表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vanitas vanitatum  作者: イヲ
第二章
6/56

真・2

くねるような廊下を歩いてゆくと、徐々に徐々に暗く、重たい闇があらわれてくる。

百合子はおもわず目を細め、必死に高峯のあとをついてゆく。


「あの…ほんとうに」

「息子…真はここにいる。暗いのは、真の身体を案じてだ」


聞いている。

真は、確かアルビノだと。

陽に弱く、明るいところが苦手なのだ。

百合子は思い返して、ようやく立ち止まった高峯の広い背を見据えた。


黒一色に染められた、襖。

籬の髪と洋服と全く同じ色をして、同化しているように思う。

瞬きをして、コートを着込んだ籬をみつめる。

ようやく、ピントが合う。

白磁のような肌と、梅紫の目がこちらをちらりと見たが、すぐに襖に視線をもどした。


すっ、と襖が開く。


「真」

「・・・」


きらり、と何かがかがやいた。それは、わずかばかりの明かりに照らされた、真っ白な髪と、真っ赤な目だった。

それに、籬よりも白い肌。

色素が、ごっそりと抜けている。


「・・・」


籬は足を一歩踏み出し、静かにこちらを見つめ、座布団の上にすわっている真にかしずき、頭をさげた。


「貴殿が、自分の守るべき対象、主か」

「…おれは」


真の声を、初めて聞く。

からからに枯れたような声。幼い顔のせいもあってか、とても15歳の少年には見えない。


「父さん」

「私は、これから忙しくなる。おまえも、分かっているだろう。それに、おまえは外に出なければならない。おまえのその体質(・・)。そのままにしておくのも忍びない」

「…わかった」

「あれも、そう望んでいる」

「…うん」


真は行儀よくうなずき、籬をじっと見つめた。

真っ赤な、まるで猩々緋のような色を、何の疑いもなく、何の敵意もなく、籬に注いでいる。


「それでは、私はこれで失礼する」

「はい」


黒い着流しをひるがえし、高峯が去ってゆく。

百合子はほっと息をついて、真と籬をみわたした。どうも高峯は苦手だ。


「さて。真君。あなたは、今日からこの籬漆号の主になります。主といっても、特別何かをしなくてはいけない、ということはありません」

「…?」


真っ白な髪が、ゆったりと揺れる。

首をわずかにかしげて、意味が分からないのか、口を噤んだままだ。


「えーっと…なんていえば言いのかしらね…」


体を丸めて、眉間に指をあてる。

それにしても、この子ども。

15歳にしては、稚さすぎる。知力が遅れているという事もないだろうが、なんだかとても、『腑に落ちない』。


「籬と友達になればいいのよ!ねっ、籬!」

「自分は、主とは友達にはなれません。友達という定義とはかけ離れている」

「ああ…言っちゃったー。言っちゃったー」


がくりと頭をおとす。

籬は不思議そうにこちらを見つめているが、やがて真へと視線を戻した。


「わかりました。籬…さんと、友達になれば、いいんですね?」

「真君?」

「それなら、分かる、から…」


(あ、笑った。)


真の笑う顔。初めて百合子と籬は見た。

病的に白い、白くあらざるを得なかった皮膚が、わずかに紅潮する。

もしかすると、うれしい、と感じてくれているのかもしれない。


「…籬さん。えと、その、よろしくお願いします」

「・・・」


差し出された白く、細すぎる手。

籬はどうすればいいのか分からないのか、差し出された手をじっと見下ろしている。


「それは、どういう意味があるのか」

「握手よ、握手。教わらなかった?」

「…握手か。あい分かった」


籬は右手を差し出して、真の手を握った。






百合子は一人観世水邸を出て、門を見上げる。

籬は真のボディーガートとしてこれから働くのだが、詳しいことは何も聞かされていない。

何故ボディーガートが必要になったのかも、百合子には詳しく知らされていなかった。

絶対機密なのかもしれない。

葵重工の、幹部でなければ知らされない、重要な機密事項。

それには興味がないものの、すこしだけ、さみしく感じる。

ときおりメンテナンスには来るものの、基本的に籬はこの観世水のものだ。


そう、『買われる』のだ。

葵重工の、合成人間たちは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ