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セツナドライブ  作者: レッドキサラギ
第四話 兄妹
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002

「ここがこの時代のセツナドライブの支部よ。といっても、ただのボロアパートなんだけど」


 藍川が過去の拠点に選んだのは、木造建築、五畳風呂なしのアパート。辛うじてコンロとシンクがついている。しかしここは、北王子商店に程近い場所に存在していた。


「ここからは各自別行動をとる事にするわ。その方が効率的でしょ?」


「ちょ……ちょっと待ってくれ。僕はここで一体何の仕事をするのかまだ知らないんだが」


「あら?そういえば説明してなかったかしら?もう三〇回ほどは丁寧に説明した気になっていたんだけど」


「僕はそこまで理解力の無い人間じゃない!」


「そうね。もし一回で理解出来なかったら即刻解雇処分ね」


「処分判定が厳しすぎる!」


 そんな規定を出していたら、一体年に何人ものリストラ候補が出るものなのか、考えてみただけでぞっとする。


「さて、冗談はさておき、簡単に説明をするわ。まず未来からの時管からの報告書なんだけど」


「時管ってのは?」


「時間管理官、略して時管。時空での異変や犯罪を管理、視察を行っている特別機関よ。わたし達のような特定時間層管理事業会社に公的に特別に報告書が回ってくるの」


「なるほど……」


「話が脱線したわね。それで、報告書には一九六九年一月一八日を境に時空変が起きている事が観測されたわ。原因はキーパーソンの消失又は殺害。キーパーソンは北王子浩二。首謀者は特定できていないらしいわね」


「北王子浩二……麻子さんのお兄さんか?」


「そうね。彼は共学共闘会議の反対運動グループのリーダーだから間違いないわ」


「なるほど……それで一つ聞きたい事があるのだが」


「何かしら?」


「共学共闘会議ってのはその……何なんだ?」


 質問と同時に、藍川の表情が若干ながら濁る。嫌な予感が、僕を過ぎる。


「……最悪ね」


「絶望された!」


「まさかそんなに常識の無い人間だとは思っても無かったわ。厄介迷惑この上ないわね」


「すごくストレートに言われた!」


 何というか、藍川が本当に厄介そうな表情を浮かべているのが怖い。

 僕はそんなに面倒な質問をしてしまったのか?自覚が全く無い。


「共学共闘会議は学生が学園改革を起こすために結成した団体であって、その中の多数が新左翼の考えを持った学生だったらしいわ。東京大学本郷キャンパスを違法に乗っ取り、占拠。1月18日に警視庁のバリケード突破作戦にて攻防を繰り広げたという野蛮な連中の事よ。ちなみに、占拠した時の事件と警視庁との攻防戦の事を合わせて安田講堂事件というの」


「安田講堂事件……ってか、攻防戦!?それってつまり、警察と一戦交えたって事だよな?」


「そうなるわね。しかしその時、警察が取り押さえる前に共学共闘会議内部で抗争があったそうよ。おそらく、北王子浩二さん率いる反対派との抗争と思われるわ。警察の手柄にする為に、あまり表沙汰にはされていない情報らしいけれど、反対派のメンバーのみが釈放されている事から、そう予測されるわ」


「なるほど……」


「今回の時空犯罪者はおそらく、日本を新左翼的社会に作り上げようとしている。そうなると北王子浩二さんは目の上のたんこぶ。邪魔者でしかないわ」


「だから……浩二さんを殺した。だけど、どうして麻子ばあちゃんまで消えて……」


「……これはわたしの勝手な憶測になるけど、浩二さんの意思を次ぐ者を出したくなかったんでしょうね。だから麻子さんも消した。これなら筋が通らないかしら?」


「筋が通らない事も……無い」


 むしろ、あからさまになったような結論だった。

 ここまで視野に入れるなんて、敵ながら称賛してしまう。計画がとても計算高く、微細だ。


「だから私たちの目標は、第一に浩二さんの保護、第二に時空犯罪者の確保をする事よ。あなたには保護の方をやってもらうわ。さすがに初めての仕事で確保は難しいでしょう」


「浩二さんの保護を僕が……でも保護って何をすればいいんだ?」


 保護と言われても、素人の僕には具体的な方法が思いつかない。時空犯罪者に関しても、この仕事に関しても、知識が皆無なのだから。


「近くで見守るだけでいいわ。時空犯罪者の対象への接近を防ぐの。それだけでいいわ」


「本当にそれだけでいいのか?」


「あなたには確保任務はまだ早いわ。それに、対象を保護する事はとても重要。あなたにはもったいないくらいに手柄を立てられる仕事なのよ」


「もったいないって……」


「腹立たしいわね。憎いくらいだわ」


「……いや待て!僕は悪くない!勝手に仕事を決めたのはあんただろ!」


「初めての仕事だから手柄を立てたほうがモチベーションが上がるでしょ?……大丈夫よ、これが終わったらキッチリ仕事してもらうつもりだから……フフフ……」


「嫌な予感しかしない!」


 藍川が静かに笑うのが僕の第六感を嫌というほど刺激する。

 本当に、何をさせる気なんだコイツ……。


「じゃあわたしは早速捜査に取り掛かるわ。早くしないと相手がわたし達に勘付くかもしれないから。あなたもしっかり保護するように頼むわよ」


「お……おう……」


 特に何をすることもなく、藍川は部屋の扉を開き、静かに出て行く。

 僕もこんなところでうかうかしてなどいられない。とりあえず浩二さんを探しに、僕は町へ繰り出す事にした。

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