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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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面倒なお人が手下を連れてやってきた

マンドラゴラ植えを監督する俺に、護衛のデニーが同じ護衛のベリンダを隠してはどうかと囁いた。俺もそれで俺達を探っている奴らの気配を知ったので、デニーも隠れてはどうかと囁き返す。


「俺は大丈夫では?」


「ハハハ。実力見せた君を侮る奴はいないでしょ。さあ、隠れて」


「大丈夫ですか?」


「これで終わりにしたい」


これは俺の本意だ。

俺もデニーもこの二週間魔の森に入りっぱなしだったのは、マンドラゴラの採取もそうだけど、家にいたらカリンナの攻勢を受けることになるからだ。


アーニャやヘレン達が言うように、カリンナは自分で動かずに人にやらせる。

デニーと懇意の宿屋の女将がデニーに追い返されないのをいいことに、手すきの時間に我が家にやって来て「助けてあげなよ」と口説く口説く。俺もデニーも女将が我が家を午後のお茶会用にしているだけのような気がするが、とにかく、我が家にやってくる女将の名目を無くさせないと彼女の訪問は終わらない。

だから、今日この場で原因に会えるのは良いことだ。


「終わりますかね」


「終るだろ」


デニーはふうと溜息を吐くと、ベリンダの方へと歩いて行った。


「ベリンダ。ちょっと話がある」


デニーはベリンダに話しかけ、ベリンダを誘導して森の木々の中に消えた。

それから三分後、俺達を伺っていた女一人と男二人の団体様が姿を現した。

男達はひと目で冒険者とわかる格好だが、女は彼等とは一線を画していた。


艶やかな黒髪を結うどころか下ろしてなびかせ、見るからに高価で新品らしい豪奢な銀色狐の毛皮の飾りが付いた黒色のマント、という淑女然としているのだ。


今の彼女の姿を見て、元騎士なんていう人はいないだろう。

その後ろに従えた冒険者達が、名前は忘れたが見覚えのある小悪党だった奴らで、なんだか特撮ドラマの女幹部がやってきたみたいに俺は感じた。


それにしても、カリンナが羽織るマントは、金貨何枚必要なものだろう。

後ろの男達には確実にマントを買ってやれる甲斐性は無いはずだから、カリンナはそれを自分の持ち金で買ったのか、金満な誰かに買って貰ったのか。


突発的な何らかの高収入を得たのかな。

何かの商談で得た、捕らぬ狸への前払い金みたいな。


俺はカリンナに視線を向けたが、すぐに彼女から視線を外した。

伯爵家三男の俺として、彼女に話しかける必要も、彼女を認識する必要性も感じないからである。話しかけねば事態が動かないのはわかるけど、怠いし。

それにプライドの高い彼女は自分が無視されればされるほどに、自分へ注意を向けようと動くのだ。ならば勝手に躍らせておけば良い。


「まあ、まあ、まあ! あなたはヴァルター様のご帰還をお待ちかと思っておりましたが、こんな場所で畑仕事をなさっていたのですね」


無視。


「ブリュー様。あなたはご自分が何をしているのかお判り?」


無視。


「あなたはせっかくの財を土に埋めているのですよ。マンドラゴラを掘り出すなんて功績を作ったのに、畑に埋め直すなんて全くの無駄ですわ。わかりますけれどね、どこも買い取ってくれなかったから仕方なくでしょう。でもご安心を。私がギルドと話を付けました。ですので、さあ、この馬鹿な行為は中止になさってください。せっかくのマンドラゴラです。この薬草を心待ちにしている方々がいるんです。今回は私へ半分の権利を頂ければ結構ですわ。売れてお金になったのは、私の交渉のお陰ですものね」


無視。


「あら。お気に召さない? それでもあなたの頑なな行動のせいで、これから失われる命のことをお考えになって。マンドラゴラで救われる命がありますのよ」


無視。


「仕方がありませんわね。私が鬼になって動くしかありません。さあ、マンドラゴラを無為に失う前に私達に渡しなさい。いいえ。頂きますわ」


カリンナの精神は鋼なのか、そもそも彼女こそ俺を物の数に入れていないのか。彼女は自分の行動の正当性だけを訴え終るや、己の欲望に従って動き始めた。

マンドラゴラの鉢を俺から奪い、勝手に交渉したらしい恐らくも何も冒険者ギルドに売りつけるって行為の前半部分だ。


俺は事の成り行きを、ほけっと見守るだけとなったリーザ達に向け、右手を軽くひらんと振った。

はっとした彼女達は手に持っていた鉢を園芸カートに戻し、そそくさと園芸カートから離れて畑の隅っこの所へと逃げた。


手に持っている奴ぐらい持って行けばいいものを。


畑一枚分、横約七十メートルに縦が約百メートルほどのサッカーピッチ一枚の広さに植えていく為、マンドラゴラは二十四株用意した。リーザ達が抱えていた四鉢分を引いたとしても、まだ残りは二十鉢もあるのだ。


「躾をまだ覚えていたみたいで嬉しいわ。そうよ。犬ころはひと様のものに手を付けてはいけないの」


真っ赤な紅を塗った唇を笑いに歪めて、カリンナこそ無人となった園芸カートへと歩いていく。もちろん彼女の後ろに続くのは、俺に並々ならぬ復讐心を抱いているであろう、現在ギルドで奴隷働きをさせられているなんとかって奴らだ。


なのにあいつらは俺をガン無視だ。

俺は吹き出しそうになった。あいつらこそ俺の躾を覚えていたようだ、と。


そしてあいつらとの顔見知りが、俺以外にもいたようだ。


「何が犬ころだよ。お前こそだよ。お前のことは覚えて無くても、このリーザのことはヴァルター様は覚えていたんだってさ」


「おーいおい。見たことがあると思えば、お前はアーニャかよ。相棒に捨てられたアーニャ。ハハハ。だけど安心しなよ。お前の相棒もちゃんとうちのアーニャが美味しくいただいて捨ててやったからな」


「ひゃはは。捨てたんじゃないよ。俺達の為に囮になってくれたって奴だ。ああ、初恋に溺れた馬鹿の末路は忘れない。あたしの為に囮になるんだよって、腹をさされて蹴っ飛ばされて。ほけっとしたまま喰われてやんの。ひゃはは」


「おまえら!!」


アーニャが飛び掛かろうとしたが、リーザにジゼットがしっかりと彼女をホールドしてくれた。ついでにさらに後ろへと退いてくれた、が。


ヘレンが前に出て来てた!


「カリンナ!!そ、そんな屑と仲が良いなんて、お、堕ちましたね!」


「堕ちた? 何を言うの? 彼等はギルドからお借りした手伝いの方達。浅ましいのは、自分の楽な生活の為に再婚相手を探すあなたでしょう」


「楽な生活のためじゃないわ。す、好きになった相手だからだよ。あなたが誰にも愛されないのは、そ、その、そその性格だよ。私に再婚話が出た時に、金がない男の食いものにされるのは可哀想だからって言い訳したけど、金が無いからこそ助け合って家庭を作っていくもんなの。最初から男の懐具合だけを見る人間なんか、誰も信頼するはず無いじゃない」


「煩いわよ。本当の愛があれば、あの男はあなたを待ったはずよね」


「ディーンはあのあとすぐに流感で死んでしまったよ。私と結婚していれば、か、看病して、し、死なせずにすんだのに!!」


「あら、ご愁傷様。そんなにすぐに死ぬ男とじゃ、結婚しなくて良かったじゃない。誤解ばかりで悲しいけれど、私はあなた方が少しでも良い人生を送れるように考えてあげていたのよ」


すごいな、カリンナ本気で鬼畜だよ。

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