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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第四章 ブリュー・グラナータになったもんでブルーな気持ちでいられない

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オズワルドの養子になりました、が

本気だったのに死ぬ死ぬ詐欺になった場合、当事者は死ぬほど気まずい。


俺はいっぱいいっぱいだった。

思いがけず、どころか、デュッセンドルフ領のみんなに俺は愛着を抱いていたし、愛着を感じた分彼らが悲しむだろうと考えて有頂天になったのだ。


前世では実の両親に押し付け合われ、生まれてごめんなさい系の俺は、実に人にウザがられる存在でしかなかった。大学では同学部の子達に花見に誘われ、いそいそと一人一品だからとちょっとイイデリを買って持って行った。けれど、それに箸をつける奴はいなくて。俺ってキモい奴って思われてたのかな。だったら最初から誘うなよ。俺こそ空気を読んで、お誘いをお断りするべきだった?

そんな風に鬱々とするばかりの日常だったのだ。


なのにこの世界では俺は大事にされ、俺からの寵愛を求める奴だっている。


前世と今はどう違うんだろう。

バルバドゥス家の遺伝で少しは可愛くなっているからかな。


「起きろ」


ベッドの中の俺を包んでいた掛布団が剥ぎ取られた。

温かな空気は一気に霧散し、その代わりに俺の体を冷蔵庫のような冷気が包む。


「寒い。布団返して!!」


「いいから出ろよ。お前の三食昼寝付きの生活を支えている俺の見送りをしろ」


ここで終れば、俺もそうですねと素直にオズワルドに行ってらっしゃいをするだろう。だけど、オズワルドはオズワルドなのだ。

彼はそれは底意地が悪そうな笑顔になった。


「パパ行っちゃ嫌って感じか」


「うっせえな。さっさと行けよ。あと、寒いんだよ。まじ寒い。何この寒さ。どうして雪が少ないのにこんなに寒いの? 雪が少ないから凍っているの? もしかして魔の森のお陰で暖かかったってオチ? 俺はマンドラゴラさんじゃなくて、トレンツ系さん達こそ増やすべきだったの?」


ぽふ。

俺の頭の上に完全に俺のものになった毛皮のコートが被された。

まだ十四歳だから許されるのかもしれないが、女性用のコートを与えられる男の子ってなんだろう。自分は「閣下」と呼ばれるにふさわしい感じの、首回りと袖口、そして裏側に毛足の長い毛皮を貼り付けた真っ黒のロングコートでキメているというのに。


本気で俺の親父になりたいなら、まずそこからだと思うよ?


俺は不機嫌な顔を崩さずに、パジャマの上にモソモソと毛皮のコートを羽織る。

家の中で毛皮のコートと思うが、今日は特に寒い。普段は階下の暖炉の火で家の中はそれなりに温まっているはずなのに。今日はどうしたの? 家の中でも毛皮のコートじゃないと寒くて、部屋の外にも出られないほどだぞ。ここ三日ほど引きこもっていたけどね、それでも違うって俺は分かる。


「よし。行くぞ」


「元気だな。オッサンになると眠りが浅くなるんだっけ?」


「舌が回るんなら体も動くな。行くぞ」


「しまった。頭が回っていなかった」


「ばあか」


階下に降りて、玄関までお見送りに行けば、俺は世界が凍っているってことを知った。薄暗い真っ白な空に真っ白な雪景色。そこに緑と茶色の色味を与える針葉樹の木々には、氷で出来ている蜘蛛の巣が掛かっている。


「樹氷?」


「きれいだろ? デュッセンドルフ名物だ。昨夜はさっさと暖炉の火を落としたから、ぜんぜん煤で汚れていない奴ができたな。きっとデュッセンドルフ一の樹氷に違いないぞ」


俺は乾いた笑い声をあげた。

昨日の夜から今朝まで、こんなに寒い思いをする羽目になったのは、オズワルドが俺に最高の樹氷を作って見せたかったからか。

恋愛小説のヒロインだったら感動するかもしれないが、十四歳の男の子でしかない俺は「何してやがるんだこの親父は」程度の感想しかないというのに。


「王都から来ているダンジョン調査団が、案内の目を盗んではお前の畑を荒そうとするんだそうだ。ほら、お前の出番だ。そうだろう?」


俺は自分が演じた愁嘆場を思い出すのも恥ずいと、この世界に固定された日からずっと部屋に引きこもっていた。だって考えてみてよ。俺はもう消える、そんなのは覚悟の上だよ。って不特定多数に対して騒いで、でもって伝えた人達に好きだって感じで抱き着いて、だよ? 


それなのに消えなかったという結果だ。

鬱気味の俺にはいかほどに気まずいか考えて欲しい。


オズワルドは全部わかっているから、キレイな樹氷作りしちゃったり、おまけに俺が外に出なきゃいけなくなる口実まで用意してくれたのだろう。


ふふふ。あんたの女友達だったら「落ちる」かもしれないが、俺は誇り高きバルバドゥス伯爵家三男のフィール・バルバドゥス様であり、今は「己こそがルールなオズワルドの息子」なんだってわかっていないのか?


「調査団の引率役に、適当に目を放せと伝えれば終いでしょうに」


「…………お前はどうしてそんなに物騒なんだ。死体はな、作るよりも片付ける方が面倒なものなんだぞ」


「……死体も放置しときましょうよ。マンドラさんが勝手に肥料にしてくれますよ、きっと」


「肥料を得たあいつらがこれ以上繁殖されるのも恐怖だ」


「あなたが恐怖を感じるとは」


「お前だって恐怖だと思うぞ。どのブリュー畑もマンドラゴラで一杯だ」


「え?」


「実際に行って見てこい。一枚の畑に二十四株だって? それ以上に増えているぞ。普通のジャガイモ畑みたいにして、マンドラゴラの葉がわっさわっさだ」


「真冬のこんな寒い時期に。なんて非常識な草ものなんだ」


ヤバイ。俺は口元に片手を当てて、考え込んでいる感じを装っているが、ヤバいしかない。だって、ブリュー畑は魔の森を後退させた印でもあるが、あそこは功労者のオズワルドの私有地なのだ。


「農耕にも家を建てるに不適当な実りを望めない土地ってことで申請できないじゃないか。どうしよう。抜いちゃいけないマンドラゴラでもマンドラゴラ畑って体になったら、価値ができたって税金がかかってしまう!!」


「ブリュー。お前が頭を悩ますのはそこじゃない。マンドラゴラ減らす方法を考えてくれ。あれが砦まで広がったら悪夢でしかない」


「やっぱ。調査団の引率役に、適当に目を放せと伝えてください。大ごとになったら国がマンドラごと土地を没収してくれますよ、きっと」


「調査団がどうにかなるのは別にどうでもいいが、土地がとられるのは困る。今度俺は男爵になるが、あの土地ありきでの叙勲だ」


「あなたがこの国の爵位を欲しがるとは思いませんでした。いいのですか? 爵位なんか貰ったら、あなたはこの国の思惑に縛られることになりますよ」


「だけど俺はお前を貴族の子供のままにしといてやりたいんだよ。俺の息子になったせいで平民だってお前が侮られるのは許せないからな」


「ふふ、フハハハハ」


「笑うか」


「笑いますよ。世界に一人の英雄の息子とオルディアート国の貴族の息子。どっちが恰好良いと思ってんです?」


「じゃあ止めるか」


「でも、バロンて音はどの爵位よりも格好いいんですよね。難しい所です」


「どうしようもない奴。それじゃ、調査団の方は頼むな」


「あっ」

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