逆切れるしかないのだろうか
王宮からやって来たダンジョン調査団は任せたぞ。
オズワルドは俺にそう命令して砦に戻って行った。
面倒だな、が、俺の純粋な感想。
あいつらは、魔の森で発見されたばかりのダンジョンの調査をするよりも、俺達が作ったマンドラゴラ畑の方が気になるのかよ。なんて欲深なんだよ。オズワルド達は特例使って、ダンジョンに調査前突入をしたけどさ、ちゃんとダンジョン法を守って宝箱を一切開けずに踏破したってのに。
あのダンジョンがオズワルドの血族が王族していた王国を魔の森が飲み込んだ理由じゃないとしても、今まであそこにダンジョンがあるなんて誰も知らなかった。
魔の森に小国が悉く呑み込まれたことで失われた情報かもしれないけど、オズワルドのひいばあ様がお姫様だった時代からだとしても、もう百年以上前なのだ。
だから今回オズワルド達が開けなかった宝箱は、確実に百年は放置されていたものであり、かなりの魔素だまりの影響を受けた「凄いものだった」はずだ。
なのに。今回かなりの宝物を得たはずだ。それなのに、魔獣除けに植えたマンドラゴラさえも引っこ抜きたいとは。
どれだけ欲深なんだよ?
富の匂いがするもの全部己が手にしないと満足しないのか?
俺は前の世界で起きた不幸のあれやこれやを思い出す。畜生。スタンピードが起きたデュッセルドルフを封鎖して壊滅させ、ケヴィンを爆死させ、王国中に魔獣とアンデッドがばらまかれたあの地獄。あれらは全て、こんなにも浅はかで際限のない欲望を持った奴らがいるせいで起きたのか。
どうしようもない苛立ちに追い立てられるように、俺は家の廊下を歩き回る。
わかっているよ、オズワルド。
ちゃんと動くから。
ピタッと俺の足が止まる。
ふぅ。
俺は大きく息を吐く。
この吐息は、面倒なことだという溜息ではない。
久しぶりに魔の森に行くにあたり、俺の子守り役に一緒に行ってと声を掛けねばいけない、そのための気力上げの深呼吸だ。
あの日からずっとデニーは俺に怒りを抱いている。同じ家の中にいて俺の為に飯の用意をしてはくれるが、俺に顔も姿も見せてくれない。食事は部屋の前に置かれているだけで、彼は俺を無視しっぱなしなのだ。
「くっそ。なんで深呼吸してんのに気力が上がらないんだ」
「吐いちゃうからでしょ。気力を上げる時は、息を吸って止める、です」
俺はバッと後ろへ体ごと振り返る。
俺の真後ろには、うんざり顔のデニーさんだ。
「デニー、こ、これから」
「俺にまず言うことは無いんですか?」
「すまなか――」
「謝って欲しいわけではありません」
これだ。
デニーは俺が消える予定だった日に、俺がデニーに追従を許さなかった事を怒っており、俺に冷たく当たるようになったのだ。
素直に謝っても、いや、謝ろうとすることさえ許してくれない。
三日前から俺が完全に部屋に籠ってしまったのは、これだ。彼が一番の原因だ。
「俺が部屋から出てこないのに心配してくれないのはなんで! 俺はあん時、オズワルド探しに行くだけしかなかった。会えた途端に、あいつがすぐに森を燃やしやがるって思ってなかったよ。てか、あの状況で、デニーを呼びに行っていいですか、なんて言えねえよ。あと、俺が一瞬でも死んだらお前後追いすんじゃん。だからその場にデニーがいなくて良かった。今回は結果オーライなんだよ!!」
もうどうしていいかわからない俺は、逆切れ、していた。
デニーが傷ついてたってことわかるよ。
オズワルドが意識のない俺につきっきりで、飯も食わずに酒だけ飲んでいたのも(飲んだくれはいつものことだけどね!)、全部、あの日の俺が数分ほど死んでしまっていたからだ。意識を失った瞬間に、俺の心臓の鼓動も止まったそうだよ。
オズワルドの火炎(もはや爆裂)魔法の火の手を見た面々が一斉に駆け付けてみれば、必死に俺に呼びかけながら心臓マッサージをするオズワルドの姿だ。
デニーはそん時にようやく知ったというか、誰かに聞かされたのかな。
俺がデュッセンドルフの危機を知らせる天使で、危機を脱する事ができればこの世から消えてしまう存在だって、ふざけた説明を。
で、デニーは俺にお怒りだってことだ。
俺が自分の秘密を彼には打ち明けなかったことも、彼が俺の側に控えたいと思うここ一番の時に拒絶した結果となったことにも。
――怒ってじゃない、傷ついてだな。
自分が人の輪に受け入れられているようでも、自分はその輪に全く受け入れて貰えていなかったと気付いた時みたいな、絶望感とか疎外感とか喪失感に陥って。
くっそ。全部前世で自分が受けて来た痛みだよ。
それで、俺はデニーのその傷ついた気持ちがわかるからこそ、俺は彼になんて声を掛けていいかわからなかった。謝罪はしたが、謝れば謝るほどに、自分の言葉が口先だけみたいに自分も感じるし。それで部屋から出られなくなって。
「あと、飯を部屋の前に置いとくってなんだよ! 話すきっかけないじゃない!」
「……他に言うことは?」
「今から領地を見に行く。護衛騎士として付いてこい」
「今夜のシチューの煮込みを始めたばかりです」
「……わかった。見回りは明日にする」
「……巡回兵に砦に連れて行ってもらえば、領地の見回りに行けますよ」
母親が普通子供を引き取るもんだろう。
浮気する時間があるあなたと違って、私は時間が無いんです。あなたのお母さんに見てもらえばいいじゃないの。私はもう、あなたに関係するモノは嫌なのよ。
俺だって、お前と同じ顔した子供なんかうんざりだ。
俺の頭の中に前世の記憶が蘇る。
「わかった。一人で行く」
俺は踵を返しかけ、
左の二の腕を掴まれて引き戻された。
俺を引き留めたデニーは、諦めたように大きな溜息を吐く。
それから、俺を真っ直ぐに見て、申し訳ありませんでした、何て言う。
これからお暇を頂きますって言葉を続ける気か? と、俺はぞっと震えた。
「デニー」
「あと一時間待って貰えますか?」
え?




