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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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ダンジョン突入組の帰還を待つ間に

オズワルド達のダンジョン発見から今日の突入決行まで、実は二週間ぐらいは経っている。オズワルド達が万全な準備を完了するまで、そのぐらいの時間が必要だったのだ。


正しくは、ホラルドに頼んでいた剣の出来上がりがね。

ということで、新しい剣を手に入れた隊長クラス共までがダンジョンに悉く突入して行ってしまった。そのせいで取り残された恰好の副団長のハッセルホフは、砦での見送りの際に魂が抜けたような顔となっていた。


彼の苦悩は、わかる。

だって今回突入した奴らが全員死んだら、副団長のハッセルホフが、彼一人で、一から組織を組み直して指示を与えなきゃいけなくなるんだよ? ハルバートとバルトリューは残ってるけどね、彼等は糞真面目過ぎてエルマーやブルーノのように柔軟に動けるタイプじゃないし。


俺はぎゅうと拳を握る。

ハッセルホフを思った事で、俺が実は正確なことをオズワルドにもヴァルターにも伝えていない、ということを思い出して心苦しくなったのだ。


けれど仕方が無いじゃないか、と自分に言い聞かせる。

正確な事を伝えたせいで、ギリシャ神話のオイディプスのような結果を招いちゃいけないだろ。オイディプスは父親を殺して実母を娶るという予言の為に両親に捨てられ、そのせいで予言と同じ末路を辿ることになった、という有名な悲劇だ。


では、俺は何を黙っていたか。

スタンピードで領の半分が魔の森に沈み、ヴァルターが砦の再編をするのは事実だ。嘘は辺境伯家の生き残りがヴァルターとケヴィンだけ、という所だ。


その時点で辺境伯は深手を負っていても、まだ亡くなってはいない。

アルブレヒト・デュッセンドルフ辺境伯が亡くなるのは、ケヴィンの処刑について王都に呼び出されたその道中にて、なのである。


そのこともヴァルターは強く後悔していた。

父親(アルブレヒト)の傷を見せて王都の貴族達の同情を買い、閉鎖された領への支援とケヴィンの命乞いを狙ったというのに、アルブレヒトが戦える体でなかったことで道中にて襲撃を受けての死を迎えねばならなかったのだから。


「俺は父のようにはできない。俺ではなくケヴィンにあの瞳が受け継がれたのは、神意であったのだろうな。無能な長男など廃してしまえって」


そんな事無いよ。

俺に会いに来たあなたの瞳は、デュッセンドルフの瞳に変わっていた。

それこそデュッセンドルフの願いなんだと、俺は思ったから。


だから、真実を知ったらあなたが、同じ場面で自分こそが行くという決断をしちゃいけないんだよ。あなたは何が何でも生きて、もしもの際はデュッセンドルフの希望として存在して貰わなきゃいけない。


「だけど、ヴァルターは遊びを知らなすぎるんだよな」


ヴァルターは真面目過ぎで、なんでも自分が背負っている。

二十八歳のオズワルドがあんなに弾けているというのに、二十五歳のヴァルターが自分を律し過ぎはいかがな事かと思う。もしもこれから不幸が来るかもしれないならば、特に、ヴァルターは楽しい時間が必要だよ。


「あなたは遊びが過ぎますよ。まあ、あなたに感化されて、ヴァルター様がやんちゃを取り戻したのは良い事ですけどね」


「やんちゃ? まだまだ真面目君だよ。砦の指揮者として氾濫しそうなダンジョンに身を投じたんだ。エルマー達みたいにヒャッハーしろとは言わないが、もう少し、なんか、こう、ね」


「ハハハ。お戻りの際には一皮むけていると思いますよ。団長がいるんです。って、ぷふふ。ブリュー様は酷い。団長が無茶しないようにお目付け役にヴァルター様を添えて、ヴァルター様にはお守り役として団長を添えるなんて」


「あの二人には絶対に生きて帰って欲しいからね」


「ですね。では、我々はやるべきことをしましょうか」


デニーに応えるように、俺はこれからやるべきことの為に仲間達の顔を見回した。

リーザにアーニャにといつものマンドラゴラ採取組と、そんな俺達を護衛する役としてベリンダとデニーという俺を含めた七人だ。


俺は後退させた魔の森の起点となった場所、ブリューの畑第一号(シャンブリューアン)にて、本当に畑づくりをするのである。

植える作物は、今まで採取したマンドラゴラさんだけどね。


計画としては魔の森ダンジョン内の魔獣をそれなりに減らした後、オズワルドは危機的状況だったという言い訳でブリュー畑と名付けた区域一帯を焼くつもりだ。

それで俺がマンドラゴラ畑を作るのは、もしも氾濫が起きてもこちら側に魔獣達を進路を取らないようにとのためである。


それで魔獣の進軍は防げるか?

わからないが、やらずに後悔するよりもやっての後悔を俺は選んだだけだ。


「さあ、植えていくぞ! 目印棒を挿してある場所に鉢を植えこんでくれ」


「だけど、ブリュー様。鉢ごと入れちゃっていいのですか?」


生真面目男に恋慕する十六歳が、ぴしっと右手を上げての質問だ。

彼女はあの日、オズワルドによってヴァルターの執務室のソファに転がされたままとなった。俺もオズワルドも存在を忘れてしまったからね、ヴァルターの部屋に置いてきぼりにしてしまったのだ。そんな哀れな彼女を、ヴァルターが意識が戻るまで見守ってくれたそうである。ヴァルターまじ紳士。


それでヴァルターとリーザが盛り上がるなんてことは起きなかったが、リーザにはとても幸せな時間だったようだ。

その日から彼女は俺の従順な犬に成り下がった(デニー談)。


俺はリーザに関しては、ツインテールから三つ編み結い上げ頭へと凶悪触手を封印してくれた点だけで、俺の奴隷でいようが反逆者となろうが許す気持ちだ。


「いい質問だ。鉢は園芸屋のモベゼルビュ特製のただ土を固めただけのものだ。土に埋めればすぐに崩れる」


「そんなものを作らせられたモベゼルビュは、未だに魔力枯渇で体調が崩れたままだって聞いていますけどね」


「植えるだけポットで儲けたんだからいいの、デニー。ほら、散開!」


俺は手を叩く。

リーザにアーニャ達もぞろぞろと小型園芸カートから鉢を抱えると、サッカーピッチ程度の広さの畑に刺さった目印の場所へとそれぞれが向かっていく。

俺は彼女達を見送った後、デニーが用意した椅子に腰かけた。


採取は俺一人だけが頑張ったのだから良いだろう。この二週間、俺こそマンドラゴラ採取に魔の森で大奮闘していたのだ。


「ああ、寒いけど、気分はいい」


俺はほっと溜息を吐きながら空を見上げる。

トレント系魔樹が消えたからか日当たりが良くなり、冬の曇り空が良く見えた。それでもってとても寒い。


今日はオズワルド達のお見送りの為に毛皮のコートを着てきて良かった。トレント系魔樹は落葉樹に化けるだけあって、生暖かい魔素でも吐き出しているんじゃなかろうか。あいつらが消えた場所はとにかく寒い。というか、通常のデュッセンドルフの気候に戻るのだ。


「ベリンダを一度隠しますか?」


後ろに控えていたデニーが俺に温かい紅茶の入った小型水筒を手渡しながら、俺の耳にそっと囁く。

俺は俺達の護衛を務めているベリンダにではなく、森の入り口の方角へと視線を一瞬だけ動かしてからデニーに囁き返した。


「だね。デニーも隠れた方がいいかも」


狐から油揚げを掻っ攫いたいトンビは、熊や狼がいてはやって来ないだろう。

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