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Vanitas vanitatum  作者: イヲ
閑話
45/56

宴・1

百合子と蝶子、そして道成寺。

かなりの大人数で、しかも当日予約ということでは難しいのではないかと思ったが、丁度空いている店があったらしい。

禁煙席が空いていて、それならば好都合だという大江の判断で、その居酒屋『花の宴』。

ベタな名のその店は、チェーン店ではないという。


「寒いねえ」

「そっすねぇ」


道成寺は、マフラーに顔を埋めて頷いた。寒い。これから、雪でも降るかもしれない。

前と後ろを歩く籬とエ霞、睡蓮は平気な顔をしているけど、寒さや暑さは感じるのだろうか?

琳から借りた紺色のマフラーの中から、道成寺に訊ねる。


「体温調節は出来るから、寒いとか暑いとかはそんなに感じないけど、まあ、本人たちの心意気次第じゃない?」

「心意気?」

「そう。雪を見れば寒い、蝉が鳴いていれば暑い。そんな感じ」

「ふぅん……」


よくわからないが、道成寺がそう言うのだからそうなのだろう。


「真君」


真よりも30センチも背が高い道成寺と話すには、首が痛くなってしまう。

それでも懸命に視線を合わせようとすると、彼は苦笑いをした。


「真君さ、お兄さんのこと好き?」

「うん。好きだよ」

「そっかー」


琳は優しい。

すごく、優しい。

でも、時々悲しそうな顔をする。


(きっと、おれのせいなんだろうな。)

(兄さんは優しいから。)

(後悔しているのかな。)


「しーん!」

「わっ」

「なに、そんなしょぼくれた顔して」


睡蓮がいきなり肩に手を置いてきたせいか、びくりと体が硬直した。

長い、しなやかな黒髪が真の頬に触れる。


「道成寺のせい?」

「おっ、俺!?}


じろり、と睡蓮が睨みつけたせいか、彼はこんなにも寒いのに、冷や汗を垂らせながらかぶりを思いっきり振った。


「あ、いや。でも、そうかもしれないっすねー。ははは……」

「まったく、だから彼女の一人や二人できないのよ!まあ、あんたには蝶子がいるからいっか」

「蝶子さんとはそんなんじゃないですって!俺の事、召使いくらいにしか思ってないんすから」


そう呟いた道成寺は、どこかさみしそうに見える。

口を開いて、「そんなことはないよ」と言おうとしたけど、声が出なかった。


「・・・」

「真」


エ霞の声で、我にかえる。


「なに?」

「入り口でそんな突っ立ってたら、後ろつかえるだろ」

「あ、あれ?」


いつの間に、花の宴についていたのだろう。

開いた入り口からは、あたたかい風が流れてくる。

急いで中に入ると、たくさんの人の笑い声が聞こえてきた。


これが、居酒屋。


がやがやとしていて、みんな楽しそうで、おいしそうな小さな小鉢がたくさん並んでいる前に座っていて、とても不思議な感覚だ。


「ほらほら、入った入った。ちゃんと禁煙席とってあるからな」

「きんえんせき?」

「煙草を吸っちゃいけない席のこと。おまえはまだ子供なんだから、そのほうがいいだろ?」

「煙草を吸うと、何か悪いの?」

「健康的に悪いんだよ。ほら、座れ」


奥の座敷に入ると、長い机が連なっていた。


「真!こっちこっち」


睡蓮にせかされて、琳と彼女の間に座る。

合成人間たちのぶんの小鉢もちゃんとあった。


そういえば、前に籬が食べても食べなくてもいいと言っていた気がする。

彼らと一緒に食事をするのは、初めてだ。


「へへ」

「ん、どうしたの」

「なんか、うれしい」


すごく、たのしい。


「……うん。そうね。嬉しいわね」


睡蓮は、とてもやさしい表情をして笑ってくれる。

こうやって、自身に笑い掛けてくれるひとはあまりいなかったから、とてもうれしい。

そっと頭を撫でられて、くすぐったい気持ちになった。


「さーて、みなさん!どうも、お疲れ様でした」


大江と佐々木が前に立って、頭をちいさく下げる。


「奴さんもちょうどなりを潜めた所で、ここらでちょっとばかり休憩ってことでして。慰労会を開かせていただいた次第です。おい佐々木、お前もなんか言えよ」

「あ?こういうのはお前の仕事だろ」

「ったく。ってことで、今日は無礼講……っていても、上司はいないか……。ま、明日はどうせ休みだし、飲んじまいましょう!あ、真君はアルコール取っちゃだめだよ!あんまり長くしても、道成寺から文句言われるので、この辺で」

「俺はそんなこと言わないすよ!?」


まわりが拍手をしたので、真も倣って拍手をする。

頭を蝶子に押さえつけられている道成寺が気になったけど。


「真、ジュースは何がいいですか」

「……えっとね、梅昆布茶」

「し、渋いわね。真」

「ああ……家にある梅昆布茶が好きなんですよ」


覚えていてくれたんだ。

うれしくなって、頷いた。


「じゃあとりあえず、ビールが……三つに、日本酒が二つ。うめこぶ……誰だ?まあいっか。それが二つ」

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