表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/104

てめえには誇れる面子なんて無いんだよ

己の面子にこだわり、己の面子を保つためならば何だってする男。

その結果のギルマスが誇る己の面子が、小悪党達を顎で使う権力だったり、弱者に凄むための理由だったり、己の懐を温かくするための手段だったりと、情けないことばかりだけどね。


だけど面子って、そういうモンじゃないだろう。


だから言ってやったのだ。

お前に守らねばならない面子があったことがあるのかよ、と。


俺は貴族的な冷笑を貼り付けた顔をみせつけながら、ギルマスへと一歩踏み出す。

同年齢の子供どころか俺の年齢半分な子供にも負ける俺だが、目の前の元冒険者で現ギルマスだという男は怖くはない。

デニーもエルマー達もここにいなくても、俺はきっと脅えないだろう。


彼の片手で俺の首の骨など簡単に折れるだろうけれど、俺はゲオルグ・バルバドゥスの子供なのだ。こんな矮小な男に脅えたり頭を垂れては、絶対にいけない。


大柄なギルマスの前に立てば、俺と彼は大人と幼児の体格差になるが、俺は顎も上げず目線だけを彼へと傲慢に向ける。


「てめえがよろしくやりたいだけで、てめえの出した糞も片付けられねえてめえに、そもそも面子を語る資格なんてないんですよ」


「こ、このガキが」


ギルマスは俺を罵倒しかけた口を憎々し気に噛みしめた。

それは己の品位を隠すためでもない。

俺が台詞を吐いた途端に上がった、おおーとエルマー達による俺への野太い歓声に怯んだわけでもない。


ギルマスはきっと冒険者時代も、こうしてギルドになった今だって、貴族様には頭を下げるしかないって現状を卑屈にも受け入れ過ぎているからだ。

俺を罵倒したり、あるいは拳を振るいたくとも、俺自身が貴族であると嗅ぎ分けているからこそ体や意識が勝手に反応して踏みとどまっただけである。


殆どパブロフ犬みたいな反応だろう。憐れなり。


そんな卑屈な自分と、そんな自分を掘り起こす俺が憎くて仕方がない?

怒りで血管がぶち破れそうだって、彼がスキンヘッドだからよくわかる。


「こうして調教されきっているくせに」


ガチュッ。


本気で血管が切れた音が聞こえるとは。

俺はギルマスがスキンヘッドでいた理由を、一見で理解させてもらった。

ギルマスは自在に、頭部の毛穴から、血を武器として吹き出すことができたのだ。


「俺の固有魔法だ。俺の血は一生お前に貼り付いたままだ」


血液を針のように尖らせ硬化させ、敵の体に貼り付ける?

咄嗟に顔に翳した左手の甲には、ギルマスの真っ赤な血が付いていた。

液体の血がシールみたいに貼り付いたって、ニードルパックみたいな感じ?


「キモ。お前は俺を汚したかっただけか」


それでこれはくっつくだけ? 確かに俺は自分の手にオッサンの血が貼り付いたことが、それはもう凄い生理的嫌悪感で一杯だけどね。キモいと叫びたい自分を抑え、俺は俺の後ろへとついたばかりのデニーへと手を差し出す。


「は、ははは。ああ汚してやった。そいつでお前の左手を、俺はいつでも吹き飛ばしてやれるようになったんだ。俺の気が向くままに、いつでも、だ」


血を爆発させる? どんな化学反応を魔法というもので起こしているんだ?

爆発は別の魔法で、血は単に自分の体の一部をGPS代わりにできるっていうスキルなだけか? そんなスキルこの世界に存在してたっけ?

俺は自分の手へと視線を向ける。


――デニーが水筒の蓋を開ける所だった。


「ハハハ。洗ったって落ちやしねえよ。拭い去るなんてできないぞ。それは俺からの呪いだ。俺が死のうとそいつは消えない。何しろ」


「何しろ、あなたも翼竜の血を飲んだからですね。――よし納得だよ」


「な、どうして!」


ギルマスはたじろいだ。何しろの続きを俺が言い当てたからじゃない。

デニーが俺の手に注いだ水筒の水で、俺の手の甲の汚れがみるみると洗い流されていくのだから。


「なぜだ」


水筒に入っていた水は聖水だ。凍傷防止用に肘までデニーに塗りたくられている蜜蝋クリームは、小型魔獣除けできる聖魔法が入っている教会の高級品である。


借金返し終わったその足で、そんなもんを俺の為に買って来たデニーには、俺は少々うすら寒さを感じるばかりである。ケヴィンも実はギードに少しは思う事があったんじゃないだろうか、そんな考えが湧いたぐらいだ。だが今回に限っては、彼のお陰でギルマスのキモスキルを防げたと感謝し労うしかないだろう。


「デニー。最高だよ。君は先見の明があるね」


「とんでもないことでございます」


恭しく俺の手から雫をふき取り、俺の手を自分の額に軽く押し当ててから後ろに下がるとは! 演技どころか俺の場を壊してばかりのエルマー達に慣れている俺には、デニーさん、演技が過剰ですよ!


デニーのお陰で俺は内心恥ずか死ばかりであるが、せっかくの場を壊してはいかんと、それはもう漫画の悪役令息みたいな笑顔をギルマスに向ける。

顔をとっても歪めてしまったギルマスの心の声が聞こえそうだ。この男娼が、と。


「あなたが愚鈍なのは、あなたの内側が腐れ爛れてしまったせいですね。翼竜から得た呪いの血に、あなたはどんな歪んだ欲望を注ぎましたか? 不老を願った側妃はアンデットになってしまいましたが、あなたはまだ生きていますか?」


「俺はアンデッドじゃない」


「アンデッドですよ。これからなります。王都のアンデッド騒ぎをご存じない? 死んでいるのに死んでいない、そんなものにされた翼竜は、痛みと苦しみで人類を呪っておりましたよ」


「うぐっ」


ギルマスは己の口元を押えた。

彼は思い出したのだろう。

欲に塗れたまま、冒険者が持ち込んだ竜の心臓から滴る血を舐めたことを。


いや、普通にショットグラスで飲んだのかもな。悪事の共犯である印として、互に裏切ることが無いようと、互いを見合いながら竜の心臓から流れる血を注いだグラスをあおったのかもしれない。

けれど彼は直ぐに自分を取り戻した。


「……ふは。ははは。化け物になるから良い子におなり? ガキを戒めるババアかよ。俺を誰だと思っている?」


「お馬鹿様?」


「ぷくく。酷い子」

「きさ、きさま!」


「だって、自分は大丈夫だって言い聞かせるみたいにして信じているんだもの。心を折って悪いけど、なるよ。あなたはアンデッドになる」


「なるわけねぇ」


オオ断定。翼竜の血を飲んだ、そこは否定しないから確定か。

ならないと言い切ったのは、一緒に竜の血を飲んでもアンデッド化していない仲間の顔を思い出したのかもしれないね。それから、マンドラゴラで作る薬の名前を思い出し、そこに活路を見出したのかも。


教えてあげるべき?


マンドラゴラで万能薬として名高い薬ができるらしいけど、その薬には状態異常を解除する効能はないってことを。マンドラゴラの効能は、生命活力の向上、つまり滋養強壮だ。いや、マンドラゴラによってダンジョンの宝箱から時々出るポーションが出来るなら、やっぱりマンドラゴラは素晴らしい薬草か。


――ポーションでもアンデッド化は治せないけど。


そうだよ、治せないのに、側妃やこいつらのような浅はかな奴らが翼竜の心臓を求めたせいで、王国中にアンデッドが闊歩する世界になったんだよ。


アンデッド災厄で学園から逃げ出した生徒達が、逃げ込んだ領地で発症してアンデッドを増やしてしまっただけじゃ、一気に王国中にアンデッドが発生した理由を説明できないのだ。


説明できなかった部分は、こいつのせいだった。


自分の株を上げるために有名どころに竜の血を配ったんだ。


こいつのせいだ。


あちらの領地こちらの領地と、時限爆弾を抱えた冒険者やギルド職員達が散ってしまっている。


こいつのせいだ。


カリンナでは買えるはずのない毛皮のコート。

あの女は言った、どれだけの難病患者がマンドラゴラを待ち望んでいるのか、と。


世界こそ崩壊のカウントを始めている。


こいつのせいだ!!


俺の視界がぎゅんと絞られた。

怒りで眩暈が起きた感じだ。


「いつだって浅はかな奴が世界を壊す。お前みたいな、声が大きく力こそすべての、数が揃えば簡単に違反行為に手を染められる、自分さえよければの、そんな奴らが世界を台無しにするんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも更新を楽しみにしています。 続きが気になって気になって、更新されたかなと毎日チェックしています。 面白い小説をありがとうございます!ブリュー大好きです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ