遠山・6
真の左腕は、イザヤと繋がっている。
巨大な脳であるイザヤのすべては、コード化されており、「どこに何があり」、そして「それをどうすればいいか」という概念を、自在に操ることが出来るのだ。
それこそが真が言う、「何でも願いを叶えてくれる」左腕だった。
それを操る事ができる為、アヤナシが狙い、はては遺物までも狙っている。
だからこそ、真を守る為に葵重工に護衛を依頼したのだ。
ただ、真の脳と左腕はリンクしているため、左腕だけを持ち帰ってもそれは発動しない。
逆に、脳と左腕さえ持ち帰れば死んでいようとなかろうと、それは勝手に発動する。
「……そういうこと」
真は、すべてを話した。
睡蓮がうなずき、顎に手をあてる。
「だから、遺物が真を狙うのね。エ霞、あんた何で知ってたのよ?」
「そりゃ前に五室に潜った時に、表面だけだが分かったんだよ。俺から言うのもおかしいだろ」
「ま、そうね」
重工内の工事は既に始まっている。
二階はすべて立ち入りは禁止されて、今いる三階にも工事の振動が響いていた。
「……エ霞、睡蓮」
「ん?」
真は居住いを正して、頭を下げてくる。
「ごめんなさい。迷惑をかけて」
「…真」
「顔を上げてよ。私たちはね、真の迷惑だったら幾らでもかぶるつもりなんだから」
彼女は胸を張って、そう言い切った。
ゆるゆると顔を上げ、それでも目を伏せたままの真の頬を、ぎゅっとつねる。
驚いたように目を見開いた真の目の前には、睡蓮の微笑があった。
「そりゃ、いやぁな奴の迷惑なんてかぶりたくないわよ。でもね。真はとってもいい子だって、私たちは知ってる」
「・・・」
「大丈夫!雪輪のときは結構苦戦しちゃったけど、私たちだって強いんだから!」
「ありがとう……睡蓮」
赤い目が、わずかに揺れる。
泣く事など、兄の前でしかしなかったのに。
喉が苦しくなって、目が熱くなる。
「・・・」
「わー!わー!泣くな!泣くんじゃない!琳に殺される!」
「う、うん、ごめん」
エ霞が大げさに叫んで、気を紛らわせてくれた所為で涙は出なかった。
それでも目をこすったせいで、瞼の辺りが赤くなってしまう。
「馬鹿!馬鹿じゃないの!エ霞のバァァアアカ!!」
「ひ、ひどい!馬鹿馬鹿連呼するなぁ!」
青筋を立てている睡蓮から逃れるように、真の後ろに隠れるように移動した。
「こういうときはねぇ、泣いてもいいぞ、って言うのよ!女心が分かってないんだから!」
「おれ、男だけど…」
「いいのよ。真は。白いし、ちっちゃいし、かわいいし…!」
「うれしく、ない……」
休憩室のソファーに体を埋めて、呻く。
確かに、真は「小さい」。
15歳にしては、平均よりも低い方に入るだろう。
琳も高峯も、身長は高いほうに入る。
だが、真だけが小さいことに、疑問をいだいていたのも事実だ。
「どうして、おれだけ背が低いんだろう?」
「ううん。そりゃ、何でだろうなあ。牛乳は飲んでるか?」
「嫌いじゃないし、普通に飲んでると思うけど」
いつもの真に戻ったような気がして、内心二人は安堵の息をつく。
「真のお母さんは、背は低かったの?」
「母さん?……母さんのことは、おれ、まったく覚えてないんだ。父さんも兄さんも、母さんのこと、口に出した事はないし」
「そうなの……」
真自身、母親に会いたいだの、会いたくないだの思ったことはなかった。
今思えば不思議だ。
顔も、名前さえも知らないことに違和感さえ覚えていなかったのだから。
「そういえば、母さんの名前……」
「ん?どしたの、真」
「……考えたことなかったな、って。おれの母さんは、どんな人だったんだろう?」
「琳に聞いてみたら?」
「うん……」
あいまいにうなずいて、さて、と立ち上がった睡蓮を見上げる。
「籬の治療もそろそろ終わったでしょ。私はちょっと見に行ってくるわ。真とエ霞は琳のところに行ってて」
「おれも……」
「そんなに気にしないでって。籬だって、弱ってるところを見られたくないのよ。あいつってば、変なところで格好付けなんだから」
「……うん。分かった」
睡蓮が休憩室を出て行くと、僅かな沈黙が通り過ぎてゆく。
ソファーに座った真は、足をぶらぶらと遊ばせながら、エ霞に顔を向けた。




