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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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剣には鍛冶師魂が必要

「ほら、ブリュー」

「説明して貰おうか」


今までガーレン商会が卸していた一般兵士への支給品である鋳造剣がなぜ不味いのか、ブルーノとクレメンスは今すぐに知りたいというオーラを出している。

だけどなぜ、とっととガーレン商会が卸して来た鋳造剣とホラルドが作る鋳造剣の違いを説明しろって、俺ばかりを脅すのさ。


専門家に聞いてよ。


そう言い返したいが、マズいと分かっていて正直に説明するはずもないか。

鍛冶屋組合長(ゴーシュさん)だって、「余計な事を言うんじゃねえぞ」というオーラを出しているし。


俺に。


なので俺は彼等の圧に屈することにした。

もちろん、ブルーノとクレメンスの圧に屈するという選択だ。今後の付き合い考えれば、俺がゴーシュさんと付き合う事など無いと思うしね。


さて、ブルーノとクレメンスがこのように殺気立っているのは、彼等こそ部下の命を守るべき立場だからだ。

魔獣騎士団って特殊で、普段の魔の森での魔獣討伐業務ではオズワルドを頭に彼等で小隊組んで動いているんだけど、いざという時には騎士である団員一人一人が指揮者となって一般兵を率いるのだ。彼等は一人につき二個小隊ほど、つまり十二から十五名ほどの一般兵を指揮するのである。


大事な兵士が命を預ける剣が粗悪品だった、そんな疑いがあるならばちゃんと聞いておかないとな、という考えにブルーノ達がなったのは考えるまでもないこと。

オズワルド入れて二十五名しかいないのに、団であるのはそういうことだ。


ちなみに、現在魔獣騎士団の騎士数が二十五名なのは、先日騎士になれたケヴィン含める見習いと新人を指導担当してる方々の数である。

凄いよな。普段はオズワルド含めて十人体制で好き勝手している癖に、スタンピードが起これば三百人程の兵士を抱える大隊になってしまうなんてさ。


…………あれ?

改めて気が付いたが、えっと、三百程度?


「いざという時でも三百人程度なのに、団を名乗るのはおかしくないですか?」


「ブリュー。俺達にムカついたからって喧嘩売るのは止めような」


「ぷく。だけど確かに! だ」


「クレメンス。そこは追従しちゃ駄目でしょ。せっかくブルーノが叱ってるのに」


「ホラお前達。ブリューの攪乱に惑わされてどうするの! それでブリューはお尻を叩かれたくなかったら、質問にサクサク答える!」


結局悪いの俺かよ!

エルマーの言う通りにするのは癪だが、俺はふうと息を吐きだし、ホラルドとそれ以外の鍛冶屋の作る鋳造剣の一番わかりやすい違いを言葉にした。


「ゴーシュ達は金型鋳造していて、ホラルドの家は砂型鋳造なんだよ」


「「「「だからなに?」」」」


「これから言うんだって。あのね、砂型鋳造は型が砂だから型から出した後は表面がざらついているし精度が悪い。ついでに鋳造するたびに型を作らなきゃで大量生産ができない。金型鋳造だと型にかける初期費用は大きいけど、大量生産できるし精度に優れている。金属の硬度も高くできる」


「そうだ!!我らの剣はホラルドの剣よりも強い! 今さら我らに仕事を奪われたと嘆いて嘘八百を並べているのかと思えば、坊主、貴様はちゃんと見る目があったようだな。ガーレン。確かにこの坊主が何度も言っていたように、悪いのはホラルドだ。ホラルドに騙された辺境伯に知識が無かったということだ!」


ゴーシュは嬉しそうに大声を上げる。

鍛冶場で大声は当たり前なのか、ゴーシュの声は頭に響く。

俺をイラっとさせるぐらいに。


でも、罠にかかってくれてありがとう。

わざわざ砂型のデメリットを先に言ったのは、この先の落とし穴に落ちてもらうためだよ。


「金型だと型から出した後は磨きをかければお終いですよね」


「ちゃんと焼き入れるさ。そうしないと剣に強度が出ない」


「素晴らしい! ではホラルドが砂型に拘る理由も理解されてますよね」


ゴーシュは、わかりやすくハッとした顔をしてくれた。

俺は彼ににっこりと微笑んだ。


「お、おい、お前は」

「ホラルドは型から外した時点で剣の形をしているだけのものに、焼き入れと焼き直しをいれて剣へと昇華させるんですよ」


ゴーシュが奥歯を噛みしめた音が聞こえた気がした。


そうなんだよ。

辺境伯(アルブレヒトさん)がホラルドの剣を絶賛した理由、それは、若かりし頃に一兵士として使っていた支給剣と同じだと気が付いたからなんだ。


「アルブレヒトさんはね、ホラルドの剣の方が鋼に粘りがあって良いと言っていたよ。これぞ、砦の兵士が掲げていた剣だと」


「粘り、など。強度で言えば」


「そちらさんがシュミッド家(ホラルドさん家)から兵士用の剣の納入利権奪ったのは、シュミッド家が作った剣をそちらさんで作った剣で折って見せたからでしたよね」


「そ、そうだ。魔獣に対応するには強度が必要だろう!」


「そうだ。ゴーシュの言う通り。優れた商品であることをわかりやすく見せただけだ。それに、ホラルドが辺境伯に差し出した剣こそ普通の鍛造剣じゃなかったのか? 見本として別物を見せるのは、商売人がよくやる手管だ」


「よくある手ですか。ホラルドの剣の腹に硬いだけのなまくらをぶつけて叩き折ってみせたのも、そんな手管だったのでしょうか。どんな剣も腹に圧を受けるのは弱いとわかっていての行為。詐欺ですねえ。知りませんは通じませんよ。その場合、剣の知識もない商人が剣を売っていたなんて不思議な話になります」


「「うぐっ」」


「普通は剣の良さを比べる時は試し切りだと思いますよ。実際に兵士の方々に振ってもらうとか。まあ、それをしたら、切れ味も耐久性もホラルドの家の剣の方が勝ってしまうとわかっているからこそ、その方法を取ったのでしょうけど」


ホラルドの親父さんから砦利権を奪う時、ガーレン商家とゴーシュ達はちょっとしたガマの油売りみたいなデモンストレーションをやったんだって。剣を空手の瓦割みたいな状態に置き、一番剣の弱い所に鉄の棒を思いっ切り叩きこんだら?

技物の日本刀だって俺は簡単に折れると思うけどね。


で、当時の武器係がガーレン商会のデモンストレーションに騙され口車に乗って、剣の仕入れ先をシュミッド家からガーレン商会に変えたということだ。

けれど、当時の武器係は知らなかった。

金型鋳造だと砂型鋳造によって得られる粘りが出ない、ということに。


自動車部品に必要な硬さなど、剣には必要無いんだよ。


「だ、だが、ホラルド一人で砦への納入が間に合うものか」


「彼がかつての工房を取り戻せば、そこで働きたいと願う弟子も集まるでしょう。それよりも、あなた方は契約違反の違約金に脅えるべきですよ。磨けば完成に見えるからと型から出してお終い、そんなあなた方の剣づくりで契約書類で約束された強度は保てたでしょうか。辺境伯は、それはもうお怒りですよ」


「そ、そんな。いったい、いったいどうなるんだ」


ゴーシュはがくっと膝を地面に打ち付けた。


ちなみにヴァルターによると、アルブレヒトさんは未だかって無いほどの上機嫌なのだそうだ。アルブレヒトさんはホラルドの店に入るなり店内で陳列されていた鋳造刀に子供みたいに突進し、「これだ!」と叫んで勝手に剣をブンブン振って喜んだそうだよ。

ホラルドの説明とホラルドの店にあった鋳造剣で、一般兵士用の剣がすぐにぽっきりと折れる謎がまるっと解けたんだそうだ。


けれど辺境伯の上機嫌はこれが理由でなく、自分用の鋸造りの剣を発注しちゃったからである。


酷いよね。

辺境伯とヴァルターは、己が支配者だという強権を使い、魔獣騎士団の注文の横入りもしちゃったんだから。


ヴァルターがダンジョンから帰ってこないのも、新しい剣での魔獣狩りに嵌ってしまったからかもな。それでエルマー達が帰って来ちゃったのは、空気を読んで順番を譲ったからまだ鋸造りの剣が手元に無い、からであろうか。


「これもそれも」


あ、俺は終わらせた気でいたが、まだ終わっていなかったようだ。

ガーレン商会の奴が恨みがましそうにして、俺にではなくギルマスを睨んだ。


その理由は分かる。

ホラルドが砦のお抱え鍛冶師になったことだけじゃなく、俺が開墾した畑に金塊が埋まっているようにしか見えないからだろう。

商人でしか無い彼は、自分が失った損失が数字となって良く見えるのだろうさ。


さあ、仲間同士で責め合い喰い合ってもらおうか。


俺は思うんだ。

砦が簡単にスタンピードに飲み込まれたのは、兵士の剣が実用に耐えない品質だったから。そんな剣を砦に納入し続けた、金儲けだけの商会と誇りのない鍛冶屋のせいだって。

そして、ワイバーンを産むことになった翼竜討伐を冒険者に依頼したのは、誰が側妃から受けて誰に発注したんだろうね、と。


俺もギルマスを真っ直ぐに見つめた。


「な、なんだ」


「何でしょう? 言いたいだけかもしれませんね。お前に守らねばならない面子があったことがあるのかよって」

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