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第五話 手遅れ

またまた長くなった…。

「さぁ、選択タイムだ。ここで痛い目見るか、俺たちに従いてくるか…。好きな方を選べ」


「くっ………」


 大柄の少年が下卑た笑みを浮かべ、咲椋に迫る。

咲椋は恐怖の余り、正しい思考が全く働かなかった。



 その時突然、彼らの注意の向いていない所から声がした。


「選択するのは、お前たちの方らしいぞ」


「?」


 その場に居た全員がそちらへ頭を回す。

彼らの眼には逆光によって、その人物のシルエットのみがくっきりと浮き出るように写った。


 その人物、雷電は壁にもたれかかるように腕を組んで佇んでいた。


 雷電は出来るだけ挑発するような身振り、口調を心がけようとした結果、どこぞのヒーローのような感じになってしまったのである。




「お前達……倫理に外れるのは許せないな」


「何だぁ?テメェ!」


 少年達の中から特に背の大きな者が歩み寄る。

雷電は少年に向かって、口を釣り上げ、瞳を細めると、


「何、通りすがりの」


 言った瞬間、少年と相対し、仁王立ちで、


「高校生さ」


 足を蹴り上げ、股間にクリーンヒットさせた。


「?!」


 痛みでその場にうずくまって悶絶する少年。雷電はこれ以上の危害を加える必要は無いと判断して、その横を華麗にスルー。


「その辺で終わりしといた方がいいぜ。この俺を怒らせる前にな」


 こういう表情の変化は、普段の雷電からは予想がつかないものである。

しかし彼はこのテの仕草が大の得意で、この特技は彼の人生を大いに助けてきた。


「……何の真似だか知らないが、邪魔はしない方がいい。怪我をするだけだ」


 どうやら今咲椋を掴んでいる少年がこの中でのリーダーらしい。怪訝な顔で雷電を睨みつけていた。

彼と少女を取り囲むように残りの者が立ち塞がる。


「どうだろうな?やってみなくちゃ分からないぜ?」


 リーダーの少年はため息を吐き、非常に面倒そうに一言。


「少し痛めつけろ」


 そして今度は雷電の周りに少年達が回りこむ。


 狭い路地のため、大人数が立ちまわるには好都合とは言い難い。雷電はこの場所に感謝した。


(7人か…。ここならまとめていけるか?)


 雷電は不敵な笑みの一方で、冷静に状況を判断する。


(こいつらをのして、あいつを引きつけたら女共は助けられる)


「オオオラァァァア!!」


 この中では小柄な一人が雷電に向かって拳を振り回す。


 目の前から来るとは馬鹿だな、と雷電は思いながらも体勢を低くしてかわし、懐に踏み込んで左の肘鉄を鳩尾に突き刺した。


「うっ」


 鈍い音がし、悲鳴にもならない呻きを上げて後ろに倒れ込む少年。すかさず雷電は倒れそうな体に追い打ちの右ブローを腹に打ち込む。

もんどり打って吹っ飛ぶ少年を尻目に、すかさず右に居た少し太った少年にタックル。

壁に打ち付け、そのまま股間に膝蹴りを食らわす。

瞬く間に青ざめる少年の顔を鷲掴みにして、コンクリートの硬そうな壁面に渾身の力でぶつける。

ゴン、と響きのいい音と共に少年は白目を剥いて崩れ去った。


 一人が雷電の両腕を羽交い絞めにし、身動きを取れなくした。


「コイツ……!」


「てめぇら、やっちまえ!!」


 合図と共に二人同時にこちらに突っ込んできたのを見ると、雷電はこの少年たちが恐ろしいほど喧嘩が出来ないのを悟った。


 雷電は腕を掴んでいる少年のつま先を全体重を乗せて踏みつけた。


「てっ!」


 怯んだ一瞬を逃さず腕を振りほどき、肘鉄を後ろを振り返らずつき出して、そのまま少年の腕を掴んで前に放り投げた。




「うわぁぁぁあああああ!!!」


 背後から悲鳴か気合か分からぬ叫び声が上がり、雷電は即座に振り向く。

細めの少年がヤケクソ気味に放った鉄パイプが雷電の顔に向かって飛んできて、すんでのところで頭を振って避けた。


 鉄パイプは乾いた音を路地裏に反響させ壁に激突し、落下した。




 直後、少年たちを写した雷電の瞳は、もう演技の入らない、純粋な怒りに染まっていた。


「武器を使う資格のある奴はな……死ぬ覚悟が出来てる人間なんだよ」


 静かに言い放つ雷電の纏う雰囲気は、不思議とこの場を冷たくさせる。

鉄パイプを投げた少年は竦み上がり、もう一人の方はもう一本のパイプを構え、


「だったらなんなんだよ!!」


 叫びながら、雷電に振り下ろす。


「お前は出来てるのか」


 雷電は腕を上げ、振り下ろされるパイプを受け止め片方の手でそれを掴みつつ、前蹴りを少年の腹に繰り出して鉄パイプをもぎ取った。


 雷電は奪い取った鉄パイプを地面に放り投げ、壁にぶつかった少年に容赦の無い両拳のラッシュを次々と顔に叩き込んでいく。少年の顔は見る間に血と涙で汚れていった。


 フィニッシュブローを鳩尾に突き刺すと、何の悲鳴もあげずに少年は壁沿いに座り込んでしまった。


「おっと、俺としたことが…。意識が無くなるくらいで殴ってしまった。殺すつもりで殴ったんだが」


 いつもの感情の無い言葉を喋りながら、雷電は崩れる少年を見つめた。


「お前も、覚悟が出来ているんだろう?」



 振り向いた雷電の顔は、顔半分は陰で見えなかったが、明かりの当たっている方はよく見えた。

返り血にまみれた無感情な、人間のものとは思えないおぞましい顔が。



 言われた少年は、涙でクシャクシャになりながら頭を激しく振り、何も言わずに雷電が来た方の抜け口から逃げ出してしまった。


「そうだ。それでいい。で、だ…」


 雷電は尚も逃げ出さないリーダーに向かって、


「考えたか?」


 無感情で尋ねた。


 リーダーは額に冷や汗を垂らして、恐怖の色を隠せないでいた。

仲間をこの一分で、しかも自分より明らかに弱そうな少年に倒され動揺したのだろう。


「ふ、ふざけるなぁーーーーっ!!」


 雷電に一直線にダッシュを仕掛けてきた。


「犠牲は増やしたくなかったんだが…」


 雷電は腰を落とし、右足に力を力を溜め始める。


「やってみたかったんだよ。これ」


「ああああああああああああああ!!!!」


 狂気の面持ちに向かってくるリーダーは、もはや冷静さのかけらも無かった。


 雷電とリーダーの距離が1Mになった時、雷電が遂に動いた。


 左足を軸に右足を振り上げ、見事な腰の回転によって美しい軌道を描く。

その足はリーダーの頭の高さまで上げられ、そのつま先がリーダーのこめかみを貫いた。


 何の文句も無いハイキックが、リーダーに直撃する。



 たまらずリーダーの体は壁に打ち付けられ、そのまま気を失った。


 放った雷電は、蹴った回転で逆方向に体が移動している。

そして仰向けのリーダーに向かってこう言った。


「ラ○ダーキック………っていうのかな。今の」



「す、凄い……」


 咲椋は今までの出来事を、一歩も動けず見つめていた。


「もしかしてあれって…英君?」


「咲椋、知ってる人?」


 隣に居た友達に咲椋は尋ねられた。


「うん、と………そう、前の席の男子」


「カッコイイ、けど……何か、こ、怖い……」


「人殺しみたいだったよ………」


「てかあんなヤツいたっけ?」


「あれだよ、今日噂になってた、謎の美少年!髪型変えただけであれって凄いよねー」


 危機が去り、様々な話を始める女子たち。


 しかし咲椋だけは雷電をだまって見つめていた。



 雷電は一息吐いて、少女達の方を見やった。


「…何か全員ぶっ倒してしまった。ま、いいか。こいつらの為でもある。もう悪いことはしないだろう。後は汐華達を助けるだけ……」


「雷電、後ろだ!!」


「?」


 樹里の叫びに後ろを振り返る雷電。


 ザクッ


「はぁ、はぁ、はぁぁぁぁぁぁああ……」


 一番始めに雷電に倒された太った少年が、両手でナイフを握り締めて、突進してきていたのだ。

ナイフは雷電の脇腹に、深々と突き刺さっている。


「な……」


 何が起きたか分からなかった雷電は、襲い掛かる激痛の源に視線を移した。

吹出す鮮血は、雷電の制服を紅に染めている。


「色々と、手遅れかよ…」


 雷電の双眸も、紅に染まりつつあった。



ラ○ダーキックはやってみたかっただけです。


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