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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第四章 ブリュー・グラナータになったもんでブルーな気持ちでいられない

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俺は温かい部屋で甘いお菓子を食べたいだけなのに

我が家への襲撃に対して、俺もデニーも何もすることはないと俺は思った。

だからいそいそと久方ぶりのお茶会の準備をデニーとしていた、のに、オズワルドが俺達を呼びに来たのだ。ジェニーさんのお家に来いと。

ついでに、焼けたばかりの俺のクレープ取られた。


バターとオレンジの香りが強い生地にカラメルシロップを掛けた、普通のクレープよりもシンプルな外見ながら普通のクレープよりも手間が掛かっているクレープを。三日ぶりの俺のお菓子を、オズワルドがひょいパクしやがったのだ。


「うまいな。甘いものはどうでもいいと思ったが、これは旨い」


「俺のバターシュゼットおおおお」


「また作れば良いだろ。ほら、行く」


「デニー連れて家出しようかな」


「デニーと一緒は家出言わねえよ。ほら来い」


それで連れられてジェニーさんのお家に来てみれば、オズワルドが捕まえたばかりの襲撃者が厩舎の床に転がされているという情景だった。


これは猫的に狩りの成果を見せつけているってこと?

褒めろってこと? なんて面倒くさい。でもなあ。


「ええと、守ってくれてありがとう?」


「はは、そうだな。俺がお前に怪我一つさせるわけない」


恋愛小説の乙女だったら頬を染めそうなセリフだ。オズワルドはとっても背骨に響く素晴らしい声で、それを俺に機嫌よくほざいた。だが、十四歳という反抗期な少年で鬱前世を抱える俺には、神経がささくれだっただけである。


「で、どういう事なんですか。終ったなら終わったんでしょ。俺がジェニーさんのお家に呼ばれた理由がわかんないんですけど」


ジェニーさんのお家とは、それなりの屋敷には必ず併設されている馬用厩舎のことである。もちろん馬でなくベヘモットなジェニーさんは、通常は牧草ロール置き場となる二階を寝床と決めている。猫は狭くて暗くて、でも温かで湿っぽくない清潔な場所が好きだからね。


今回侵入者に対して彼女はそこから飛び出して、華麗に厩舎の二階から襲い掛かったのである。侵入者達は見慣れない魔獣が空から落ちて来た感覚で、さぞ怖かっただろうと思う。


厩舎の前面にある二階に牧草ロールを搬入するための扉は、俺が考案するペットドアが設置されるまで常に大きく広げていたんだよな。雨とか吹き込んで、きっと掃除が大変だっただろうなあ、デニーが。


俺は感慨深く二階を見上げた。

二階の暗闇に二つの大きな瞳がこっち、というか俺を見ている。


ぞわっと来た。


飛び掛かって来ないよね? 

毛皮のコート姿の俺こそ、獲物認定されている気がするんだよ。


「わかんないって、何呆けているんだ。見たそのまんまだろ?」


あ、会話途中だった。

てか、逃避したいよな、とオズワルドに言い負かされまいと強く言い返す。


「見たこの状況がわかんないって言ってんですよ」


「ぷふっ。怖い。グラナータは完全に尻に敷かれてるじゃないか」


吹き出して軽薄な茶々を入れたのは、オズワルドの作戦に乗り、憲兵連れて我が家の周囲に陣を張っていたらしい砦の偉い人だ。

そしてヴァルターが憲兵として連れて来た正騎士が俺の知った顔ばかりの四人で、今回の証言者として不適じゃないかと思った。リノさんなんか、胸の辺りで俺に向かって楽しそうに手を振っているぞ。

頭が痛いよ。


「誤認逮捕って突っ込まれたら負けるな」


「誤認じゃねえだろ。お前が家にいるって知った途端に、俺がいない隙を狙って、俺の許可なく、俺の家の敷地内に入ったんだ。それだけで万死に値する。で、そんなことをした目的を聞こうにも、お上品な言葉ばかりで意味が分からねえ。お前に通訳を頼もうかなって呼んだ」


俺は、はあ? と声が出そうだった。

狩りを息子に教えたいならまだわかる、が、これは理解不能だ。

尋問という名の拷問を俺にさせる気か?


でもってヴァルター、楽しそうな表情してる俺の顔見知りばっかり連れて来たのは、お前こそ俺に拷問をさせたいのか? 俺が連れて来たみんなは時々何も見えない聞こえないになるから大丈夫だよ、と。


俺は頭痛いと思いながら、俺に期待している男達を無視し、目の前の縛られている男達に意識を向けることにした。芋虫みたいに縛り上げられ、我が家ではなく、ジェニーさん専用厩舎の床に転がされている男二人に。


これ、本気で親猫が仔猫に獲物を差し出した図、だよな。


二人はオズワルドが言ったように、上品な言葉しか喋りそうもなかった。

縛られ転がされている二人とも、均整の取れた体つきに貴族的な顔立ちで、ひと目で身分がありそうだとわかる。どちらも金髪。赤味が強かったり、くすんでいようが、王国では金髪は貴族の証だ。デュッセンドルフ領民だったら、平民でも髪色薄い奴がゴロゴロだから違うかもだけど、こいつらは間違いなく貴族だろう。


彼等はこんな状態でも先行きに不安な顔をするどころか、逆にこんなことを自分達にしても良いのか、という不遜な顔つきなのである。


この驕りある態度、貴族かそれに準ずる奴らにしか出来ないだろう。

でもって、王国騎士団の騎士か。

平服姿になろうが腰から騎士団の意匠のある剣を下げてれば、王国騎士団の騎士だとバレバレだろうに。わざわざ騎士服脱いでも剣は手放さないのは、騎士としての矜持なのか単なる脳筋なだけなのか。気付かれないと思ってるのか馬鹿なのか。


だけど、貴族に縁戚ある王国騎士団の騎士、かあ。

そうか、デュッセンドルフとオズワルドの害にならないように、ということで、貴族のルールをよく知っている俺にこいつらの尋問を押しつけて来たのか。


俺はうんざりしながらも、しゃがんで彼等との目線に近づける。彼等は俺に見下されるのは嫌なのか、鼻息荒く、かなりの力を込めて体を起こそうとしている。

――起こせないな。なんて絶妙な縛り方。誰が縛ったんだろ。俺は親猫が仔猫に差し出した哀れな鼠役達に声を掛ける。


「僕はブリュー・グラナータ。あなた方のお名前をお伺いしても?」


「平民に名乗る名はない。気安く話しかけるな」


「そうだ。お前は俺達に従えばいいだけだ。それよりも、ヴァルター・デュッセンドルフ殿よ。我々をこのような目に遭わせるとは、なんと心得る。この軽率さ、恥ずかしく思わないのか。いくら辺境貴族でしきたりに疎かろうが、これは抗議を受けるに値する愚行である」


「そうだ。平民が我々の呼び出しを無視したのだ。我らが直々に出向いたならば、自ら扉を開けるのが道理というもの」


ええと、彼等は俺と話す気もないけど俺は彼等に従うべきで、彼等は俺に今まで呼び出しかけてた?


何も状況を教えて貰ってない俺に、何をしろと望んでいるのかな。

俺の自称保護者達はよ?


別に拷問して吐き出させる必要ないくらい、はっきりと、俺を連れ出したかったって言ってるじゃないの? 誰が命令したって、必要なくない? この間抜け共を放てば、こいつらの親玉こそが自分の肩書き前面に押し出して俺にごり押しして来るだけじゃない? 黙ってても潰せるだろうに、なんで?


溜息を吐いた俺は、ヴァルターとオズワルドへと視線を向けた。

けれど俺と目が合った二人は、すっとぼけた表情で肩をすくめただけである。


俺が、お前らの娯楽?


ぷっつん、と、俺の頭の何処かで切れた音がした。

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