ガーベラの花言葉は「進め!!」
オズワルド達は魔獣を狩りながら、魔の森の深部へ深部へと進んでいた。
俺が安全地帯に置いておいたマンドラゴラの鉢を小隊ごとに一鉢持ち、安全地帯を作りつつ魔獣討伐していたのである。
マンドラゴラをそんな使い方してたなんて、俺は全く知らなかった。
魔獣が全然近寄らない半径十メートルを常に用意できるって、どんな場所でも安心して休養と立て直しができるってことだ。
すごい、マンドラさん。転生者よかチートな存在だよ。
そして魔の森の深部に到達せしめた彼等は終に、森を創りし穴倉の一つを見つけ出したのである。
贄を待って口を開ける、蟻地獄の入り口の如き洞穴――ダンジョンの入り口だ。
オズワルドはその穴にこれから潜りに行く。
「ブリューはついて行かなくていいのかい?」
「足手纏いはイヤですから!!」
語尾が強めになってしまったのは、ぐいぐいと俺の頭を撫でる力が強すぎるからだ。ベリンダさんは自分の手に翻弄される俺に対し、さらに嬉しいって感じでさらに俺の頭をぐいぐい撫でる。
力が強すぎる撫で方で俺の首の筋が違えそうだが、完全なる好意しかないからデニーが止めないんだよね?
俺は側に控えるデニーを見やるが、彼は俺など見ていなかった。
これから出立する元同僚達と談笑してやがる。
「これもブリューのお陰だな。あたしは再び息ができてる」
「ベリンダさん」
「このコートも特別感があってさ。こんな服を着れたって自分を誇らしく思うばかりだよ。ありがとうね。救ってくれて」
「救われて当たり前、というか、あなたほどの実力者を眠らせとくなんて砦にとっては損害でしょうが」
「ありがとう」
ベリンダはくしゃっと笑顔を作った。
誰が肝っ玉母ちゃんだ。
「あなたの笑顔はガーベラが咲いたようですね」
ベリンダは瞳を真ん丸にして、オレンジ色の髪色に負けないくらいに顔を真っ赤に染めた。なんて可愛いらしい人だろう。
「あた、あたしを花にたとえるなんて。あなたは本気でお貴族様なんだね」
「貴族も平民も関係ないですよ。可愛い人は可愛い。そうじゃないですか?」
「こんなにでかくて不細工なのに」
「不細工はどこを見て言うのでしょうか。あなたは可愛いですよ」
「ふはっ。あなたに会えて良かった。あたしはあのまんまだったら、森に火を放って世界を終わらせようとしていたかもしれない」
ベリンダは俺の褒め言葉にはにかんだ実に良い笑顔で、俺の背筋をぞっとしてくれる台詞を吐いてくれた。
しかし、それがもう起こりえないことならば聞き流そう。
弛んだ体に薄汚さからも卒業しているベリンダならば、俺の世界で起きた彼女の歴史など書き換えられたはずなのだ。
そうだ、いまや素晴らしき戦士の肉体だ。
オズワルドに痛めつけられた体が動けるようになればすぐに肉体を調整し始め、今やデニー達魔獣騎士団の面々と並んでも遜色がなくなっている。そしてその体に纏っているのは、俺が今回の作戦の為に町の服屋に製作させていたコートだ。
コートの形は、俺の前世では普通にあったモッズコートである。
表地がアラネ織を使用しているのはもちろんのこと、ライナーのキルト生地をアラネ糸の残糸を混ぜこんだ魔羊の綿を入れて作ったのだ。
これならば現在の軍服と同じぐらいには魔獣の爪や牙からの防御もあり、またどんどんと寒さがきつくなってきたデュッセンドルフの気候にも合う。
俺はオズワルドの生存確率をあげられるならば、あげられるだけあげておきたい。
実際にコートが出来上がってのオズワルドからの感想は、制服よりも腕の稼働域が広くとれるとの事で「動きやすく気に入った」だそうだ。
それで実用性を認められたコートは魔獣騎士団の団員に正式に配られることになり、それどころか、正規兵にもってことになった。
つまり、俺が儲かった。
製作者のガーヴェルさんも。
彼はデニーやオズワルドの服を縫ってくれた針子だが、この度の注文で得た金でとうとう自分の店を開いた。だが店名を「ブリューのお洋服屋さん」にしたのは、正直止めて欲しい。相談受けていたホラルドは止めろ。
さて話を戻すが、コートの完成は現時点では十五着しかない。なので現在着用できているのは、オズワルドにいつもの魔獣騎士団隊長達とヴァルターとベリンダだけだ。
ベリンダがコートをいち早く貰えたのは、バトルロイヤル優勝の褒美ってこと。
ついでに砦の主の辺境伯でなくヴァルター着用なのは、今回のダンジョン突入にヴァルターも参加するからだ。
真面目な彼は結局は王都にダンジョン発見の報を入れた。
内容は「緊急事案によりダンジョン法特記事項に準じたダンジョン突入報告」だ。
わかりやすく言えば、長年未踏だったためにスタンピードの恐れありなので、ダンジョン法にある調査無しで突入できる旨の特記を活用しますよってこと。
ダンジョン法は世界共通法でもある。そこには、ダンジョンを発見しせし者は必ず統治者への知らせ、ダンジョンの調査が終わるまでは探索は禁止と明記されている。
これはその法を作った当時の各国の王侯貴族達が、ダンジョンの宝物の恩恵を自分達こそが独占したかったからである。
ダンジョンでは魔獣などがリポップするので素材を何度も得られるが、ボス部屋以外の宝箱の中身だけは一度しか手に入らないのだ。
だから権力者が宝箱を開ける権利を明文化した、という浅ましい法である。
なのでそんな法のせいで調査前にダンジョンが氾濫し災害が起きた事象もたくさんあり、それで村どころか国が潰れたこともある。
特例は、宝は欲しいが災害の責任は負いたくない権力者の逃げ道だ。
氾濫の恐れがある場合は突入もやむなし。
だがその特記から、「氾濫を抑える為なんだから宝物は無視しろよ」という言外が含まれていることも読み取らねばならない。
どんな世界でも、統治者を名乗る奴らは欲深いんだよ。
「注目!!」
ヴァルターの声が響き、今までがやがやしていた聴衆が一瞬で静まった。
本日のヴァルターは一味違った。
ぴしっと整えた髪に文官風のスーツ姿ではなく、モッズコート姿にバンダナを巻いた無造作ヘア。それで俺が前世時代に見ていたSF戦争映画のレジスタンスリーダーに見えた。決して、砦を再編した時のヴァルターではない。
俺は目尻に滲んだ涙を拭う。
大丈夫だ。彼の隣にはオズワルドが、映画の主役然と立っているじゃないか。
俺が見守る中、ヴァルターは彼と共にダンジョンに潜る面々に、そして、彼等が穴倉に消えた後にセーフティポイントを守るためのメンバーを見回す。
それから、俺と目を合わせ、軽く頷く。
それから。
「これから獣達の名も無き棲み処へと突入する。我らが戻って来た時には、この穴倉には名前が刻まれるだろう。獣たちの墓場と!!」
うおおおおおお!!
野太い男達の咆哮があがる。
俺も腕を上げて叫びたかったが、俺はいつのまにかデニーに掴まれて口を塞がれていた。
「もぐもぐぐぐもぐう!(何をするんだデニー)」
「ここに可愛いは不要ですからね」
「ふふ。君は君で可愛いで苦労していたんだね」
デニーに拘束されモソモソ動くしかない俺の姿を、ベリンダはくすくすと笑う。
口が塞がれていなければ、今の君の方が可愛いよって黙らせてやれるのに。
ガーベラの花言葉は「希望」「常に前進」
オレンジ色のガーベラは「我慢強い」です




