003
「ぐうう……飲み過ぎた……頭痛ぇ」
朝、僕はベッドから起き上がり、ふらつく足取りで階段を下り、洗面台で顔を洗う。飲み屋を出た後、酒の入った僕達はカラオケで二次会を行い、気がつけば部屋のベッドでぶっ倒れていたという状況だった。
どうやら、記憶が無くなるほど僕は飲んでしまったらしい。酒に飲まれるとはまさにこの事だ。
「くそ……今日の就職面接は午後からだな」
タオルで顔の水を拭き取り、僕はそのままリビングの方へと歩を進める。二日酔いが酷く、頭が痛い。
「あっ……起きたんだ」
愛想も無くそう言ってリビングにいたのは、妹の未来だった。そうか……今日は土曜日、高校は休みなのか。
「まあな……こんなに頭痛けりゃ安眠も出来ない」
「迷惑なのよあんなに酔ってもらうと。こっちはせっかくゆっくり眠れてたのに……」
「…………」
「…………何よ」
「なんでもねぇよ」
コイツ……一言余計なんだよな。口が悪いというか何と言うか……変に僕に突っかかってくる。正直、めんどくさい奴だ。
「……朝ご飯ならお母さんが作ってテーブルに置いてるわよ」
「そうかい……じゃあいただきます……っと」
目玉焼きと白米。それにインスタント食品の味噌汁。まさに日本の朝ご飯だ。
「……ねえ、就職の方はどうなのよ」
「ん?……ああ、全然駄目だな」
「全然駄目って……」
呆れ顔をしてみせる未来。けれど、これが現実なのだから仕方ない。
「大丈夫大丈夫。ネバーギブアップだ」
「まったく……前向きなんだか適当なんだか……そんなんだから就職出来ないのよ」
「うるせぇ……大きなお世話だ」
「…………」
「…………」
一瞬でリビングは沈黙へと帰る。僕だって……これでも一生懸命なんだ。コイツに指摘される筋合いなど……無い。
「……今日も就職面接あるの?」
「……まあな。午後からだけど」
「……お母さんが心配してたわよ……だから早く就職してよね。わたしにとっても良い迷惑だから」
「……分かってるよそんな事」
今日こそ……今日こそは絶対に。
僕は決心し、茶碗に盛られた白米を口にかき込む。もう……不採用の通知はいらない。僕が欲しいのは採用通知のみ。その為には、もう手段を選んでなどいられない状況に、僕はいつの間にか立たされていた。