ボッチな俺に千客万来
オズワルドとヴァルター達は、約束の刻限を過ぎても戻って来なかった。
帰れない状態どころか、なんかこのままいけば踏破できる感じがするから、と言って、オズワルドもヴァルターも二人して帰宅拒否なんだそうだ。
どこの門限破りの小学生の言い訳だよ。
だけど仕方ないかな。
仕掛けあり、なぞかけあり、弛んだ気を引き締めるボス戦もあり、と、改めてダンジョンを考えてみれば、アトラクションゲームそのものである。
リトライできない命懸けだけどね。
だから二人は命懸けでダンジョンに挑んでくれているんだからと自分に言い聞かせるが、俺の脳みそは勝手にパチ屋の台から動かなくなったオズワルドの姿を映像化してくれた。
くっそ、似合い過ぎだよ。そんで、もうすぐ来るからお前の一万貸せ、とかヴァルターに強請っちゃってんだよな。もうそんな絵図しか俺の脳みそは生み出さないから、命懸けの懸が賭けにしか変換できないよ。
「あ~」
「そう。あ~って感じ。団長も次期総督も嵌っちゃってさ、いちいち戻りたく無くなったみたい。それで俺達だけひとまずシフト制にしてみた。ダフネ達がまだ残るっているんだし大丈夫でしょ」
エルマー、いい笑顔だな。
彼の後ろのブルーノとアルバンに、クレメンスだっていい笑顔だ。
魔獣騎士団の文字書ける組だけが戻って来た件について、こいつらって大人なんだよなって俺は思った。賢くて汚い大人だ。書類仕事は誰かがやらねば滞る。ならばと彼等が貧乏くじ引いたみたいにして処理してくれるが、その実彼らは自分に都合の良いスケジュールを組み立てて自分の分の労働を軽くしているのだ。
誰もが嫌がる外回り営業に名乗りを上げた奴が、映画館で長い休憩取っていたなんて感じだ。けれど要領いい奴は、ちゃんと営業ノルマは達成してんだよな。
だから誰も何も言えない。
見習い研修所でエルマーが指導教官してなかったのも、これが理由だろう。
無駄に元気な十代の少年達の指導に引率なんて、面倒なだけの仕事だ。
エルマーがするわけないのだ。
けれどマンドラゴラを一人寂しく植えてた俺を、エルマー達がわざわざ迎えに来てくれたならば、俺は彼等の心遣いを嬉しく思うばかり。
なぜならば、俺がぼっちで寂しく畑に取り残されていたからである。
(デニーはいるけどさ)
マンドラゴラの即死攻撃を目の当りにしたせいで、もともと臆病なリーザ達は脅えちゃった。マンドラゴラの鉢を持つどころか近寄れなくなったのだ。だから優しき俺は、リーザ達を(俺が奴らに即死魔法を展開させたくなる前に)早帰りさせてやったと。
それでもって俺は、全て植え終わって空になったカートを見た瞬間に気が付いたんだよ。
園芸カートの中身は何も無い……何もないじゃないか!
砦からお迎え馬車を呼ぶ信号弾、あいつらが全部持って帰っちゃった、と。
今日はデニーも俺と一緒に馬車の旅だったんだよ!!
歩いて? 待ち合わせ場所まではここからすぐだけど、そこから砦までの道のりってかなりあるんだよ。
「どうしましょう?」
「どうしたらいいんだろうな」
こんな状況だったので、俺は実はエルマー達はウェルカムなのだ。
よって俺もエルマーに負けず劣らずな良い笑顔を作った。
「エルマー達が無事で良かった。砦に戻るんでしょ。俺達も一緒に帰るよ」
「ぷっふふ。置いてけぼりっ子の強がりが痛い!」
「エルマー言ってやるなよ。俺達の姿を見た時の、あのホッとした顔!!耐え切った腹筋が無駄になるじゃないか」
「ブルーノこそひどい。俺は空っぽの園芸カートをじっと見つめているブリューの姿に、例えようもない被虐心が湧いたというのに」
「アルバン。本心隠して。庇護心ってところを被虐心って言っちゃってるよ。ぷぷ。確かに、憐れで可愛かったよね。あっはは。途方に暮れたブリューが、園芸カートに乗りたそうにしているの。ほら、クレメンスもなんか言えよ」
「ぷくくく。む、むり」
「デニー、こいつらに即死魔法お見舞いしたい」
「そしたら帰れなくなるから我慢しましょう」
「デニーまで!!」
「ああ、そうだ!!」
エルマーが楽しそうにパチンと両手を打ち合わせた。
思い出したよって感じで。
「どうしたの? エルマー」
「ここの手前で死体が転がってたじゃない? あれどうしたの? 死体の自称身内が、なんか激おこでね、ブリューを告発するぞって息巻いてたよ」
「告発? 何が起きるかわからない魔の森で死んだんでしょ。自然死だよ」
「おい、エルマー。自然死って言い切りやがったぞ」
「ねえ。手を下しましたって証言貰った感じだよ。いいの? エルマー」
アルバンもブルーノも今日は煩いな。クレメンスなんぞ頭が痛いって感じだぞ。
で、何が良くないのかって、俺もエルマーを窺うと、なんか落第点を取った生徒にダメ出しし始める教師みたく首を横に振ってる。
「ええ! 俺なんかした?」
「お馬鹿っ子。知らないって答えればいいものを。お尻ぺんぺんで済まないぞ」
「やはり、そのガキが手を下したんだな!!」
俺達は一斉に大声の大男へと顔を向けた。
魔の森とオズワルドの私有地はわかりやすく立木を残してある。鬱蒼とした空間から葉っぱや蔦をかき分けてウチの畑に入り込んできたのは、いつぞやの冒険者ギルドのギルマスだった。あの強面の彼は泣く子も心臓発作起こしそうな脅し声を張り上げて登場したくせに、和気藹々だった俺達六人組が途端にすんとなった無表情で一斉に顔を向けたからか、なんかびくっとしちゃったよ。恰好悪い。
けれどすぐに取り繕ったのは、彼は一人でやって来ていないからだ。
彼の後ろからは、五人の男達がぞくぞくと続いたのだ。ひと目で冒険者とわかる護衛役らしき図体デカい男三人と、太っちょと痩せぎすの商人風中年男の二人組という団体様が。
商人風の中年男達は俺はよく知らないけれど、たぶん鍛冶屋のホラルドと園芸屋のモベゼルビュ達には顔見知りの奴らのはずだ。
なぜならば、背が低く元は筋骨隆々だった太っちょは、鍛冶屋を紹介して欲しい俺に門前払いをくらわした冒険者ご用達店鍛冶組合の偉い奴だし、痩せは国内で手広く商売をしている大商人だからだ。
俺こそよく知っているのになぜ知らないと言うかって?
俺と商売をしようとしなかった奴らなど、俺が覚えていてやる必要などないじゃないか。でもこの二人が俺を門前払いしてくれたお陰で、俺はホラルドと彼の紹介でモベゼルビュに出会えたのだから許そう。
「何を貴様は!」
あ、俺は感謝のあまりギルマス達に胸に手を当て笑顔を向けていたらしい。
エルマーが、煽ってる煽ってると煩いが、俺は煽ってなどいない感謝ばかりだと冒険者ギルドのギルドマスターに伝えてやるだけだ。
アルバンとエルマーは柔らかい喋り方。
しかし、エルマーはオルディアート国語だが、アルバンはデュッセンドルフ領訛りあり。
ドイツ語訛りありフランス語、みたいな感じ。
そのせいでブリューに、この世界の言語「カッコイイ」と再認識させる。
ブルーノさん発音はアルマンよりで、喋りはさばさばした感じ。
今回腹筋が耐えられなかったクレメンスは、ばりデュッセンドルフ訛強し。




