宴・1
百合子と蝶子、そして道成寺。
かなりの大人数で、しかも当日予約ということでは難しいのではないかと思ったが、丁度空いている店があったらしい。
禁煙席が空いていて、それならば好都合だという大江の判断で、その居酒屋『花の宴』。
ベタな名のその店は、チェーン店ではないという。
「寒いねえ」
「そっすねぇ」
道成寺は、マフラーに顔を埋めて頷いた。寒い。これから、雪でも降るかもしれない。
前と後ろを歩く籬とエ霞、睡蓮は平気な顔をしているけど、寒さや暑さは感じるのだろうか?
琳から借りた紺色のマフラーの中から、道成寺に訊ねる。
「体温調節は出来るから、寒いとか暑いとかはそんなに感じないけど、まあ、本人たちの心意気次第じゃない?」
「心意気?」
「そう。雪を見れば寒い、蝉が鳴いていれば暑い。そんな感じ」
「ふぅん……」
よくわからないが、道成寺がそう言うのだからそうなのだろう。
「真君」
真よりも30センチも背が高い道成寺と話すには、首が痛くなってしまう。
それでも懸命に視線を合わせようとすると、彼は苦笑いをした。
「真君さ、お兄さんのこと好き?」
「うん。好きだよ」
「そっかー」
琳は優しい。
すごく、優しい。
でも、時々悲しそうな顔をする。
(きっと、おれのせいなんだろうな。)
(兄さんは優しいから。)
(後悔しているのかな。)
「しーん!」
「わっ」
「なに、そんなしょぼくれた顔して」
睡蓮がいきなり肩に手を置いてきたせいか、びくりと体が硬直した。
長い、しなやかな黒髪が真の頬に触れる。
「道成寺のせい?」
「おっ、俺!?}
じろり、と睡蓮が睨みつけたせいか、彼はこんなにも寒いのに、冷や汗を垂らせながらかぶりを思いっきり振った。
「あ、いや。でも、そうかもしれないっすねー。ははは……」
「まったく、だから彼女の一人や二人できないのよ!まあ、あんたには蝶子がいるからいっか」
「蝶子さんとはそんなんじゃないですって!俺の事、召使いくらいにしか思ってないんすから」
そう呟いた道成寺は、どこかさみしそうに見える。
口を開いて、「そんなことはないよ」と言おうとしたけど、声が出なかった。
「・・・」
「真」
エ霞の声で、我にかえる。
「なに?」
「入り口でそんな突っ立ってたら、後ろつかえるだろ」
「あ、あれ?」
いつの間に、花の宴についていたのだろう。
開いた入り口からは、あたたかい風が流れてくる。
急いで中に入ると、たくさんの人の笑い声が聞こえてきた。
これが、居酒屋。
がやがやとしていて、みんな楽しそうで、おいしそうな小さな小鉢がたくさん並んでいる前に座っていて、とても不思議な感覚だ。
「ほらほら、入った入った。ちゃんと禁煙席とってあるからな」
「きんえんせき?」
「煙草を吸っちゃいけない席のこと。おまえはまだ子供なんだから、そのほうがいいだろ?」
「煙草を吸うと、何か悪いの?」
「健康的に悪いんだよ。ほら、座れ」
奥の座敷に入ると、長い机が連なっていた。
「真!こっちこっち」
睡蓮にせかされて、琳と彼女の間に座る。
合成人間たちのぶんの小鉢もちゃんとあった。
そういえば、前に籬が食べても食べなくてもいいと言っていた気がする。
彼らと一緒に食事をするのは、初めてだ。
「へへ」
「ん、どうしたの」
「なんか、うれしい」
すごく、たのしい。
「……うん。そうね。嬉しいわね」
睡蓮は、とてもやさしい表情をして笑ってくれる。
こうやって、自身に笑い掛けてくれるひとはあまりいなかったから、とてもうれしい。
そっと頭を撫でられて、くすぐったい気持ちになった。
「さーて、みなさん!どうも、お疲れ様でした」
大江と佐々木が前に立って、頭をちいさく下げる。
「奴さんもちょうどなりを潜めた所で、ここらでちょっとばかり休憩ってことでして。慰労会を開かせていただいた次第です。おい佐々木、お前もなんか言えよ」
「あ?こういうのはお前の仕事だろ」
「ったく。ってことで、今日は無礼講……っていても、上司はいないか……。ま、明日はどうせ休みだし、飲んじまいましょう!あ、真君はアルコール取っちゃだめだよ!あんまり長くしても、道成寺から文句言われるので、この辺で」
「俺はそんなこと言わないすよ!?」
まわりが拍手をしたので、真も倣って拍手をする。
頭を蝶子に押さえつけられている道成寺が気になったけど。
「真、ジュースは何がいいですか」
「……えっとね、梅昆布茶」
「し、渋いわね。真」
「ああ……家にある梅昆布茶が好きなんですよ」
覚えていてくれたんだ。
うれしくなって、頷いた。
「じゃあとりあえず、ビールが……三つに、日本酒が二つ。うめこぶ……誰だ?まあいっか。それが二つ」




