フキミソ
ヒコイチとおなじ長屋に住むキヘイジが、ダイキチのところへ相談しにくるはなし。
あいかわらず設定ゆるふわ。うすめでごらんください。。。。。
一、
「 こいつア、みやげってほどのもんじゃねえんですが、うちのかみさんがどうしてももっていけってきかねえもんで・・・」
男はせおってきたかごの中から、布にくるまれた渋い色味の器をだし、まるで殿様に差し出すように顔も見ず身をこごめたまますり足で近寄ると、両手でもったそれをダイキチの前へそっと置き、おなじ姿勢で座布団へともどり、膝に両手をおき頭をさげた。
それをみていた女が部屋のすみでわらいをこらえるようにくちもとに手をやる。
ダイキの前におかれたその器は、どうみても茶道でつかうお茶の器だが、その器のくちにちょうどの大きさの、落とし蓋がのっている。
どれ、と殿様気分でその器をもちあげて、落とし蓋の取っ手をつまみもちあげた。
「 おお、これはまた、 ―― フキミソでございますかな?」
その香りに幼いころの思い出がよみがえり、しぜんと嬉しそうな声がでた。
「 へい。こんな田舎くせえもん、ご隠居さまにはどうかって、おれは言ったんですが、まあ、うまいことに間違いはねえし、うちのやつア、いいだしたらきかねえもんで・・・」
「 いやいや。わたくしも田舎者でございますからむかしからよくくちにしておりました。ですが、フキミソはオクニによって味もすこし変わるようですし、ちょいとしつれいして、 ―― 」膝においた器に指をつこみ、ついたミソをあじわいとって、「う~ん、これはうまい」とわらいかけると、むかいの男はようやく肩の力をぬいたようにからだをかたむけた。
「 それではご隠居さま、そのフキミソはわたくしがお預かりしましょう。 ―― でないとすぐに、なくなりそうでございますもの」
みはからったように部屋のすみにいた女が立ち上がり、その器をうけとる。
懐紙ではなく手ぬぐいを懐からだしたダイキチは、「では、そのフキミソで酒を飲むのはまたにして、お茶でがまんしましょうか」と、それを首にかけた。
それをみた男がまたひとつ力をぬいたように器をもって部屋をでる女を見送った。
庭に面した障子はあけられたままで、春先のまだつめたい風がはいってくるが、冬にはない草木や土からのぼる匂いをとどけている。
小袴をはいていたダイキチは、はじめからあぐらをかいてすわっていたのだが、ここでいまいちど、むかいの男にもあしをくずして座りなおすようにすすめてみた。
「 ヒコイチさんからきいておられましょうが、わたくしはただの、下駄屋の隠居でございましてなあ。この年になりまして、冥途のみやげに、最後は好きな事だけをしようと思い立ちまして、こんなところにお屋敷を買いまして、子どものころからすきだった『不思議ばなし』をみなさまからきかせていただけるのが、いまの楽しみでございます」




