002
「かんぱーい!」
すっかり日の沈んでしまった夜、東京中心部にある小さな飲み屋で僕と持田と津本は集まり、早速杯を交わし、持田だけがビールの中ジョッキを一気に飲み干す。
相変わらず、豪快な奴だ。
「ういー!やっぱビールは生絞りだよなおい!」
「持田ってさあ確か……大学の時発泡酒飲んだ時もそんな事言ってたよね?」
「うるせえな!酒はなうまけりゃいいんだようまけりゃ!!」
「はいはい分かったよ」
大声で持論を語る持田に対して、津本は軽く笑みを浮かべる。津本健、僕達の中では最も頭が良く、最も温厚な奴だ。
「そういやあよう……津本って確か大学院に行ったんだよな?どうなんだよ?……うん、この焼き鳥もうまいな!」
「質問するのか焼き鳥食うのかどちらかにしてよね……大学院はまあまあかなあ……毎日研究ばっかだよ」
「研究か……俺には合いそうにねえな!」
「誰も持田の事なんて聞いてないよ。それより持田の方はどうなのさ?確か中小企業に就職したんでしょ?」
「ああ。もう初っ端から活躍しっぱなしだぜ!仕事が毎日忙しくて仕方ない!」
「それってただパシられてるだけなんじゃないの?」
「うっせえ!完全否定出来ないがうっせえ!」
冷静な津本に対して、一人声を張り上げる持田。大学時代によく見た、懐かしい光景だった。
「はいはい分かったから落ち着けって。ところで刹那はどうなの?」
「はっ?俺か?」
「お前以外にいないだろうよ」
「いや……なんというかさ……俺に合う職業がねえんだよなうん」
「つまり無職って事か」
「まあ……な」
思わず僕は、言いよどんでしまう。あまり認めたくない現実ではあった。
「たく……だから大学の時にあれだけ俺がお笑い芸人を推薦したのによ」
「そんな事聞いたことない!初耳だ!」
「あの時の刹那は輝いてたよね」
「あの時ってどの時だ!」
「腹踊りを路上でしていた時の刹那……輝いてたZE☆」
「僕は露出狂じゃない!」
コイツ等……僕をどの方向に導こうとしてるんだ。名誉毀損で訴えるぞ。
「まあでも就職難だからねえ……決まらなくても仕方ないよ。地道に頑張ればいいよ」
「そうだそうだ!まあ今日はそんな事忘れてさっ!飲もうぜ飲もうぜおいっ!!」
「まあそうだな……飲もうか!」
僕と持田はビールのジョッキを一気飲みする。恐ろしい具合に、酒が進む。
「二人ともペース速いなぁ」
「こんなもん序の口だ!もっとだもっと!!」
「ビール追加二杯!」
「やれやれ……あっ店員さん、僕もウーロンハイお願いします」
津本がペース配分を考えてウーロンハイを飲む中、僕と持田は後先考えずに次々とジョッキビールを飲み干していく。
酒を飲むと言うよりは、やけ酒に近いような、そんな気がしてならなかったのだが、友人と飲む酒はそれでもやはり、美味かった。