表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

oneself and yourself

作者: 唯羽 ユウ

あるところに男の子がいました。彼はなにも信じていませんでした。自分も世界も他人もなにも信じていませんでした。彼はすべてを裏切られてきたのです。


そんな彼にある時神様が夢に現れてこう言いました。


「あなたの一番身近にあるものをじっくりと見つめなさい。そうすればきっと幸福が訪れるでしょう」


彼は一晩中考えました。


しかしそれが何か分かりませんでした。


そこで彼は先生に聞いてみることにしました。先生はおっしゃいました。


「それはもちろん教育だ。教育ほど身近で役に立つものはない」


そこで彼は一生懸命勉強に励みました。


難関大学を首席で卒業し勧められるままに一流企業に就職しました。


しかし彼はちっとも幸せではありませんでした。勉強なんか出来ても仕方が無かったのです。


そこで彼は次に社長さんに尋ねました。社長さんはおっしゃいました。


「そんなの金に決まっとるだろうが。世の中金がすべてだ。ガハハハ」


なるほど金かと思い、彼はお金儲けを始めました。


秀才の彼です。その頭を使ってあっという間にビルゲイツに並ぶ大金持ちになりました。


しかし彼は少しも幸せではありませんでした。彼にとってお金など紙切れ以外の何物でも無かったのです。


そこで彼は次に神父さんに聞きました。神父さんはおっしゃいました。


「人間が一番身近に持っているもの、それは慈悲の心です。困っている人、不幸な人を救ってあげなさい」


なるほどと思い、彼は様々な活動を始めました。


貧しい人々に衣食住を与え仕事をみつけてあげました。


世界中の貧しい国々に赴き役に立つ技術を教えました。学校も病院も立ててやりました。


大金持ちの彼です。なんの障害もありませんでした。


しかし彼は何かが違うと思いました。だんだん自分が何をやっているか分からなくなったのです。なんのために生きているか分からなくなったのです。


彼はもういやになりました。


人生がいやになりました。


生きていくのがいやになりました。


彼は自殺をする決心をしました。


夜、大きな剃刀を持って洗面所に立ちました。鋭利な刃を手首に当てます。不思議と恐怖はありません。これで楽になれると喜びさえ覚えました。


そして力いっぱい手を引こうとした瞬間、誰かがこちらを見ているような気がしました。


辺りを見回すと、目の前に男が立っているのが見えました。


彼はギョッとしました。相手も同じように驚いています。


彼は「誰だ」と聞きました。男も同時に同じように口を開きましたがなぜか声は聞こえません。


彼は男をじっと見つめました。


男も彼を見つめています。


彼は男の鼻が自分のそれと同じように曲がっていることに気がつきました。この鼻が大嫌いな彼でしたがなぜか彼の鼻はかっこよく見えました。


男の顔は彼のそれと同じように不細工でしたが彼はその顔を素敵だと思いました。


男の目はとても澄んでいてきれいでした。彼はこんな目が欲しいなと思いました。


彼はこの男はどんな過去を歩んできたんだろうと考えました。不思議なことに彼は男の過去を知っていました。


男は悲惨な日々を送ってきましたが、今は幸せそうでした。


頭はよくて金持ちで、なにより世界中の人から愛されていました。


彼はいいなと思いました。こんな人になりたいと思いました。


彼は心の中で尋ねます。


「あなたは幸せですか」


男の答えが心の中に響きます。


「えぇ、幸せです」


「どうしたらそんなに幸せになれますか」


「一生懸命に生きる事です。常に前を見る事です。さぁ、足を踏み出しなさい」



それを聞いたとたん彼は剃刀を放り出して外に飛び出しました。


部屋は静寂に包まれます。

先ほどの男のいた場所には誰も居らず、彼の部屋を写し出しているだけでした。




こうしている今も彼は世界のどこかで幸せに暮らしていることでしょう。




貴方も一番身近にあるものをじっくりと見つめてみませんか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ