きいてほしい
二、
いつものように土産を持ちやってきた男が、昼前に顔をだしたので、これは何か話があるなとダイキチは微笑んだ。
夜に顔をだすときは、飯をいっしょに食べようと誘わずともしぜんと共にするようになったが、どうにもヒコイチは遠慮が先に立つ性格らしく、毎度、挨拶のように「おじゃましやすよ」とくちにするのは、どうやら本心であるらしい。
こちらは年寄り二人で暮らすだけなので、もっと『おじゃま』してほしいくらいだと言うと、困ったような照れたような顔でわらい、ようやくこのごろは『おじゃま』の数もふやしてくれたが、基本、顔をだすのは夕方からだ。昼間には《百物語会》をひらいているときもあるので、もしかしたら知り合いの一条のぼっちゃまとここで顔を合わせるのを遠慮してるのかもしれないし、その一条のぼっちゃまといっしょにいる文士の先生方に会いたくないのかもしれない、というのが、ダイキチと『せんせい』の見立てだ。
いつものように部屋にとおったヒコイチはあしもくずさずに、キヘイジのはなしを、ここでダイキチたちにきいてほしいと頼み込んだ。
「 そりゃあ、もちろん。 ―― ですが、どうしていまさら?もう本にしてもよいということで?」
いやいや、と手をふったヒコイチはむかいに座るダイキチと『せんせい』をみくらべるようにして、「あの《山男》のはなしじゃねえんで」とくちをまげた。
「 ―― なんだか、おれもよくわからねえんだが、おれじゃダメだっていうはなしなんで、それならダイキチさんにきいてもらおうじゃねえかって」
「ヒコイチさんじゃダメ?」
「へい。そのー、・・・猫が・・・」
「猫?カンジュウロウさんですか?」
ヒコイチのそばにはいつも、黒い猫が現れる。だがその猫の《中身》は、ダイキチも知り合いだった、死んだ乾物屋の主人、カンジュウロウだということを知っている。




