キヘイジの不思議ばなし
ダイキチには死んだ者が見え、ときにはなにか不思議なものも見聞きできるが、『先生』のように、予見できたり、それがもつ霊力がはかれるわけでもない。
キヘイジはさきほどと変わりないようすで、黒い布に包まれたものを、そろえた膝の先におき、「こいつがその、《木彫りの猫》なんですがね」とダイキチの顔をみた。
「 ―― 先に言っておきますが、おれは、この布をひらいてねエんで」
「ひらいてなくて、『木彫りの猫』だとわかりましたか?」
「いや、こいつがそう言いましたし、布の上からてさぐりで、ああ、こりゃあたしかに猫だとね。 だけど、そいつが夜になって本物の猫になるなんざア、思ってもいなくて、」
「キヘイジさん、こうしましょう。わたくしどもはここで不思議ばなしを語り合う《百物語会》というものをしております。そこでは、語る前に蝋燭に火をつけ、終えればそれを消してゆくのですが、そのかたちにしてもよろしいですか?」
「そりゃあ、ここはご隠居さんのお屋敷ですし、そういうのをやってるから、ヒコさんも履物屋のご隠居がいいんじゃねえかって、いってました」
キヘイジの返事をきくまえに、先生が黒がねでできた洋物の燭台を部屋に持ち込み、ダイキチとキヘイジの間になるところへおくと、もう片手にしていた手持ちの蝋燭から火をうつした。
キヘイジはその燭台にある飾り細工を珍し気に見ていたが、木材ではないからか、すぐにダイキチへ顔をもどした。
「ええっと、それじゃあ・・・おれははなすのが苦手なんで、とびとびになっちまうかもしれねえんだが、ヒコさんにはなしたみたいでいいって言われたんで・・・、」
「いいんですよ、キヘイジさん。きいてるのはわたしたちだけですし、順序だてなくても。 そうですなあ、まずは、どうしてその、《木彫りの猫》に会ったのか、そこからはなしていただけますか?」
「会った?ああ、見つけたときか・・・。ってなると、おれが仕事から帰るところだな」
「お仕事はどちらへ?」
「それが、棟梁のおかみさんの親戚のとこへ出張ることになっちまいましてね。まあ、でもおかみさんには世話になってるし、その親戚っていう家もずいぶんと立派で、そこに男の子が生まれたってんで、虎の衝立を彫ってほしいなんてたのまれちまいまして。ほんとうなら絶対断ったんだが、おかみさんに、それまでその家の男の子は三つになる前に二人も死んじまってるなんてきかされたら、おれができることならやらなきゃならねえって気にもなる。 行ったらむこうの旦那さんもおかみさんも泣きそうな顔でむかえて、衝立のためにむこうで材木屋もいい木をいくつも用意してくれてて、こりゃあ、気をいれてやるしかねえ、と」
「そこで、見つけたと?」
ダイキチの問いにキヘイジは、はっとしたように顔をあげ、あわてて片手をふった。




