001
「わたしとした事が……ここまで苦戦を強いられるとは思っても無かったわ……」
「まあ……な」
一月十六日。僕がこの時代に来て三日が経った。
この三日で良くも悪くも変わったことは無く、僕は相変わらず浩二さんと麻子さんの保護をし、藍川は時空犯罪者を追っている。
だが、どうやら藍川の方が上手くいっていないらしい。僕には少し、藍川がピリピリしているように見えた。
正直、あまり触れたくない状況だ。
「対象に接近するどころか、姿すら見せないなんて……相手はかなり用心深いわね。きっと家に厳重なセキュリティを施してないと気がすまないタイプの人間だわ」
「そこまで分かっちまうのかよ」
「事故なんか起こしたら、死体ごと車に積んで証拠をもみ消すタイプよ」
「そこまで分かるのか!」
まあ、どちらにしても意味としては用心深いという事なのだが、あえてここは突っ込まない事にしよう。火に油を注ぐような真似は、絶対にしたくない。
「そういえばあなたの方はどうなの?……と言っても、相手が現れてないんだから大丈夫よね」
「ああ、お蔭様でな。でもおかしいな……一八日まであと二日だぞ?それなのに、何もアクションを起こさないなんて」
「相手はよっぽど自分の作戦に自信があるのよ。一八日で必ず浩二さんを消す自信が。そのための保険なんていらない。そんな感じなんじゃないかしら?」
「なるほどな……それはよっぽどの自信の持ち主だ」
「あなたみたいな猪突猛進の人間とは大違いね。扱いにくくて嫌になるわ」
「それは僕が扱いやすいって事か!」
「餌付け出来そうだもの」
「僕は動物じゃない!」
こんなの人権侵害だ。今すぐ訴えるぞ!……とまでは正直口に出来ないが。
「……そういえば今日……一六日なのよね?」
「ああ」
「一六日……一六日……ううん……そうだわ!」
「どうしたんだ?……うおっと!」
何を思い出したのか、藍川は急に立ち上がり、靴を履いて玄関の扉を開く。
お蔭様で重心の支えを失った僕は、背中から畳の上に転がってしまった。
「もしかしたら今日、時空犯罪者があなた達に接近してくるかもしれないわ。だからあなたはしっかり保護に徹しなさい」
「おいなんで今日なんだ……ああ、行っちまった」
僕が呼び止めようとした時にはもう、藍川は部屋を出てしまっていた。
あんなに慌てふためいて、一体今日何があるって言うんだ?それに時空犯罪者が接近してくるなんて、藍川の事だ、何かそれなりの理由があるのだろう。
理由無しに藍川がそんな事を言う人間だとは、僕は思っていない。何故そうなのか、その理由は無いけれど、僕の直感がそう僕に教えているのだから、きっとそうなのだろう。
「けど……何なんだろうか……接近してくる理由」
それからしばらく寝転がったまま、僕たちに時空犯罪者が接近してくる理由を考えたのだが、全くと言っていいほど思いつかない。
頭がオーバーヒートになりかけていたその時、扉からノックの音が聞こえた。
「誰だろう?」
扉を開けてみると、そこにいたのは、綺麗に服を着飾った麻子さんといつもと変わりの無い服装の浩二さんだった。