだけの毎日。

 別に不自由はしていない。

 男友達と過ごす毎日は楽しいし、寂しい気持ちを抱くこともない。

 あと少しでこの専門学校での生活も終わり、すでに決まっている職場で働くことになる。

 今よりも多くの人と関わりを持つことになるし、きっとそこで好きになる女の子と出会ったりするのだろうな、と他人事のように考えている。

 悠一が通う学校では最終的に国家資格を取ることになっており、それは職に必須とも言えるものであるので、学生たちは必死こいて試験勉強に励んでいる最中だ。

 悠一がテキストとにらめっこしているとき、隣の席の友達に声をかけられた。

「お前ってさ、彼女とか作らないの?」

 正直、心にグサッと何かが刺さる感覚に陥った。男友達と過ごす学校生活は確かに楽しいけど、男女関係の欲求を埋めることなど到底できない。不可能だ。

 別に作らないわけではない。その行動力がないだけ。

 悠一は高校で恋人を作ったことがあり、一度俗にいうリア充というものになったわけだが、これがトラウマを植え付けるような結果となったのである。詳しくは書かないが、結構ひどい事件があり、自然消滅という形で悠一のリア充生活は終わりを告げた。

 口ではもう笑って話せてはいるのだが、心の底では楔のようにそのトラウマが抜けないでいる。だから、恋人を作るという思いに至らない。

 この学校生活を過ごしているある時、同じ寮に住む友達が女の子と知り合いになり、それを通して悠一も知り合いになった。友達を通じてお互いの顔なども教え合い、スマートフォンの通話アプリで会話していくうちに彼女は悠一に惚れてしまったらしい。

 正直、悠一にとっては過去のトラウマがあり、なおかつ実際に会ったわけでもない女の子と恋人になるだなんて冗談きつかった。部活動を通してお互いにそれなりに分かりあった元恋人の彼女でさえうまくいかなかったのだ。ちょっとお話しただけのお互いのことをよく知らない女の子と恋人同士になるだなんてもっと辛い目に合うに決まってる。そんな気持ちに思い至った

 そのときは色々と悩んだものだ。

 過去のトラウマに打ち勝つためにもここで新しい恋人を作るべきなのではと考えた。

 しかし、彼の中のトラウマは凄く根深かったらしい。

 結局、その彼女の告白は断ってしまった。

 そして、その女の子は紹介してくれた友人の恋人となった。最初の内はそれからも話していたのだが、それも自然消滅という形で関係を絶った。

 結局は自分から女の子を遠ざけているのだ。

 自分一人ではどうしようもない状況が続く。これは自分自身の問題であり、誰かに頼ったからって治るわけではないのだ。

 おそらく、きっと、このままではずっと恋人などできずに男一人で暮らしていくだろう。

 それがとても恐ろしくて、でもどうでもいい気持にもなってしまって。

「作りたいと思ったら作ろうと思うよ」

 隣の友達への返答はこれが限界だった。その友達は笑いながら話を続けてくれた。

「まぁ、女とセックスするよりオナニーの方が気持ちいいし、いいんじゃね?」

「そういう話はよく聞くよな。女の穴よりオナホの方が気持ちいいって話」

「でも女を抱いてた方が気持ちは昂ぶるよ」

 男しかいない空間だからこその下ネタ全開の話をしながらカレンダーをチラッと見た。

 もう二月。

 国家試験は三月下旬であり、もう試験まで一月ほどしかないんだな、と思っていた。

 このとき、悠一の頭の中にはバレンタインデーの文字はなかった。

 世間一般ではチョコだ何だと騒ぎ立てられている今日この頃、片田舎にある学生寮で暮らしている悠一にとって、その世間一般様の常識とは少し離れた場所にいる。デパ地下やチョコ菓子を売っているお店など近くにないため、ここが周りとは違う、切り取られた別の世界のような感覚でいた。

 その晩、寮のテレビでバレンタインデーの特集が組まれていて、ようやく悠一は二月一四日はバレンタインデーだということを思い出した。

 高校生のときは、クラスメイトや部員から義理であるもののチョコをもらえていた。それが当然であった。しかし、生活環境が変わってチョコをくれる女の子がいなくなってしまい、誰からも、義理チョコですらももらえなくなって二年。すでにこの環境に慣れ親しんでしまっていた。チョコを貰えないこの生活に。

 それでちょっと寂しい気持ちになってしまった。

 高校生活を思い出してもっと寂しい気持ちになってしまった。

 でもだからと言って恋人を作ろうとはしない。第一どこで出会えばいいのか。こんな片田舎の寮で、男まみれのむさくるしいところで暮らしていて、どうやって女の子と出会えばいいのかも分からない。

 強いて言えば、長期休みに家に帰って、バイトを始めれば女の子と出会えるだろう。

 しかしそれを悠一はやらない。やろうという気持ちにならないのだ。未だに高校でのことを引きずっている。

 年が同じくらいの女の子と恋人関係になるのが怖いのだ。最終的には辛い目に合ってしまうのではないかと考えてしまって、尻込みしてしまう。

 でも、それでいいと考えてしまっている彼がそこにいるのだ。

 それで満足しているのならいいのだろう。結局は自分のことなのだから。

 どう生きようと彼の自由だ。

 世間一般的に、それが良いのか悪いのかは別として。

「もう、どうしようもねぇよ。あーあ、高校に戻りてーなぁ。戻れたらもっとうまくやってやるのに」

 彼はそんな妄想にしがみついて、醜く生きていくしかない。そして一生、そんなことをずっと妄想しながら生きていくだろう。

 いつしか、悠一の頭の中にはバレンタインという言葉が完全に消えていた。いや、それのみならず、色んなイベントも。

 そうして彼は生きていく。一人寂しく、生きていく。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 今回の話、モデルは自分だったりします。結構脚色入ってますけどね。

 別に俺はこんなクズじゃないからね(震え声)

 プロットも何もなしで書いたので構成がメチャクチャですが、楽しんで頂けたのなら幸いです。

 では。

 

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